第31話:謎の男、初邂逅
螺旋階段を登る足が、重い。
クロノスを倒した直後だ。体中に疲労が染みついている。
でも——足は止まらない。
「次は何が待ってるんだろうな」
翔が、階段を登りながら呟く。
「とりあえず休みたいです...」
葵が苦笑する。杖を支えにして、一段一段登っている。
美咲だけが、黙って前を向いていた。
いつも通り。背筋を伸ばし、周囲への警戒を怠らない。
「十六階層か」
俺も呟く。
ここから先は、未知の領域。
ループの記憶も、ない。
初めての道を、四人で歩く。
それだけで——少し、心が軽い。
階段を登り続ける。
五分、十分。
塔の螺旋階段は、いつも長い。
その時だった。
上から、人影が降りてきた。
銀髪。
長い銀髪が、青白い光に照らされて揺れている。
挑戦者の格好をしている。
だが——傷一つない。
服も、肌も、髪も。
まるで戦闘などしていないかのように、完璧な状態。
纏う空気が、違う。
他の挑戦者とは、明らかに違う。
圧倒的な——存在感。
四人が、思わず立ち止まった。
男がすれ違いざまに、四人を一瞥する。
紫がかった瞳。感情の読めない、深い目。
「...生き残ったか」
一言だけ、呟いた。
「——は?」
翔が声を上げる。
だが男は立ち止まらない。
そのまま階段を降りていく。
足音すら、ほとんど聞こえない。
「おい、待てよ!」
翔が振り返る。
もう——姿がなかった。
「速い...」
美咲が目を細める。
「知り合いですか?」
葵が俺に聞く。
「いや、初めて見る」
嘘じゃない。ループの記憶にも、あの男はいなかった。
十五階層までの記憶しかない俺には、この先で何が起きるのか分からない。
でも——あの男は、確実に十六階層より上から降りてきた。
傷一つなく。
「なんだあいつ...」
翔が首を傾げる。
「挑戦者だよな? あの格好は」
「そうね。でも——普通じゃないわ」
美咲が腕を組む。
「あの距離ですれ違っただけなのに、私の全身が警戒した。本能的に」
元機動隊の美咲が、本能で警戒する相手。
「...先に進もう」
俺は階段を登り始める。
男の背中が消えた方向を、一度だけ振り返る。
胸の奥に、言葉にできない違和感が残っていた。
あの男は——何者だ。
「生き残ったか」。
あの言葉の意味は、何だ。
答えは、出ない。
でも——いずれ、また会う気がする。
根拠のない、直感だった。
文字数:約2,100字
到達階層:15階層クリア→16階層へ(螺旋階段)
備考:銀髪の謎の男と初遭遇。傷一つない異常な存在。「生き残ったか」の一言を残して去る




