第133話:話し合い(後編)
「陛下の暗殺については箝口令が敷かれており、医師と私しか知りません」
マイルズは頭を下げて言った。フィリクスがその横で腕を組む。
「国民への公表は、今はひかえるべきでしょう。シリルはイヤがるかもしれませんが、革命軍にも知らせてはならない。……そもそも、反乱をする必要性は、すでになくなっているのです」
彼の言葉に、シリルは無言でうなずいた。彼はクリスティアンのことを、すべて信じて動いていたから。
「……反乱、ですか」
マイルズが片方の眉を動かす。彼の目はクリスに向けられていた。
「大丈夫。すべて、可能性の話だから」
クリスは柔らかく微笑んで、1言でマイルズを黙らせる。そしてフィリクスのほうを見た。
「君は貴族だけを集めて、秘密裏に動くつもりだろう? 表向きには、お父様はご病気で、そのまま亡くなられたことにする。それが君の考えだ」
フィリクスは軽く頭を下げる。それは彼なりの肯定だった。
「……お声をおかけするのは、結婚式の準備をする際に、手伝っていただいたかたですか」
「はい。それともちろん、グラファ家も」
頭を下げたまま、彼はジュリアの問いに答える。その声はとても冷ややかだった。
「……ジュリア様。あなたがご自分のお父上と話したいとおっしゃるなら、その席にはあなたもお呼びします。ですが私は出席しません。……足手まといが、増えてしまう」
はき捨てるように告げられた言葉。それはただの事実だった。シリルと違って、裏で策を練ることしかしていない彼には、身を守る力も技術もない。
(……悔しいでしょうね)
そしてジュリアもまた、彼と通じるものがあった。クリスのことを守りたいのに、自分では手が届かない歯がゆさ。それを抑えて、彼女はつぶやく。
「……あなたの思いは、しかとこの胸に受け止めました。ご安心を。私は何よりも、自分の身を守ることを優先すると誓いますわ」
そばにいるクリスが、安心したように力を抜く。その姿を見て、フィリクスは再び部屋を出た。
「密談は、数日後に。遅くとも、5日以内には開かれるでしょう」
最後に彼は、そんな言葉を残していく。そして、シリルとマイルズは壁ぎわに移動して、小声で相談し始めた。
「……ねえ、クリス様。お父様のことを教えてくださる?」
ジュリアもまた、何もせずにはいられなかった。彼女は1番信頼できる人に、必要だと思うことを聞く。クリスは彼女の問いかけに、大切そうに抱えていた紙束を開いてみせた。
「もちろんだよ。グラファ公爵は、アプグラの攻略対象だからね」
そう言いながら、彼は熱心に話し始める。ジュリアはその言葉を聞きもらすまいとして、懸命に耳をかたむけた。




