第113話:ジュリアがいる意味(後編)
「大丈夫。必要だと思うなら、これから知っていけばいいんだよ」
例えば、とクリスは続ける。
「君と僕が結婚する意味。ジェイミー公爵の子供は、君とメルヴィンだけだ。ただ1人の娘を嫁がせる先は、公爵が認めた相手でなければならない。逆に言えば、結婚してしまえば認められるということだ。当然、相手の地位と娘の意志が最優先だけどね」
「……はあ、なるほど」
ジュリアは改めて彼を見た。
「私とあなたなら、何の問題もないのですね」
「そういうこと。むしろ、せっかくの式だから、君には最高の思い出を作ってあげたいな。ドレスも指輪も……ああ、でも。君の中身は男の子だから、むしろ興味がなかったりするかな?」
「……え、あ、いや」
真面目な顔で問いかけられて、彼女はそっと目をそらした。
「なんか、自分でもよく分かんなくて。お前と並んで、恥ずかしくないようになりたいとは思うけど」
「なら、お揃いにしようか。白をベースに、金色の刺繍を入れて……」
クリスはフィリクスに近づいて、ドレスの色や形、式場の装飾について話しだした。残されたジュリアは、シリルと顔を見合わせる。
「いいやつだな、あいつは」
彼が楽しそうにつぶやく。彼女は黙ってうつむいた。
「昔からああだったのか? 姉さんは、前のあいつと会ったことがあるのか」
その言葉が、ジュリアの心に刺さった。
「……いや、ない」
小さな声で、彼女は返す。シリルは不思議そうにした。
「でも、同じ世界で生きてたんだろ?」
「顔は見たことあるかもしれねえけど、そのときは関係なかったんだよ。特に興味もなかったし」
「ふうん、そうか。じゃあ、オレとお前は対等だな」
気軽に言われたことが、トドメになった。ジュリアは床を見つめてため息をつく。
(……オレは前世のあいつを知らない)
考えてみれば、聞いたのはゲームのことだけだった。彼女自身のことではない。
(知りたいな)
気になって、顔をあげる。すると、ちょうどクリスと目があった。
「何かあった?」
首をかしげて、彼は彼女に問いかける。ジュリアは彼のそばに寄って、小さな声で答える。
「……少し、あなたと2人きりで話したくなったの」
「そうか。なら空き部屋を使うといい」
フィリクスの言葉にうなずいて、クリスは彼女を連れていく。部屋を出てから、彼は言った。
「結婚式は明後日だから、不安なときはいつでも言って。僕は君の味方だからね」
「……ありがとうございます」
ジュリアはその対応に、大人の余裕を感じた。抑えた声で、彼女は話す。
「あなたは前から……前世のころから、私のことを大切に思ってくださっていたのですか?」




