第1話:詰んだ
鮮やかな緑色の木々と茂み。色とりどりの花が咲き乱れる、管理された庭園。そこに用意された、真っ白な机と椅子。レースのついた傘の下で、ジュリアは美しい微笑みを浮かべて座っていた。ブロンドの髪に陽の光が反射して、キラキラと輝く。
「……っ!」
そこで、唐突に。急な頭痛に襲われて、ジュリアは片手で頭を押さえた。彼女は丸いテーブルにヒジをつけて、背中を曲げながら苦痛に耐える。
そのとき、肘に当たったカップが動き、皿と当たって音を立てた。目の前にいる金髪碧眼の王子様が、ジュリアの様子を見て慌てる。ベルを鳴らして、彼はメイドをその場に呼んだ。
「どうかなさいましたか?」
「メイベル。彼女の体調が悪いようなんだ。お茶会は中止にして、部屋に戻る。医者を呼んでおいてくれ」
「かしこまりました」
王子はやってきたメイドに指示を出しながら、立ち上がってジュリアの体を支えた。その姿は完璧な、婚約者としてのものだ。
(さすが、「外面だけはいい男」……)
霞む視界に、その様子を映しながら。ジュリアは確信する。ここは乙女ゲームの世界だ。
(しかも、とんでもなく評判が悪いやつ……。大手が初めて出したから期待されてたけど、話がシリアスな上にトゥルーエンドでも救いがなくて、メチャクチャに言われてたんだよな)
その1番の原因が、今そこにいる攻略対象のクリスティアンだ。ノーランド王国の第1王子。剣の腕も礼儀作法も素晴らしい彼は、周囲から認められた正当な王の後継者である。ただし。
(中身はとんでもないドSだけどな! 好きな人間と嫌いな人間とで露骨に態度を変えるし、どのエンドでも主人公を閉じこめる、とんでもねえ男! ほんと、アネキが推してた理由が分かんねえ。とはいえ、聞いておいてよかったな。一応、自分の状況は分かるわけだし)
彼に寄りかかり、椅子から体を起こしながら、ジュリアは自分の手を見つめた。か細く白い、前の自分とは違う指先に。彼女はため息をつきたくなる。
(てか、なんで悪役令嬢なんだ。……いや、このゲームだと主人公でも油断できねえけど。すぐ死ぬし。そう考えると、後ろ盾があるだけマシか。……それにしても。まさか俺が、女になるとは……)
前世のことを思いだす。彼女……いや、彼はスポーツ少年だった。部活の帰りに、乗っていた列車が脱線して、気づいたらこの世界に来た。この乙女ゲームに関しては、姉から聞いた記憶しかない。
(そもそも、この国自体がおかしいんだ。国民に高い税を課して、貴族はその金で遊んでばかり。そのせいで、治安は最悪だしキャラクターの死亡ルートも無限にある。乙女ゲームで、どうしてこんな設定にする必要があるんだよ)
『乙女ゲームなんてそんなもんだよ。とはいえアプグラは、中でもハードな方だけどさ』
問いかけに。脳内の姉は、笑って答える。いっそ、ここにいるのが彼女なら、どんなに喜んだことか。そう思いながら、ジュリアはクリスティアンの力を借りて王宮に戻った。




