第14話 サンマ
客が、サンマのかば焼きの缶詰めを買っていった。
「どうした中原、なんかいいことでもあった?」
週に一度、コンビニのバイトでシフトが重なる佐々木が問いかける。
「ううん、特になんでもないんだけどね」
とは言ったものの、ニヤニヤした顔になっていたのかもしれない。
「今年、サンマが豊作じゃん」
「ああ、ニュースでやってたよな」
「これから毎日、サンマが食べられるーって思ったら、ついね」
佐々木は、苦笑いといった顔をしている。
「なんだよー、サンマ、おいしいじゃん」
「確かにおいしいけどさ、毎日って」
「うれしいじゃん。ここのところ不漁で、値段も高くなってたし。今年は旬のサンマがたくさん食べられるんだよ」
「まあ、確かに、安くなるのはいいことだな」
値段に、佐々木が反応した。佐々木の家庭のことは、たまに話すだけで、深くは知らない。だけど、苦しい境遇にあることは分かる。
「中原?」
急に変なことを考えたのが分かったのか、佐々木が心配そうにわたしの顔をのぞく。
「アハハ。ちょっとボーッとしてた」
「なんだよ、どれだけサンマ楽しみなんだよ。くさはえるわー」
佐々木がにこりとする。
わたしは佐々木を、美人だと思う。その美人の佐々木が、笑いかけると、かわいらしい。
今は、変なことを考えてしまったせいか、顔を直視できない。話題を元に戻そう。
「そうだよ。楽しみすぎ! 今日はお刺身で食べるんだー」
「刺身かー」
「いいよねー。あの身の引き締まった感じ。まさに青魚っていうところが。たまにある骨もコリコリしていてさ。食感が楽しいんだよね」
「刺身は、買ってこないとできないよなー」
「買ってこないと?」
「ああ。でも、今日は帰りにサンマ買って焼こうかな」
「佐々木、自分で焼けるの?」
「できるぞー」
「だって、内臓とか取らないいけないじゃん」
「簡単だろ。頭落として、尻尾の方から頭の方へ手でグリーっとしてさ。あとは、ちょっと出た内臓を引っ張れば、スルッと抜けるぞ」
「うえー」
「中原、そういうことしないと、エビフライが海を泳いでいるみたいなこと言い出すことになるんだぞー」
「なっ、なにー」
「最近は、本当に加工されたものがそのまま動いていたって思う人もいるみたいだからな」
「ちょっと、それのほうがグロテスクだよ……。なんだよ、エビフライが海の中泳いでるって。衣が落ちるよ」
「とにかく、今日はサンマだなー。もうサンマが頭から離れねー」
「いいよねー、焼いたサンマに大根おろしをかけて、醤油をかけて」
「えっ、中原醤油かけるの?」
「いや、かけるでしょ」
「あたしは、大根おろしとレモン汁だな」
「うそっ、薄味じゃない?」
「いやいや、サンマって、結構味が濃いから、しょうゆなんてかけなくてもいけるぞ」
「そうなの? やってみようかな」
「刺身は、たしかにしょうゆをかけないとおいしくないだろうけどな」
「焼いたサンマといえばさ、たまにいるよね、寄生虫」
「ああ、いるな……。これから焼きサンマ食べようとする人に言うことか」
「ごめんごめん。でも、焼いたら大丈夫とはいうけど、やっぱり気持ち悪いよね」
「確かにな。めちゃくちゃいるサンマいるからな……。でも、内臓好きって人もいるよな」
「いるいる。あの苦味がーとか言ってさ。でも、苦いものは苦いよね」
なんだか、サンマのことばかり考えてしまう。今日バイトが終わったら、きっと佐々木はスーパーでサンマを買って帰るのだろう。わたしも、料理できるように頑張ってみようかな。
「あっ、お客さんがきた」
客がししゃもを買っていった。
「コンビニって、サンマ売ってないよね」
「そりゃ、鮮度管理がたいへんだからじゃね」
「ししゃもは売ってるよ?」
「なんでだろーな」




