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星の烙印  作者: 加藤爽子
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迷いの呪いを解く方法

 捕らえた兵士達に迷いの森の(のろ)いを解く方法を聞いてみるが、みな口を揃えて「知らない」と言う。

 仕方なくダグラスが声を掛けて森の中を連れ歩くのだが十数名が限界だった。

 それでもかなり多い方だと判明したのは、捕虜となった殆どの兵士は二、三名程度しか連れて歩けなかったからだ。

 キャロルを捕らえたその夜に構えた、野営地のテントの一つに捕虜を一人一人呼び出して、森を進む協力をすれば村人には手を出さないと口約束をして、頷いた兵士は半数程だった。

 声掛けをする必要があるのだから、自発的な協力が必須だったのだ。

 残念ながらその中にはキャロルの姿は無かった。


「村に家族は居るのだろう?」

「居る」

「怪我はさせたくないだろう?」

「私の家族は兵士ではない。既に『村人』には手を出さない、と他の者に約束しているのだろう」


 後ろ手に縄で拘束されたままのキャロルは、顔色一つ変えず静かに答えた。

 どんな会話をしているのか知られる事が無いようにわざわざ一人ずつ連れ出していたのに、最後に呼び出されたキャロルには予想がついたらしい。

 隣に立っている部下の一人が腰に履いた剣をカチャリと鳴らして威嚇するが、スッと自ら首を差し出すだけだ。

 ダグラスは片手を上げ剣を収めさせる。

 彼は横槍が入らなければ自分が負けていたと認識している。本来なら首を差し出す側だったのはダグラスの方だ。

 それなのに潔く命を差し出そうとするキャロルが許せなかった。

 きっと、部下の目の前で無ければ『命を粗末にするな』と怒鳴りつけていただろう。


「……ウト教について教えてくれないか」


 それは、咄嗟に口から出ただけの質問だった。

 王都では、欲望を捨ててナチュラリストになろうという建前を掲げ自給自足を促すのが教義だった。

 その(じつ)、言葉巧みに信者の財産を巻き上げ上層部はかなり自給自足とは程遠い生活を送っていたのだ。


 キャロルの話では、ウト神は特に何かをしてくれる訳ではなく、ただ見守る神なのだという。

 生という循環をあるがままに受け入れ、やがてウト神の元へと還る。

 王都のウト教とそんなに変わらないことを言っているが、これまで話を聞いた捕虜達はみな純朴で嘘が無かったことから、建前では無いと信じられた。

 どうやらその中でも強くウト神を感じることが出来た者が神官になるようだ。その証明が聖杯を視ることらしい。

 ダグラスは『聖杯を視る』という表現がピンと来ず首を傾げたが、キャロルの説明は無かった。


「迷いの結界はどうやったら無くなるんだ?」

「…………」


 キャロルの返事は無かったが、他の兵士達のように「知らない」とも言わなかった―――。



     ***



 翌日、連れていけるだけの騎士達をまず神殿の見える村近くの森に潜ませ、それから森の外で待っている残りの騎士達を連れて来る為にダグラスが往復して迎えに行く必要があった。

 大きな森は声掛けしながら進まなければならない事もあり一日に二往復が限界で、ダグラスが最後の十数名を連れて戻って来た時には、既に神殿が制圧されていたのだ。

 遠征部隊の司令は別に居るのだから、それ自体は何の問題も無い。

 兵士と神官は、神殿の広間に一纏めに集められていた。

 村人は大して脅威でも無かったのか村から出ないように監視されているだけだった。多少、炊事の人手と材料を提供してもらっているが、森の中で兵士(捕虜)達に約束した通り、大きな略奪行為はやっていない。それは良かったとダグラスも胸を撫で下ろした。

 母リンダの知り合いもこの中に居るだろうし、王都では鏡の中でしか見たことのなかった銀色の瞳がそこかしこで見られるのだから、やはりここが自分のルーツだったのだと絆されたのかもしれない。


 ようやく森の往復が終わってダグラスが一息つこうとした時、司令官に呼び出されてしまった。

 ダグラスが礼拝堂に入ると、正面の壁一面を占めそうな大きくてカラフルなステンドグラスが目に入った。

 その手前にある祭壇に置かれた聖杯は透き通っていて、後ろのステンドグラスが透けて見えている。

 ついその聖杯に手を伸ばしてしまったが、透けた見た目から予想出来る様に何の抵抗もなく、すり抜けていく。


「そこに何かあるのか?」

「……いえ」


 司令官の問われてダグラスは咄嗟に否定した。

 聖杯の探索は王からの密命だった。王の元に持っていかなければならない。

 それがまさかこんなに堂々と置いてあるとは思っていなかった。

 しかし、(さわ)れないとなるとどうやって持っていけばいいのか悩ましい。


「そこには聖杯が在るらしいぞ。本当に何も無いか?」


 司令官の細くなった目に背筋がゾワリと震えた。

 密命を帯びた者以外は聖杯の存在を知らない、と思っていたが、おそらく神官の誰かが話したのだろう。

 森に迷わないのはダグラスだけしかいなかったとはいえ、何日も留守にしなけれはならなかったのは致命的だ。


「その、ステンドグラスの光の加減で見間違えたかと……聖杯らしき物が視えます」


 何も視えないと言い張るには手を伸ばした時点で不審だった。

 ステンドグラスには、太陽とその周りに色とりどりの無数の星が描かれていて、それが祭壇に映ったとしても聖杯を形どるのは少々無理はあるが、それでも、実体が無いので錯覚だと思った、と押し通すしかない。


「喜べ。お前は神官の資格があるらしいぞ」


 咎められるかと思っていたが、嫌味っぽくそう言われただけで済んだ。

 そういえば、キャロルも聖杯が視えるのが神官の条件だと言っていたな、と考える。


「それを祭壇から降ろしたら(のろ)いが無くなるそうだ」

「降ろす?」


 ただ幻のように視えるだけで触れることが出来ないのにどうやって移動させるのだろう。

以下、恒例の裏話です。

飛ばしても大丈夫。


世界眼の部族の村の人口は千人くらいと考えています。

そのうち神殿長含む神官達は三十人くらい、兵士は百人くらいと考えています。プラスして神殿の警備隊が五十人くらい。

神殿長が村長(族長)なので、政教一体です。

ウト教の教義が浸透しているから争いはそんなに起きないので、その割には兵士が多く感じるかもしれませんが、警察、消防、レスキュー、護衛、介護を兼ねているので、実はそんなに多くもありません。

本編では兵士と一緒くたに書いていますが、神殿警護兵と普段は農業や林業など力仕事をしている有志が集まって百八十人くらいになっています。

それに対して騎士達も二百人くらいと人数だけみると大きく変わりません。

でも、二百人で千人を監視しなければならないから大変ですよね。

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