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星の烙印  作者: 加藤爽子
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まるで舞のような

軽く流血シーンがあります。

苦手な方はご注意下さい。

 王にとって幸いなことに、血の繋がらない息子ダグラスは騎士の道を選んだ。

 ダグラスからすれば、たとえ王が目をかけてくれようと彼自身平民であることには代わりはない。

 自分自身の力で身を立てなければならないので、選択出来る職の中から、万が一離宮を追い出されたとしても贅沢を覚えた母子二人がそれなりの生活を出来るよう選んだ職業だ。

 勿論、その選択肢をくれたのは紛れもなく剣術指南や勉強の機会を与えてくれた王だった。

 正騎士になる際には王族に忠誠を誓うが、権力を持たない王に本当の意味で剣を捧げた者は、はたしてダグラス以外にいたのだろうか。


 そうしてダグラスが二十歳を迎えた頃。

 ここ数年、ウト教を名乗る新興宗教が王都で急成長していたが、洗脳の噂が絶えないウト教から家族を取り戻そうとする教徒の親族達の間で騒動が起こり、やがてそれは頻度も規模も増していく。

 ここへ来て国もウト教を放置出来ないと乗り出し、民意を得て総本山と言われる迷いの森の神殿に向けて討伐隊が結成されたのだ。

 おそらく迷いの(のろ)いを抜けられると思われる眼帯の下に銀の目を隠したダグラスは、先駆けの部隊の隊長を命じられた。

 更に彼の部隊にだけ与えられた聖杯の確保という任務も王から秘密裏に与えられた。


 一方、ずっと変わらず森での引きこもり生活を送っていた世界眼の部族にとっては、森の外のウト教など全く知りようもなかった。

 部族の村では犯罪が殆ど起こらず、兵士達の実戦経験と言えば森に住む野獣やせいぜい町に買い出しに行った者を狙う野盗のたぐいだったから、統率の取れた騎士達には苦戦を強いられた。

 それでも森に引き込んで迷いの結界を利用し辛うじて追い返せてはいた。

 しかし、左目に眼帯をした将とその一隊にはその戦法が全く役に立たない。

 案内役が犬などの動物だと迷いの(まじな)いは効果があるが、人が案内役の場合は何度も声掛けをすることで少人数であれば迷わないでいられたのだ。

 しかも、ダグラスには何かがあるという気配が常に感じられた為、初めての場所でも方角を見失うことは無かった。

 だから、彼と彼に従う十二人は、迷うことなくスルスルと村に近付いていく。

 声掛けの必要があるからその存在を隠すことは出来なかったが、声を上げながら堂々と森を進む姿が却って、部族の兵士達に得も知れぬ不気味さを感じさせていた。


 そんな時、森を護る兵士の中から救世主が現れた。

 森の結界を解く方法や聖杯のありかを聞き出す為なるべく捕虜にしたいダグラス達とは異なり、容赦なく命を刈り取る赤髪の女兵士に瞬く間に三人の命が奪われた。

 その銀色の瞳は氷のように冷たくなんの感情も映していなかった。

 赤く煌めく髪をなびかせ片手剣を自在に操る女兵士を王国騎士達はいつの間にか『赤い悪魔』と呼ぶようになっていた。

 情報(捕虜)を求める王国ではあっても、赤い悪魔は手加減が出来る相手ではない。

 更にもう一人地に伏したところで、ダグラスは左目の眼帯を外し一騎討ちを申し出た。

 これ以上、王の密命を知る同僚を減らすわけにはいかなかった。

 女兵士からしても、銀の目を持つダグラスを討つ事が出来れば、後は森から追い払えるのだから受けない理由は無かった。


「俺はダグラスと言う。貴女は?」

「キャロル」


 改めて名乗り出たダグラスに、ただ一言で答えた彼女の声は、その凛とした姿に違わず澄んでいて美しい。


「キャロル殿、貴女に一騎打ちを申し込む」

「受けよう」


 ダグラスが胸に拳を当てるように両手剣を縦に構えて宣言すると、彼女が再び短く答えたそれが開始の合図だった。


 キャロルは部族の為に、ダグラスは王の為に、お互い強い意志を持って激しく打ち合った。

 一歩間違えれば命が奪われるというのに、キャロルの純粋で美しい剣筋に、ダグラスの口角は自然と上がった。

 ふと彼女の顔を見てみれば、これまで人形のようだとか死神だとか悪魔だとか言われていた顔に自分と同様の笑みが浮かんでいた。

 それぞれの使命のために真っ向からぶつかり合ったそれは、死闘でありながら傍目にはまるで剣舞の様に息が合っていた。


 初めに体勢を崩したのはダグラスだ。

 紙一重で追撃を躱すが、こめかみに付けられた傷から血が溢れて視界を遮る。

 次は躱せない、とダグラスが焦りを覚えた時、横から何かが飛んできてキャロルが一瞬怯んだ。

 何があったのか理解するよりも先に身体が動いていた。

 ぴたりとキャロルの頸動脈に刃をあてる。

 それから、誰かがキャロルに向かって石を投げたのだと気が付いた。

 だらりとキャロルの手が下がり持っていた剣が滑り落ちる。


「俺の負……待て!」


 負けを宣言しようとしたダグラスの剣に、キャロルが首を押し付けようとして最後まで言わせては貰えなかった。

 ダグラスは慌てて自分の剣を捨てて、キャロルの手を後ろ手にしながら地面に押し倒して拘束した。

 ただ自害を止めようとしただけなのに、同僚達からは勝利を喜ぶ声が上がった。


 戦いの興奮が次第に冷めて、身体のアチコチがジクジクと痛みを感じ始める。

 とりわけダグラスの心臓はズキズキと激しい痛みを訴えていた。

 沈みゆくダグラスの気持ちに反して、騎士達の進軍は続く。

 どんなに足が重たくとも、彼は進み続けるしかなかった。

 まだ、邪教討伐は始まったばかりだった。

以下、裏話です。

読まずに飛ばして頂いても大丈夫です。


王はリンダの話を聞いて迷いの呪いについて知っていたので、銀の目を持つダグラスが騎士見習いになった時から、裏で今回の邪神教討伐(聖杯奪取)を画策しました。

十三年ほど時間をかけて政治的影響力を僅かでも得て、着々と手駒を増やし、ようやく全ての権力を王族に取り戻すべく動き始めたところです。

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