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千里眼の御子  作者: 貫雪
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 だけど、ここはやっぱり「その筋」の世界だった。ある日夕食の席で組員の一人が組長に相談ごとを持ち出した。


「例の踊り子の件なんですが、酒屋の息子の付きまといがおさまらないそうです。とうとう踊り子のオトコに、脅迫までして来たようで」


「おい、子供の前だぞ。後にしろ」


 組長が眉間にしわを寄せてそういうと、組員は慌てて口をつぐんだ。すいません、すいませんと、頭を下げている。


 食事が終わると私と女将さんが後片付けをしている間に、組長達は事務所で話を済ませたらしい。私は相談をしようとした組員を捕まえて聞いた。


「ね、何があったの?」


「御子ちゃんには話せない内容です。勘弁して下さい」

 組員は小さくなって頭を下げた。


「私の事は知ってるでしょ? あなたの頭の中の事、知ることができるのよ。教えてくれなきゃ、覗いちゃうから」


 その時には私は組にだいぶ慣れていたようだ。組員達に嫌な思いをさせられた事もなかったし、女将さんも優しく、皆、親切でまじめな人達ばかりだった。


 最初の頃の不安なんてすっかり無くなり、正直、下手に出た態度を示す組員達の事も甘く見ていたのかもしれない。


「まいったな。子供に聞かせるような話じゃないんだが」そういいながら、組員は説明してくれた。



 ある踊り子に酒屋の息子が入れ込んでしまって、どんどんエスカレートしてきた。


「もっとこっちを向いて欲しい」

 なんて言っているうちは良かったが、


「もっと彼女の出番を増やせ」


「舞台以外でも会いたい」


「他の踊り子をおろせ」

 など、無理難題まで言ってくるようになった。


 とうとう彼女の住んでいるところまでつき止めて、彼女が男性と暮らしている事を知ると、その男性に麗愛会という組織の人を雇って、ひどい脅しをかけるようになったそうだ。



「麗愛会は容赦のない事で有名だから、そのオトコの身も本当に危ない。だからウチで麗愛会の連中を追っ払ってやりたいんです」


「追っ払うって、喧嘩、するの?」

 うわっ。ドラマや映画みたいな話。


「本当はそれを避けたいんですがね。相手が相手ですから、難しいかもしれません」


 私は甘く考えていた。「喧嘩」という言葉を聞くと、子供たちが素手で殴り合うイメージしかなかったし、「踊り子」と聞けば普通のダンサーが思い浮かんだ。「オトコ」と聞いてもその踊り子の恋人としての認識くらいがせいぜいで、その事情なんて見当もつかなかった。



 現実感のない話に、私は観客になった様な面白さだけを覚えてしまう。



 翌日私は学校の帰りに、こっそり、踊り子がいると言う劇場に行って驚いた。


 ここってストリップ劇場じゃない! はあ、こういうところだから踊り子っていうんだ。


 恥ずかしくてとても正面にはいられない。裏に回ると、綺麗な女の人が男の人と揉めているのが見えた。別の男の人もやって来て、男同士で揉めはじめる。


 やだ。いきなり現場に立ち会っちゃった。私は思わず身を隠す。


 少し離れているけど、『力』を使って見る。うわあ、酒屋の息子、のぼせようがすごい! 踊り子の顔しか浮かんでこない。あ、でもちょっと良心が痛んでる。お店のお金、彼女へのプレゼントに使っちゃってるんだ。親に申し訳ないって気持ちも少しだけ感じてるんだ。


 この踊り子の女性は怖がるばかりだわ。そりゃ、そうだよね。何するか分かんないような感じの人を目の前にしてるんだから。恋人が守ってくれるのを必死に頼ってる。


 あれ、でも、この恋人、ちょっと冷めてる感じ? あんまり彼女を本気で守ってなさそうな。むしろ迷惑がっているような。なにコイツ。頼りないな。


 何よ、コイツ、この女の人のこと、完全に商品扱いじゃん。怪我でもされたら舞台に穴が開く? 慰め役のはずがエライ事になった? ひどい! 彼女の事なんて、考えてないじゃん!


 そこにチンピラ風の男達が出てきて、その頼りない恋人に詰め寄っている。あれが麗愛会か。


 ふん。ちょっとくらい、脅かされてもいいかもね。こんな薄情者。私はそう思っていたが、チンピラの心を呼んで考えが変わる。


 え? コイツ、拳銃持ってる! 女性が言う事聞かなきゃ、手や足を撃ち抜く気でいるわ!


 ど、どうしよう。あの人達、このままじゃ大怪我しちゃう。警察に知らせなきゃ。



「御子ちゃん」

 私は急にうしろから声をかけられて、悲鳴をあげそうになった。


 そこには組長がいた。すぐに口をふさがれる。


「とんでもないお転婆だな。こんなところに顔を出すとは」

 後ろに何人かの組員もいた。


「組長、あの恋人ってひどいわ。彼女をまるで物みたいにしか考えてないの。こんな奴のために誰かが怪我したら損よ」


 私は必死で言った。だが、


「力を使ったのか。君のお父さんはこころよく思わなかったはずだが」


 確かにお父さんは私に力を使うのを禁じていた。止める人がいなくて私の気も緩んでいるかも。


「だって、お世話になりっぱなしだから、何か役に立てると思ったの。そしたら守る相手がこんな男だなんて」

 私は憤慨していた。


「そんなことは分かっている。あの踊り子も承知の上だろう」


「ええ? 騙されてるんじゃないの?」


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