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千里眼の御子  作者: 貫雪
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6

「違う。こういう商売にはよくある事だ。売れっ子に変な事が起きないように、好みの男をわざとあてがっておくのだ。悪い虫もつきにくくなるし、踊り子には癒やしになる」


「そんな」

 一緒に暮らす男性って、そんなに割り切れるものなの?


「大人の世界に首を突っ込み過ぎだ。私たちだってあの男のためだけに出てきたわけではない。この劇場は大事なシマだ。彼女は一番の売れっ子だから、麗愛会の奴らも目を付けた。ここを荒らされては、ウチの面目が立たん」


「だから何なの? 面目なんかのために、喧嘩をするの? こんなの喧嘩じゃない。相手は銃を持ってるんだから」


「銃?」

 組長の眉が上がる。


「全員か?」

 組長の目の色が変わり、真剣な声になる。


「ううん。赤っぽい派手なシャツ着た奴だけ。でも、本気で人を撃つ気でいる。ねえ、逃げて警察に知らせようよ。銃で人を撃とうとする人間に敵う訳ないよ」



 私は必死で組長の手首にしがみついた。お父さんを亡くしたばかりなのに、組長にまで何かあったら、私、どうすればいいんだろう?


 その時組長が、何ともいい難い表情をした。戸惑うような、優しいような、悲しいような、表情。


「大丈夫だ。心配はいらん。御子ちゃんが銃がある事を教えてくれたから」

 そう言って私の手を外し、頭に軽く手を乗せ、なでた。


「それにこれは私達の仕事なんだ。逃げるわけにはいかん。御子ちゃんはここに隠れていなさい」


「でも」


「こちらも武器なら持っている」

 そう言って組長が私に短刀を見せた。背中にひやりと汗が流れる。


「こんなものを見せたくなかったが、ここはこういう世界なのだ。我々は命と顔を張らなくては、生き延びる事が出来ない。君を引き取ったのは、やはり間違いだったのかもしれない。とにかく今はじっとしていなさい。絶対に、大丈夫だから」

 そう言って組長達はチンピラ達に向かって行った。



 組長がチンピラに何か声をかけると、チンピラも何かを言い返したようだ。何を言いあっているのかまでは聞こえない。


 でも、その直後に「やっちまえ!」と、チンピラが叫ぶと、一斉に喧嘩が始まった。


 私が教えた派手なシャツの男はすぐに真柴の組員に捕まえられ、銃を取り出す暇もないまま腕をとられていた。すかさず組員が懐から銃を探り出すと、逆にチンピラに銃を向ける。その男が真っ先に逃げ出した。


 他の男も組員に向かってナイフのような物を振りおろすが、組員は短刀ではじき返し、相手を蹴り倒してしまう。組長も相手に短刀をつきつけ、何かを言っている。男達は「畜生!」と叫んで逃げようとする。


 その一人が思いがけず、私の方へと駆け出してきた。向こうも私に気付いて、ナイフを突き出してきた。私はとっさに心を読むと、彼が私の前方にナイフを振るつもりなのが分かった。


 私は夢中でよけながら、近くにあったゴミ箱をそいつに向かって投げつけた。ゴミ箱は見事に当たって男はひっくり返り、私は組長達に向かって走った。


 男は舌打ちを一つ打つと、諦めて走り去って行った。


「大丈夫か?」

 組長が駆け付けた私に聞いた。


「私は大丈夫。あいつの動きが読めたから。それよりみんな、怪我は無いの?組長は大丈夫?」


 私は組長に怪我がないか確かめる。よかった、何ともなさそう。


 すると、また組長の手が私の頭に乗せられた。


「御子ちゃん、もう二度と、組の事に首を突っ込むな。君に何かあったら、君の養父に私は申し訳が立たない。こんな心配は二度とさせないでくれ」


「心配、してくれていたんですね」

 その目を見ただけで、私は申し訳なさでいっぱいになった。


「当然だ。君は私の娘なのだから」


「ごめんなさい」

 お父さんと呼べなくて。そしてありがとう。こんなに大事に思ってもらって。



 ふと、見ると、隣で酒屋の息子が組員に脅されていた。


「麗愛会の連中は、お前のために恥をかかされて頭に来ただろう。こんなことしていると、間違いなく寿命が縮むぜ。おとなしく親父の仕事を手伝っていろ。心を入れ替えるなら、俺達もお前のことは考えてやってもいいぜ」


「で、でも、彼女は」


「お前は彼女をこんな事に巻き込んだ。怖がられることはあっても、好かれるはずないだろうが」


 酒屋の息子はシュンとしていた。反省はしている様子。


「この人、親に申し訳ないとはずっと思ってたよ。本当は謝りたいみたい。許してあげたら?」


 私は少しだけかわいそうになって、彼の代わりに代弁してあげる。


「分かっている。コイツの親父さんの酒屋も、ウチの関係先だ。コイツの目を覚ましてほしいとは常々言われていた。心配いらない」


 この組、やっぱり普通とは違うわ。私、ここで幸せになれそう。私は心からそう思った。


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