13
こんな良平さんだったから組になれるのにもあっという間で、たいして日も経たない内に彼はみんなの中になじんでしまった。
ここは人を受け入れやすいところだと思うけど、それにしても彼は早くに受け入れられた気がする。きっと本来は人に好かれる人なんだろう。
何故こんな人が職場で疎まれたんだろうと、素朴な疑問を彼にぶつけてみると、
「しかたがないんです。俺の親父はこっちの世界の人間だし、俺の周りは親父の知り合いの同じ世界の人間ばかり。普通の奴らじゃ避けたくもなる」
「だって、それって親の事じゃない。良平さんには関係ないのに」
「いや、それだけじゃない。その上俺も高校の時、喧嘩沙汰を起こしてるから。それで雇ってくれるところが他になかったのに、そこで職場のウマが合わなかった。色々ツキもないんだ、俺」
私はため息をついた。
「ここに来る人ってみんなそうだね。そんなに悪い人じゃないのに、ツキがなくて誤解を受けた人ばっかり」
「そういう御子ちゃんも、そうですよね? 色々聞きました。ここは不思議な所だ。俺、ここでこんなに受け入れてもらえるとは思いませんでした。正直不安だったのに。誰もが当たり前の顔して、俺を受け入れてくれる。ありがたいです」
うん。本当にそうだ。ここって不思議なところ。ここに来た人はみんな家族の様になってしまう。
ある日良平さんを囲んで、若い組員達が騒いでいた。何かと思って聞いてみると、
「いや、コイツ一番年少のくせに、生意気にも堅気の彼女がいるんですよ。どうりで休みのたびに姿が見えなくなる訳だ」
そう言ってツーショットの写真を見せてくれる。へえ。結構な美人。綺麗な人だなあ。
良平さんは質問攻めに合っている。何処で知り合ったのか? 付き合いは長いのか? と。
「高校の時、隣のクラスだったんです。卒業前にダメモトで誘ったらいい返事もらえて、それからの付き合いですから、二年以上になります」
「卒業前か。そりゃ、焦るよなあ。こんな美人が相手じゃ、すぐ他の男に取られる」
「コイツ顔はまずくないから。他は全然追いつかないが。畜生。上手い事やってやがる」
皆にワイワイと騒がれながらも、良平さんもまんざらじゃなさそうな顔してる。照れ臭そうにしながらもどこか自慢げだ。
「でも、こんな稼業になっちまって、彼女、怒ってんじゃないのか? 大丈夫なのかよ?」
こう言われて良平さんの顔が曇った。
「そりゃあ、いい顔はしてくれません。でも、俺の親父の事も、喧嘩沙汰起こした事も、承知の上で付き合ってくれたんです。前の仕事場での事情も分かってくれてるし。今度もちゃんと分かってくれてます」
良平さんはそう言ったが、場の空気が変わって、聞いた組員の方も気まずそうな顔をした。
「悪かったな。変な事聞いて」
「大丈夫です。それに俺、自信、ありますから」
良平さんがまた、ニヤけて言う。
みんな、自信過剰だの、羨ましいだのと良平さんを小突いている。確かに私も羨ましかった。恋人がいる事がではなく、ごく普通の堅気の人に、信頼されている自信を持っている事が、無性に羨ましかったのだ。きっとここにいるみんなもそう思っているに違いなかった。
でも、私にもそんな信頼の目を向けてもらえている事が分かった。夏休みが終わってすぐ、学校で親しくしている清美が私と同じ高校に進路を決めたと言ってきた。
「え? 私なんかと同じところじゃなくてもいいのに。近くの私立に今の成績でちょうど入りやすいところがあるって言ってたじゃない?」
私は組の雑用も手伝いたいし、付き合う娘に迷惑がかかっても嫌なので友人とは学校以外では会わず、放課後の付き合いなどもしないようにしていた、だから清美にはもっと親しい人はたくさんいるはずなのだ。そういう娘が近くの私立に一緒に通ってくれるはず。
「へへ。ホントはね、別の目的もあるんだ。私と同じクラブの二組の奈津美のお兄ちゃん、前から気になってたんだけど、御子が希望してる高校に通ってるの。高校生だし彼女いるかと思ってたけど、意外と口下手らしくって、まだ、彼女っていないらしいんだ。だから思い切って志望校変えちゃった。上手くいって付き合えれば最高だし、最悪振られても御子がいるしね」
「私、保険?」
私は笑ってしまった。
「うん、でもね。御子が思ってるより、大事な保険だよ。御子、自分が人に好かれないって思ってるみたいだけど、そんなことないよ。御子の家のことだって、気にしない人は気にしないよ。御子って一見とっつきにくそうだけど親しくなればそうでもないし、気になることははっきり聞いてくれるし、こっちが聞きたい事もちゃんと答えてくれるでしょ? なんか、分かろうとしてくれてるなって思えて、安心するんだ。私、御子と卒業したらそれっきりなんて寂しいから」
「寂しい?」
「うん。すごく寂しい。だから私、もし振られても絶対御子と同じ高校行くからね。必ず二人で合格しようね」
清美はそう言ってくれたのだ。




