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役立たずと追放された俺の保存倉庫は、飢えた世界を救う最後の希望だった  作者: レモンティー


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第九十五話 王宮の空腹

王都の配給所には、昨日の倍の列ができていた。

軍需麦の横流しが公になり、王宮が備蓄を持っているという噂が崩れたからだ。

怒った市民は配給所の柵を押し、兵士は槍を構えた。

俺は柵の前に立った。

柵を押す人々の中には、昨夜の配給を受け取れなかった母親がいた。

彼女は子供のために並び直す力も残っていない。

俺は一人で配るのをやめ、地区の調理長と住民代表に残量の公開を頼んだ。

配給所を守る兵士にも食事の順番を知らせた。

誰かを黙らせて列を整えるのではなく、明日の分が足りないという事実を皆で引き受けるためだった。

「ここにいる食料は今日の分だけです。隠した袋はありません」

「じゃあ明日はどうする!」

答えられないままでは暴動になる。

ミラは各地区の共同備蓄を地図に落とした。

王都全体で三日分はある。

しかしそれを一か所へ集めれば、運搬中に奪われる危険が高い。

「集めるのをやめよう」

俺は相手の目を見て言った。

「地区ごとに調理して、歩けない人には運ぶ。王宮の許可を待つ時間はない」

王宮の命令に背く提案だった。

バルクは眉をひそめた。

「お前が捕まれば、誰が指揮する」

南区の炊き出し場では、鍋の底が見え始めていた。

調理長は粉を水で延ばしながら、列の長さを数えている。

「今日は何人分ありますか」

「数だけなら足りる。けれど働き盛りの大人にこの量じゃ、明日立てないよ」

俺は食事の量と配る順番を分けて考えた。

幼い子供や衰弱した人には、調理長と医師の判断が要る。

力仕事の人には、働けなくなる前に食事を渡す必要がある。

一律の器では公平に見えても、同じ結果にはならない。

「誰が何を必要としているか、窓口で聞けるようにしましょう」

「そんなことをしたら列が進まない」

「聞く人と配る人を分けます」

ハンナが近所の女性たちを集め、簡単な札を作った。

昼前、柵の前で男が倒れた。

兵士は騒ぎを抑えようと槍を横にした。

俺は声を張った。

「押さないでください。倒れた人を運ぶ道を空けて!」

群衆の中から二人が進み出た。

一人は王宮の使用人、もう一人は市場の魚屋だった。

二人で男を抱え、医師のところへ運んだ。

魚屋は息を切らしながら言った。

「俺だって昨日は食べてない。それでも人が踏まれるのは見たくない」

兵士が槍を下ろした。

列はまだ長かったが、押し合う人は減った。

鍋を盗もうとした男が捕まったと聞き、俺は南区へ戻った。

調理長は怒っていた。

「鍋がなくなれば何百人も食べられない。子供が病気だからといって、何をしてもいいわけじゃない」

「その通りです」

俺は男を見た。

抱かれた子供の額には汗が浮いている。

「だから鍋は返してもらう。でも治療は別です」

男は顔を歪めた。

「金がない。謝っても薬は買えない」

「薬代は医師と相談します。鍋を盗んだことは記録に残ります」

調理長は長い沈黙のあと、医師を呼ぶよう指示した。


翌朝、男は磨いた鍋を持って戻ってきた。

調理長はすぐに許したわけではなかった。

「次に盗んだら、あんた一人の問題じゃ済まないよ」

「分かってる。ここで働かせてくれ」

男は薪を割り始めた。

誰かを罰することと、働ける場所を奪うことは同じではない。

俺は彼の仕事を見届けた。

王宮の使用人たちは、町の配給所へ並ぶことをためらっていた。

「制服を着ていると、王宮に食料を隠していると怒鳴られる」

一人の女性が打ち明けた。

俺は配給簿に職業を書く欄をなくすよう提案した。

必要なのは人数と受領の確認であって、身分の値踏みではない。

調理長は王宮の使用人用だった小窓を閉め、町の人と同じ入口へつなげた。

最初に入ってきたのは、昨日倒れた男を運んだ女性だった。

彼女は受け取った器を両手で包んだ。

「今日は、子供の分もありますか」

「あります」

その短い返事に、女性は泣きそうな顔で笑った。

東区からは、水路を使った配給が始まったという知らせが届いた。

リオは小舟で食料を運んだが、船着き場の段差が高く、足の悪い老人が受け取れなかった。

「届けた数と、食べた人数が違う」

ミラは報告書を見て眉を寄せた。

俺は東区へ伝言を送った。

『舟から降ろす人を増やす。

家まで運ぶ人も決める』


翌日の報告には、受け取れなかった老人の名前が消えていた。

消したのではない。

食事が届いたため、未配達欄から移されたのだ。

夜、調理長は俺に残った粉を見せた。

「明日で底をつく。きれいごとだけじゃ鍋は満たせないよ」

「分かっています。北方の輸送が戻るまで、共同備蓄を少しずつ使うしかない」

「足りなくなったら?」

「足りないと知らせます。隠して列を増やすことだけはしません」

調理長はため息をつき、明日の鍋の数を書き直した。

俺はその横に、追加の食料が届く予定ではなく、まだ届いていないと記した。

希望を数字に書き換えてはいけない。

それでも鍋に火を入れる人がいる限り、明日の食事はまだ諦めずに済んだ。

日が落ちるころ、配給所の柵は片づけられた。

槍を構えていた兵士は、今度は鍋を運んでいた。

魚屋は明日の炊き出しに使う薪を届けた。

調理長は一人ずつに仕事を割り振り、誰が食事を受け取れなかったかを確かめた。

町が豊かになったわけではない。

王宮の倉庫が満たされたわけでもない。

それでも昨日まで互いを疑っていた人々が、明日の一食を作るために同じ場所へ集まっていた。

俺はその光景を国王へ届ける報告書に記した。

配給所の閉門前、調理長が俺を呼び止めた。

「さっき鍋を返した男、明日の薪割りに来るってさ。子供の熱も少し下がったらしい」

彼女は、当番表の空欄に男の名を書いた。

「でも、また盗めば許さないよ」

「そのときは、そのときの責任を問えばいい。今日働いたことまで消さなくていいでしょう」

調理長は鼻を鳴らし、俺に柄杓を渡した。

「話す暇があるなら、最後の鍋を運んで」

俺は黙って鍋の取っ手を握った。

市場の魚屋も、王宮の使用人も、列の整理をしていた兵士も、同じ湯気の向こうで手を動かしていた。

明日の食料はまだ足りない。

王宮の不正も裁かれていない。

けれど今夜は、子供の食事を奪い合わずに済んだ。

配給表には、まだ訪問できていない家が二軒残っていた。

「俺が行きます」

と若い兵士が言った。

「なら、受け取った人の名前を確かめて。家にいなければ未配達のまま戻してくれ」

兵士は頷き、鍋を抱えて夕暮れの通りへ出た。

俺はその背中を見送り、空欄のある配給表を閉じなかった。

明日になっても、そこに名前が残っていれば、誰かが訪ねに行けるからだ。

閉門直前、北区の係員が駆け込んできた。

「南区の配給表に、うちの地区の名前が三十人分ある。二重に受け取っているんじゃないか」

兵士が再び槍に手をかけた。

俺も最初は不正を疑った。

だが調理長が持ってきたのは、二つの地区で使われた同じ避難所の名簿だった。

家を失った三十人が北区から南区へ移り、旧住所が消されていなかったのだ。

「二重配給じゃない。二重に数えていたのは俺たちの方だ」

俺は双方の係員の前で訂正した。

三十人の食事を止めずに、北区の計画上の人数だけを直す。

北区で重複して数えていた三十人分は、実際にはまだ配っていない食料の割当てだった。

調理長は北区の残量を確かめ、配給を受けられずにいた世帯へ届けるため、御者二人に鍋を託した。

南区へ移った三十人の食事は、そのまま南区が用意する。

調理長が俺を見た。

「間違いを認めたら、王宮に責められるよ」

「責められるのは俺でいい。でも訂正を隠したら、明日また誰かが食べられなくなる」

そのとき、名簿の端に名前のあった少女が母親の袖を握った。

「北区にも南区にも、もう来ちゃだめなの?」

「違うよ」

と調理長が膝をついた。

「君の食事は一人分、ちゃんとここにある。間違っていたのは大人の数え方だよ」

少女は器を受け取ると、先に母親へ匙を差し出した。

俺は北区へ向かう御者の荷車に同乗した。

鍋は布で包んでも冷えていく。

御者は石畳の割れ目を避け、病人のいる家から順に戸を叩いた。

一軒目では母親が赤子を抱いていた。

二軒目では老人が起き上がれず、御者が椀を枕元まで運んだ。

三軒目、四軒目と受領の印が増え、最後の六軒目では戸を開けた少年が鍋を見て泣き出した。

御者は椀に粥をよそい、少年の両手にそっと渡した。

「うちの分は、もうないと思ってた」

「間違って数えていたんだ。君の食事を奪ったわけじゃない」

御者は自分の分の椀を脇へ置き、少年が熱い粥を一匙ずつ食べるあいだ、荷車を出さなかった。

「ほかの家も、もらえた?」

「ああ。君の家で六軒目だ」

少年は湯気の向こうで笑った。

御者は受領を確かめ、空になった鍋を荷車へ戻した。

南区へ帰ると、あの少女が母親と一つの卓を囲んでいた。

母親が椀を娘へ寄せると、少女は匙を持ち上げ、俺に尋ねた。

「北の子も食べられた?」

「食べられたよ。待っていた六軒に、ちゃんと届いた」

調理長が翌朝の献立板に残りの麦を記すと、魚屋が

「明日は川の魚を持ってくる」

と言い、荷運びの兵士が市場までの道を引き受けた。

少女の母親も、洗い終えた鍋を伏せてから炊事当番の列へ加わった。

少女は最後の一匙を母親へ差し出した。

「お母さんも食べて」

母親が飲み込むのを見届けると、少女は空の椀を調理長へ返した。

「明日も、ここに来ていい?」

「明日は、君のお母さんが鍋を温める番だよ」

少女は驚いて母親を見た。

母親は疲れた顔のまま笑った。

明日の麦はまだ足りない。

それでも、誰が明日の食事を作るのか、もう決まっていた。

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