第1話
いつも通り、人目をさけるように弁当袋《携行型エネルギーリザーブ》と我がバイブル……、ノート【漆黒の書】を手に屋上の扉を開けた。
重厚な扉を押し開ければ、オレの頬を撫でる聖なる風と対話できる。
今日もオレを待ってくれていたのだな。
扉の陰に隠れるかの如く、静かな深淵に腰を落ち着け、おにぎりを食べた。
2つほど食べたところだろうか、ガチャリと重厚な扉が音を立てた。
オレ以外にここに来る者がいるのか。
風と対話する時間を邪魔するものは何人たりとも許すことはできない。
オレのノート【漆黒の書】が黙っていることができなくなってしまう。
息を潜め深淵から屋上の中央を見た。
あそこにいるのは、クラスの中心人物……陽キャカップルじゃないか。
オレの平穏を脅かすつもりなのか。
黒川影斗、白石聖奈……吾が左腕の封印を解き放つ前にこの場から立ち去るのだ……!!
オレの左腕にはしっかりと包帯《封印の楔》が結ばれている。
……だが、疼きを感じる今は危険だ。
ましてや相手は一般人《陽キャ》……。
傷つけるわけにはいかぬ!!
◇
オレのことなど気づくはずもなく、陽キャカップルは痴話喧嘩を始めてしまった。
「ねぇ、影斗! 別れようなんてなんでなの?」
「…………」
くそ、黒川め。
肝心なところで声が聞こえないじゃないか。
「なんでそんなことを言うの? 私はこんなにもあなたのことを愛しているのに!」
「…………」
黒川、なんて言っているんだ?
さしずめ「俺はもうお前のことなんて好きじゃない」とでも言っているんだ。
フフフ……黒川!お前の気持ちを代弁してやる!!
「なんでそんなことを言うの……、私の何がだめだったの?」
白石が一歩踏み出した。
『……くるな、それ以上俺に近づくな』
白石の足が止まった。
「どうして……?」
『俺に触んな、俺の闇の力が制御……できねぇ……』
「何を言って……」
黒川が胸のあたりを抑えた。
苦しそうに一歩後ず去る様はまさに、内なる封印を解かんとしているようだ。
完璧だよ、黒川!!
陽キャにしては最高の演技だ!!
オレはノート【漆黒の書】を開いた。
見つけた、封印解除の頁。
まさか使う日が来るとはな……。
『我が身を縛りし偽りの姿よ――今こそ消え失せろ。
深淵に眠りし真なる魂よ、封印の鎖を喰らい尽くせ。
闇よ、血よ、魂よ――我が名のもとに集え。
すべての枷を打ち砕き、王の力をこの身に取り戻せ……!
――封印、完全解除。
ククク……そうだ。これこそが……我が本来の姿。
深淵王――降臨せよ!!』
黒川の周囲に闇が包まれた。
…………え?
包まれたぁあああああッ?!
そして、黒川とオレの言葉がハモってる……だとォ!?




