第4話 才能の発見と、適材適所のタスク割り振り
翌朝。第七小隊の第一倉庫前には、信じられないものを見るような目をした先輩兵士たちが立ち尽くしていた。
「……なんだこりゃ。どうなってやがる」
「おい、新人。お前、一晩で魔法でも使ったのか?」
彼らの視線の先には、昨日までのゴミ溜めのような有様が嘘のように、整然と片付けられた倉庫がある。
武器は用途と状態ごとに分類され、ポーション類は使用期限がひと目でわかるようにラベルが前を向いている。奥のデッドスペースには、当面使わないであろう予備の資材が綺麗に積まれていた。
ダボダボの軍服を着たティノが、僕の背中に隠れるようにして小さく答える。
「い、いえ……アレンが、手伝ってくれて……その、えーびーしー分析?っていうのをしてくれて……」
先輩兵士の一人が、面白くなさそうに舌打ちをした。
自分が押し付けた理不尽な業務が、完璧な形で終わっているのが気に入らないのだろう。前世でもよく見た光景だ。自分の無計画さを棚に上げて、部下の優秀な成果を素直に認められない困ったマネジメント層である。
「ふん。どうせ見えないところにゴミを隠しただけだろうが。それに、勝手に物の配置を変えられたら、俺たちが使いにくくて仕方ないだろうが」
「いえ、そんなことはありません」
僕はティノの前に一歩踏み出し、はっきりと告げた。
「よく使う第一級の支給品と手入れ済みの武器は、最も取り出しやすい手前の棚に集約しています。逆に、月に一度しか動かないような特殊装備は奥へ配置しました。動線は以前の三分の一に短縮されています。これなら、緊急の出撃命令が下っても、各自が五分以内に完全武装できるはずです」
数字と論理を突きつけられ、先輩兵士はぐっと言葉を詰まらせた。
「な、生意気な口を叩くな。たかが新人の分際で……」
「それに」
僕は彼らの言葉を遮り、さらに畳み掛ける。
「この整理整頓の大部分を成し遂げたのはティノです。あの膨大な量のポーションの使用期限を一つ一つ確認し、誤差なくラベリングしたのはティノの緻密な作業のおかげです。大雑把な……もとい、力仕事が得意な先輩方には、到底真似できない繊細な業務管理能力ですよ」
決して相手を貶めるような攻撃的な言葉は使わない。あくまで「適性の違い」として、ティノの能力を論理的に高く評価する。
ぐうの音も出なくなった先輩兵士たちは、「ちっ、調子に乗るなよ」とだけ捨て台詞を吐き、足早に立ち去っていった。
彼らの背中を見送った後、僕はティノに向き直った。
「さて、ティノ。昨日と今日で、君の素晴らしい適性がよくわかった。君はただ言われたことをやるだけの兵士じゃない。情報を整理し、正確に管理する才能がある」
「ぼ、僕に才能なんて……そんなの、からかってるんでしょう?」
ティノは照れ隠しのように目を伏せたが、その頬は嬉しそうに朱に染まっていた。
「からかってなどいない。人事評価は客観的かつ公平に行われるべきだ。そこで、君に正式なタスクを割り当てたい」
「たすく……?」
「ああ。今日から君は、この第七小隊における『在庫・備品管理の主担当』だ」
僕は手近な木板と羊皮紙を束ねて即席のバインダーを作り、ティノに手渡した。
「今後は、誰かが倉庫の備品を持ち出す際、必ず君に申告してこの台帳に記入させるルールにする。君は週に一度、在庫の増減をチェックし、足りないものを僕に報告してほしい。マニュアル化された明確な仕事だ。できるか?」
ティノは渡されたバインダーを両手でしっかりと抱きしめた。その目は、昨日までの怯えた色を完全に失い、キラキラと輝いている。
「うん! やるよ、アレン! 僕、絶対にこの倉庫をピカピカに保ってみせる!」
「頼もしいな。だが、一人で抱え込む必要はない。ルールを守らない連中がいたら、すぐに僕へ報告すること。僕が物理的に……いや、適切な指導でコンプライアンスを遵守させるからな」
「ふふっ、アレンってば、たまに難しい言葉を使うけど、すっごく頼りになるね」
ティノは満面の笑みを浮かべた。
その笑顔は、薄汚れた掃き溜め小隊には似つかわしくないほど、花が咲いたように可憐だった。
(……なるほど。少年兵とはいえ、これだけ素直で愛嬌があれば、いずれ他の部隊との交渉役としても重宝するだろう。人間関係の潤滑油としても、彼の存在は小隊の大きな財産になるな)
僕はそんな『組織のチームビルディング』という観点から、ティノの笑顔を冷徹かつ高く評価していた。
彼が実は女の子であり、この瞬間から僕に対して絶対的な忠誠と淡い恋心を抱き始めていることなど、業務改善に燃える僕の頭には微塵も思い浮かんでいなかった。
まずは第一の課題、劣悪な倉庫の環境改善と、有能なアシスタントの獲得は完了した。
だが、ここはブラック小隊。次なる非効率と理不尽が、すぐそこまで迫っていた。




