第2話―6 オカ研会長・三浦弥幸です
――幽霊が見たい――
その円が幼い頃から抱き続けてきた思いと同じ願望が、このイケメンチャラ男先輩の口から飛び出してきた時、大袈裟ではなく、雷に打たれたような衝撃が彼女を貫いた。まさかこんな恵まれた容姿を持ち、あんなにキラキラした友人を持つ人間と、自分との間に共通するものがあるなんて。
円は初めて、この先輩の顔をまっすぐ見つめた。自分が勝手に張り付けたイケメンチャラ男のラベルを剥がして。
「いやあ、それにしてもさっきはビックリしたよ」先輩はそう言いながら省吾の空手着を指差した。「そんな白いの着て、こんなとこ歩いてんだもんなあ。ぜったい幽霊だって思ったよ」
やはりそうだったか。もし先輩が止まらずにまっすぐトンネルを突っきって去っていたら、「旧道トンネル近くを彷徨う白い着物の幽霊」という都市伝説が発生していたかもしれない。円は改めて省吾の全身を眺める。これは今後どうにかする必要があるか?
「ああ、すいません」と省吾は本当にわかっているのかは定かではないが、謝罪した。
「人生初の幽霊目撃!⋯⋯だったら嬉しかったんだけどね」
円はこの発言に引っかかった。こんなに熱心に、単独でも心霊スポットに探索に来るような人でも、幽霊を見たことがないなんてあるんだろうか?とすると初回で遭遇できた自分たちは相当ラッキーだったのか。
円が無言で頭を悩ませている間にも、先輩と省吾のやり取りは続いていく。
「ところで、なんでその⋯⋯道着?着てるの?」先輩の当然の疑問。
「私は神谷さんのボディガードですから」
省吾の絶妙に意味の外れた返しにキョトンとする先輩。これは補足が必要だろうと、円は勇気を振り絞って間に入る。
「あの、ですね⋯⋯彼、有明くんは、わ、私の護衛をしてくれているんです。そ、その⋯⋯心霊スポットって物騒な話も聞くじゃないですか。ヤンキーとか浮浪者とか反社会的組織とか」
「ああ、なるほどね、そうか、ボディガードか」先輩はたどたどしい円の話に合いの手を入れてくれるが、まだ最初の質問への解答は得られていない。
「あ、あの、それで、この、有明くんは、空手をやってて⋯⋯だから、その⋯⋯」円は懸命に説明しようとするが、なかなか言葉が出てこなかった。それはそうだ。円自身、なぜ省吾が心霊スポットに空手着を着てこなければならないのか、いまいち理解していないのだ。上手に説明できるはずがなかった
そんな円のおぼつかない言葉を省吾が引き取ってくれる。
「空手家は空手着が正装ですから」
そんな理屈、お前以外に誰がわかるんだよ、と円は思ったが、先輩は自分なりに省吾の言葉を咀嚼して理解を示してくれた。
「⋯⋯つまり、君は真剣に取り組んでいるってことなんだね」
省吾はその言葉に表情を明るくし力強く「はい」と返事をした。どうやら省吾もこの先輩に好感を抱いたようだった。
「ああそうだ、自己紹介がまだだったね。僕は経済学部2年の三浦弥幸です」そう言って弥幸はちょこんと頭を下げた。「超常現象研究会の会長やってます。3年、4年の先輩たちもいるんだけど、いろいろ忙しいからね。めったに顔は出さない。実質活動してるのは僕ともうひとりの女の子だけ」
「あ、あの、神谷円です」
「有明省吾と言います」
「それじゃさ、せっかくだから、君たちの探索に僕もいっしょについていっていいかな?」先輩は爽やかに笑った。




