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CODE:0(コード・ゼロ) -公安を目指すはずが、なぜか美少女に囲まれてます-  作者: nime
公安学校編8:七不思議最終章

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LOG.146 空席の記憶

LOG.146 空席の記憶


### ◆ 朝の点呼・不自然な空席


冷たい朝の空気の中、候補生たちが整列していた。まだ夜の冷えが残る地面には薄く霜が降り、靴音が乾いた音を立てる。整然と並んだ番号札の列の中に、一つだけ空席がある。列の端から端まで視線を走らせても、どうしてもその番号の前に立つべき人影は現れない。


誰もがそこに誰がいたのかを思い出せない。眉をひそめて首をかしげる者、隣と小声で囁き合う者、苛立ちを隠すように咳払いする者。それでもはっきりとした答えは出ず、ただ不自然な空白が列の中にぽっかりと浮かび続けていた。


「昨夜、一部のログが欠損した。不具合によるものだ。心配は無用だ」


教官の乾いた声が響く。あまりにも事務的で、冷ややかで、まるで“存在自体”を最初から無視するような口調だった。その場の空気は氷のように重くなり、候補生たちは誰も言い返せない。


才牙冷は、じっとその空席を見つめる。胸の奥で言葉があふれ出す。誰かの名前が、確かにそこにあった記憶が、喉の奥でつかえている。


「……さくらの席が……」


呟きは風に消えるように小さかったが、湊、まつり、天音の三人は確かに聞いた。彼らの胸に鋭く突き刺さる。しかし他の候補生たちは一瞥すらせず、まるで最初から欠番だったかのようにただ時間通りに行進を始めるだけだった。


---


### ◆ 食堂シーン・ざわめく候補生たち


昼の食堂はざわついていた。食器の音と噂話が飛び交う。食堂の窓から差し込む昼下がりの光は、候補生たちの表情を不安げに照らし出す。行列を作る者、空席を見つめて首をかしげる者、どこか上の空でスプーンを口に運ぶ者。それぞれの仕草の中に、言葉にできない空虚が漂っていた。


「昨日の夜、屋上で光を見たんだ……」

「でも、人影なんてなかったろ?」

「いや、いた気がするんだよな……名前は、出てこないけど」


思い出せない空白が、不安を増幅させていた。笑ってごまかす者、真剣に首をひねる者、箸を動かしながらも視線だけを泳がせる者。全員がその違和感に気づいていながら、誰も核心に触れられない。食堂のざわめきは次第に大きくなり、やがて抑え込めないざらついた不安となって場を支配していく。


冷は箸を止め、空いた席をじっと見つめていた。その視線は重く、まるで空席の向こうにまだ彼女が座っているかのようだった。胸の奥の痛みが言葉になりかけた時、隣から柔らかな声がした。


「……冷くん。僕らは、忘れないよ」


御影湊の微笑は震えていた。声も弱く、手に持つフォークは小さく揺れていた。それでも、その優しさは確かに冷の心を支えていた。


---


### ◆ 仲間内の対立


食後、寮舎の一室で四人が集まる。カーテンの隙間から射し込む午後の光が机の上の端末を照らし、画面には不自然に途切れたログが点滅していた。まつりは端末を操作しながら眉をひそめ、指先を止めて言った。


「記録の欠損が不自然すぎる……これは消去の痕跡。誰かが意図的に削った可能性がある。断片的なデータがまだ残っているけど、普通じゃありえない」


天音は壁に背を預け、腕を組みながら鋭く切り返す。その声は落ち着いているようで、苛立ちが滲んでいた。


「だったら、まず制度の正体を暴くべきね。犠牲を出し続けるこの仕組み自体を壊さなければ、また同じことが起きるだけよ」


冷の瞳が細く光る。「違う。今は、さくらを取り戻すことが先だ」

声は静かだったが、心の奥底から絞り出すように強かった。机の下で握られた拳は白くなり、震えている。


天音の瞳が挑むように冷を見返す。「救出なんて幻想にすぎないかもしれない。幻想に囚われて動けば、全員を危険に晒すわ」


一瞬で空気が張り詰めた。まつりが唇を噛み、湊が慌てて二人の間に手を広げる。声が震えていた。


「二人とも……落ち着いて。どちらも大切なんだ。きっと。冷くんの気持ちも、天音さんの言う現実も、両方無視はできない」


四人の間に重苦しい沈黙が落ちる。時計の針の音だけが響き、誰もすぐには次の言葉を口にできなかった。外の廊下を通る候補生の足音すら遠くに感じられるほど、部屋の中は張り詰めていた。


---


### ◆ 夜・窓辺の異変


その夜。冷は眠れず、窓辺に立っていた。机の上のランプは消え、部屋は闇に沈んでいる。外の闇には月明かりも乏しく、ただ寮の外灯の淡い光だけが地面を照らしていた。冷の瞳はその暗闇の奥を凝視し、胸の鼓動が早まっていくのを抑えられなかった。額にはじっとりと冷や汗がにじみ、背筋を伝う汗が夜気で冷やされ、震えが走る。孤独な寒さが全身を包み込んでいくようだった。


ふと、遠くの空気が揺らぐ。白い光が一瞬だけ夜空に閃き、心臓が跳ね上がる。視界の端から視線を引き寄せられるように、冷は窓に近寄った。


ガラス越しに、一瞬だけ浮かび上がった少女の輪郭。淡く揺れる光の中で、桜井さくらの顔が涙に濡れていた。髪が風に散り、唇がかすかに震えている。その姿は幽かで、すぐに消えてしまいそうな幻のようだった。


「……助けて……」


声は風のように微かだった。冷は衝動的に窓を開け放つ。夜風が吹き込み、カーテンを大きく揺らし、部屋の中に冷気を流し込んだ。骨まで染みるような寒さが彼の体を貫き、孤独感が胸を締め付ける。しかし、そこには静寂しかなく、少女の姿も光もすでに消え去っていた。


握りしめた拳に爪が食い込む。胸の奥に焦燥と怒りが入り混じり、喉の奥で言葉が震える。冷は低く、だが確かに誓う。


「必ず……必ず取り戻す」


夜の帳の中、その言葉だけが鋭く響いた。窓から差し込む風は彼の決意を試すかのように強く吹き抜け、部屋に漂う緊張を一層濃くしていた。冷はその寒さと孤独を胸に刻み込みながら、静かに瞼を閉じた。


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