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コイアン! 〜CODE0:サイバー公安と恋のセキュリティ〜  作者: nime
公安学校編8:七不思議最終章

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LOG.140 屋上に揺れる光、囁かれる影

LOG.140 屋上に揺れる光、囁かれる影


### ◆ 夜明け前──談話室


学院の空気はひどくざわついていた。昨夜、屋上に走った白い光の噂が候補生たちの間を駆け巡っている。誰もが声を潜めながらも、恐怖を隠しきれずに言葉を交わしていた。候補生の一人は震える手でカップを持ち上げながら、「夜中に、確かに誰かが屋上に立っていた」と語り、別の者は「いや、窓越しに笑っていた顔を見た」と怯えたように打ち明ける。噂は尾ひれをつけて広がり、談話室全体がざわめきとざらついた空気に包まれていた。


「幽霊じゃないのか……?」「いや、不正受験者が残したプログラムの残響だって」


揺らぐ蛍光灯の下、囁き合う声が不安を煽る。冷は談話室の窓辺に立ち、夜明け前の空を見つめていた。背中にじりじりと視線を感じて振り返るが、そこには誰もいない。微かに鳥肌が立ち、心臓が速く脈を打った。


隣に立った天音が低く呟く。「……制度は、私たちに嘘をついてる」


冷は答えなかった。ただ、その沈黙が返答そのものだった。


---


### ◆ 朝食──医務室帰りの湊


朝食の場は別の意味で騒然としていた。長い夜を越えた候補生たちの疲れがまだ残る中、医務室から戻った湊が姿を現した瞬間、空気が一変する。まだ腕に包帯を巻いたままの彼が食堂の入り口に立つと、食堂は一斉にざわめき立った。近くにいた者が「湊くん……!」と駆け寄り、奥の席からも立ち上がる者が出るほどだった。


「大丈夫?」「湊くん、ここ空いてるよ!」


女子候補生たちが一斉に声をかける。湊は少し照れくさそうに笑みを浮かべたが、その歩みはまだぎこちない。冷はさりげなく椅子を引き、彼をサポートした。


「……ありがとう、冷」


にっこり笑う湊。その笑顔にまた周囲の女子たちが騒ぐ。だが近くにいたさくら、まつり、天音は、胸の奥に針を刺されたような感覚を覚えていた。


「れ、冷くん……私にも、そういうことしてよ」思わず口走ったさくらは顔を真っ赤に染めて俯く。まつりは「コホン」とわざとらしく咳払いし、天音は「……やっぱり過保護すぎるんじゃない?」と呆れたように言う。


微妙な空気が漂い、冷は思わず苦笑した。


---


### ◆ 日中──公式発表と疑念


その日の訓練が終わると、汗に濡れた候補生たちが一斉に集められ、広いホールの空気が張り詰めた。九重教官が壇上に立ち、冷たい視線を会場全体に走らせてから発表を行った。


「昨夜の光は、外部ドローンの侵入によるものだ。警戒はしておけ」


無表情で告げられた説明に、ざわめきは収まらない。候補生たちは互いに顔を見合わせ、むしろ疑念を強めるばかりだった。


冷のもとにまつりが小声で寄る。「ログを解析したの。……欠損が出てた。それも、さくらの滞在時間と重なってる」


「……そんなはずはない」冷が即座に否定する。しかし、近くの候補生がぽつりと呟いた。


「さくら? ……誰、それ?」


一瞬、空気が凍りついた。確かにここにいるはずのさくらを、認識できていない顔。冷の背筋を冷たい汗が伝った。


---


### ◆ 夕刻──屋上調査


夕暮れ、冷たちは屋上へ向かった。階段を上がる途中から風がびゅうびゅうと吹き抜け、彼らの制服の裾をはためかせる。鉄製の扉を開いた瞬間、茜色の光が一気に視界を染め、フェンスの影が長く不気味に伸びた。床には、焼け焦げたような黒い痕跡が幾筋も残されており、近づくと焦げた金属と埃のにおいが鼻をついた。


「これが……ただのドローンのライト?」まつりが眉をひそめる。「違うわ。熱反応まで出てる」


そのとき、フェンスの向こうに“人影”が立っていた。逆光の中、輪郭だけがはっきりと見える。全員が息を呑み、視線を注いだ。


「……!」振り返った瞬間、影は消えていた。


「今の、見たよね……?」天音の声は震えていた。


「これは……次の七不思議だ」冷は唇を引き結んで言った。


---


### ◆ ラスト──揺らぐ存在


仲間がざわつく中、さくらだけが小さく呟いた。彼女の声はか細く、雑踏に紛れてしまいそうなほど弱々しい。それでも冷の耳にははっきりと届き、胸を締め付けた。天音が心配そうに顔を向け、まつりも何か言いかけて言葉を飲み込む。湊はただ無言で、さくらの肩を見守るように視線を落とした。


「……私のことも、消えちゃったりするのかな」


冷が振り返ると、夕闇に立つさくらの姿が、一瞬だけ薄く揺らめいたように見えた。冷は思わず一歩踏み出し、彼女の肩に手を伸ばす。


「大丈夫だ、さくら。俺がいる。君が消えるなんて、絶対にさせない」


その必死な声音にさくらが小さく目を見開く。彼女の瞳にわずかな光が戻り、唇が震えながらも微笑みに近い形をつくった。


仲間たちは息を呑んで二人を見守り、沈みゆく夕日の赤が屋上全体を不安と希望の入り混じった色に染め上げていた。


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