第83話 功績者は?
大会議室に戻った慈愛とセイジを迎えたのは、留守番をしていたバルダ一家だった。すぐに慈愛はネフィリアの杖をいつもの場所に置いて仁と真那に通信を入れる手筈を整えた。
ネフィリアから発信された呼び出しに、わずか数秒で仁と真那は応答した。その迅速さは、彼らが通信を待ち構えていたことを如実に物語っていた。
慈愛は息を整え、すぐに第一声を発した。
「問題はすべて解決したのじゃ。神谷を含む反乱グループの収束に成功じゃ」
仁の顔に安堵の色が広がり、真那もホッと肩を撫でおろす。
「良かった!ありがとう慈愛。そしてセイジ」
「さすが慈愛とセイジ君。迅速かつ的確な対応に感謝します」
続いてセイジが一週間の成果として売り上げや利益の説明をおこない、最後に神谷の処遇について付け加えた。
「神谷さんには運搬作業の責任者として新しい役割を任せたよ。彼自身も反省の意を示したし、全力で取り組む決意を固めているから、もう安心だと思うよ」
その報告を聞いて、仁は静かに頷き慈愛の言葉を思い出していた。この反乱は試練。羽曽部食品が強固な塊となる為の試練だと。まさに慈愛の言う通りに今回の件で羽曽部食品の団結力は一層強固な物になっただろう。
そして以前、直属ではないが神谷の組織下である営業部に属する若手の3人が小田を襲った事件があった。もう二度とこんな事件を起こさない為にも、神谷は部下の不満を受け止めて反乱グループを組織したのではないだろうか。
全てを自身の支配下に置き、少なからず行動を抑制する事が、本来の反乱グループの目的ではなかったのかと。そう仁は考察していたが、すぐに考えを止めた。
「(まぁそれは考えすぎかな)」
仁は首を意味深に横に振ってスクリーンに視線を戻した。
それともう一つ、セイジに持ち帰ってもらった埃まみれのオブジェの結果を仁と真那は知りたがっていた。オブジェに装飾されている物が本物のテレッドかどうかをだ。
「よく見つけたな、わしも初めて見る大きさじゃ」
慈愛の言葉に仁と真那は顔を見合わせ大いに喜んだ。慈愛は発見した経緯を真那に尋ねた。
「なんとなくテレッドには他とは違う魔力を感じるのです。異世界に帰るのに必要な希少な鉱石だからかもしれません」
「なるほど、真那の能力にも驚かされるの。今後もテレッド探しに大いに役立ちそうじゃ」
真那のスキルは[魔法使い]ではない。本人には知らされていないが[叡智者]と言うレアスキルである。今回のテレッドを探し出せたのも、このレアスキルによるものかもしれないと慈愛は感じていた。
「任せてください!頑張ります」
真那の元気な返事に仁はふと彼女の横顔を見つめた。今回の成果は全て真那のお手柄だったと言っても過言ではない。仁自身は、マネキンの実演販売でもただそこにいるだけで、真那のフォローに助けられてばかりだった。大量の納品を無事に成し遂げられたのも、真那が契約書代わりにスマートフォンで録音していたからこそだ。そして、異世界へ帰るための鍵であるテレッドを発見したのも彼女の感覚によるものだった。
本日の通信も終わり、仁は口には出さなかったが、ただその瞳の奥に、真那への感謝と労いの色が浮かんでいた。
「仁?何か考え事ですか?」
真那がふと視線に気づき、柔らかい笑顔を浮かべて話しかけてきた。
「テレッドまで手に入ったのは仁のお陰ですよ。あの時、勇気を持って交渉に踏み切ってくれなかったら、こんなにうまく行きませんでしたよ」
仁は一瞬驚いた表情を見せた。自分の些細な行動を見逃さずに評価してくれる部下が、そしてその女性が傍にいることに、仁は心の奥底で深い感謝の念を抱いた。仁にとって真那の存在は、今まで以上に大きなものへと変化していた。
「よし!明日からも頑張るか!」
仁は大きく息を吸い込むと気合いを入れ直し、拳を力強く前に突き出した。真那もそれに続き、仁の真似をして自分の拳を前に出し、笑いながらそっと仁の拳に当てた。
「うん、頑張りましょう!」
様々な問題が一旦片付いたことで、仁は久しぶりに心地よい眠りにつけるなと期待していたが、久方ぶりに聞こえるゾルの大きなイビキが耳に響き渡り、深い眠りはなかなか訪れなかった。




