第75話 ネリュシギの収穫
羽曽部食品が新たな起業準備を進める中、他の作業も同時進行で進んでいた。元々298名の従業員がいたが、仁と真那が旅立ち、さらに反乱グループの30名が離脱したため、人員は大幅に減少していた。その中で工場が稼働し、ブーボハムの製造が進められていたが、限られた人員で各作業を割り当てなければならなかった。
農作業に従事する従業員の数も、当初は20名近くいたが、現在ではわずか8名にまで削減されていた。それにもかかわらず、畑は豊かな緑に覆われた農地へと変わりつつあった。
異界農務菅に任命されている小田は、その日の農作業を担当する従業員を集め、満面の笑みを浮かべながら話し始めた。
「ネリュシギが十分に育ったわ。今日、収穫してみましょう!」
その言葉に、従業員たちは一斉に顔を上げ、喜びに満ちた表情を浮かべた。畑の緑を見つめながら、彼らの顔には期待と興奮が交錯していた。
「いよいよか・・・」
原田が嬉しそうにつぶやいた。彼の声に呼応するかのように、他の従業員たちも次々と口を開いた。
「こんなに大きく育つなんて思わなかったよ」
「本当に収穫できる日が来るとはな」
それぞれが感慨深げに語り合う中、小田は畑に向かって歩き出し、従業員たちもその後に続いた。彼らは畑の中に入り、ネリュシギを一つ一つ丁寧に摘み取っていった。
収穫作業の最中、小田は原田の隣に来て、手際よくネリュシギを摘み取りながら声を掛けた。
「原田君、この間は本当にありがとうね。私が神谷部長に掴まれた時、真っ先に助けに来てくれて」
原田は一瞬驚き、照れくさそうに笑みを浮かべた。彼の顔には赤みが差し、軽く肩をすくめながら答えた。
「いや、あの時は僕も咄嗟に体が動いていました。須沖課長の勇気が移ったのかもしれません」
小田はその言葉に満足そうに微笑み、原田の頭に手を伸ばして優しく撫でた。原田は一瞬驚いたが、その手の温もりに安心感を覚え、じっとしていた。
「何か、嬉しいような、恥ずかしいような気分です・・・」
原田の声は少し震えていたが、その中には感謝と喜びが混じっていた。
「うふふ、頼りにしているわ。忍者見習いの原田君」
小田の優しい声に、原田は再び照れくさそうに笑った。彼の心の中には勇気と信頼の絆が異世界に転移してから確実に育まれていた。
畑では、他の従業員たちも忙しく働いていた。陽光が照りつける中、彼らは汗を流しながらも、一心に収穫作業に没頭していた。収穫されたネリュシギは、豊かな緑の葉が伸び、その成長を誇らしげに見せていた。
「今日は最高の収穫日だな!」
一人の従業員が声を上げると、他の従業員たちもそれに続いて声を上げた。内部反乱が起こっているかを忘れさせるかのように皆の顔には、喜びと達成感が満ち溢れていた。
小田は満足げに周囲を見回し、皆の努力に感謝の気持ちを込めていた。原田もまた、その一翼を担えたことに胸を張り、小田の横顔を見つめながら更なる成長を誓っていた。
◇◇◇
一方、工場ではブーボハムの製造がフル稼働していた。機械の轟音が鳴り響き、限られた人員が懸命に作業に従事している。肉が次々と加工され、香ばしい匂いが工場内に充満していた。仁と真那の営業活動の成功によって、製品の需要は日ごとに増していた。
「これで何とか間に合いそうだな…」
工場長の声が静かに響くと、従業員たちは一斉にうなずいた。彼らの顔には疲労の色が濃かったが、それ以上に確かな達成感が宿っていた。
「やっとここまで来たんだ」
一人の従業員が言い、他の者たちも頷いた。工場内は汗と努力の結晶で満たされていた。
だが、成功の裏には予期せぬ問題が潜んでいた。
試作品と異なり、本格的に稼働した工場で製造されたブーボハムには思いもよらぬ欠点が露呈していたのである。
「どうしてこんなことに・・・」




