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第45話 お偉いさんとの議事録

 異世界に転移して19日目。

 いよいよ明日は仁と真那の旅立つ日となる。


 二人は旅の目的をすり合わせする為に社長含め、役員たちや関係者と会議をおこなう事となった。


 ―――以下はその議事録である―――


 会議目的:【今後のデルカニアでの動向について】


 日時:6月22日(土)14:00~15:30

 場所:中央会議室(本社9階)


 参加者:計10名

 顧問:慈愛(ジア)<異世界人、六賢者の一人>

 代表取締役社長:羽曽部庄一(はそべしょういち)<3代目社長>

 営業本部長:神谷大介(かみやだいすけ)<各事業所を統括:役員>

 生産本部長:堀越幸雄(ほりこしゆきお)<各工場を統括:役員>

 人事・経理部長:伊東茂(いとうしげる)<二つの部署の責任者:役員>

 物流部長:高橋誠司(たかはしせいじ)<物流センターの責任者:役員>

 工場長:土屋明久(つちやあきひさ)<羽曽部本社工場の責任者>

 課長:横川勉(よこかわつとむ)<開発課の課長>

 課長:須沖仁(すおきじん)<品質管理課の課長>

 主任:岡宮真那(おかみやまな)<品質管理課の主任>


 ※発言者は名前の頭文字。※特筆すべき情報だけを以下に記録する


慈)明日、仁と真那は旅立つ。旅の目的を合わせて二人と意思疎通を図っておく。


羽)二人には大事なことを背負わせてしまい申し訳ない。我々もできる限りこの世界でやれることはやってみる。その為にも旅先でいくつかお願いしたいことがある。


横)まずこれを見ていただきたい。(手書きの紙が仁と真那に配布される)

岡)これは香辛料の一覧ですね。

堀)そうだ。既に聞いてると思うが羽曽部食品はこの異世界でも商売をしていこうと思う。それに必要な物だ。

横)それには羽曽部食品のノウハウを応用していくのが良いが、商品を作るにあたっては今ある原材料の在庫も尽きてしまう。その為にこれら香辛料、または類似している物を旅先で見つけてもらいたい。

須)見つけてそれをどうすれば良いか?その度にここへ戻るのか?

慈)各街には連絡手段として郵便が主流となっている。そんなに大量でなければ送付できる筈。

須)どの程度の量を送付する?

横)こちらで一応、官能検査をしたいので100g程で良い。しかし同じ物でなく類似品や未知の香辛料となると試作する必要が出てくる。その辺の判断は須沖課長に任せる。

 ※官能検査:食品の品質や味わいを評価する検査

須)わかりました。

横)一応こちらにある各種香辛料は小さいチェック袋に入れてある。須沖課長や岡宮主任なら大丈夫だと思うが比較品としてほしい。本来は瓶で密封させるのが良かったが、荷物になってしまう。


須)何か異世界ならではの無限に入るアイテムBOXみたいのはないのか?

慈)これを渡す。(30センチ四方の皮でできたショルダーバッグを渡す)

須)これにはどんな機能が?

慈)ただの丈夫なバッグ。

(仁はガックリする。無尽蔵に出し入れできる夢のようなアイテムではなかった)


土)次に工場で製作したこれを持って行ってもらいたい。

(干し肉とブーボハムを渡す)

土)干し肉は日持ちできるものが良いと言う事で二人の為に皆で作成した。是非とも旅先で食べてほしい。もう一方のハムは異世界で用意してもらった食材で作ったハムだ。これをまず現地の異世界人に食べてもらい反応をみてもらいたい。

須)わかりました。ところで昨日話した[レイクサイド]という街にはどれくらいで到着するのか?

慈)そんなに遠くはないが、こちらを朝早く出れば日が暮れる前には到着する。

須)そうなると徒歩ではあまり大量に持っていくことはできないので、ブーボハムは後で持っていく数量を決める。

横)承知した。よろしくお願いする。


神)もうひとつ、これはまだ急がないが、我々と中間に入ってもらう商社的な人材を見つけてもらいたい。我々が商売をするにしても外に出れなければ商品の運搬や販売手段がなく困ってしまう。

慈)今いる森の外までならプテラノドンで運搬させることはできる。そうすれば街道も近くにあるので、そこから先を手助けしてくれる信用できる人間が必要。

須)まだ私もこちらの世界の事はわからないので、どこまでの人材が見つかるかわかりませんが心に留めておきます。


慈)尚、怖がらせる訳ではないが、ここにいる人は各組織のトップと言うことで話をしておく。現在私が結界を張っているが、この結界は私がここに留まっている間しか機能しない。急な六賢者の招集や、私が同じ位置から行動しないことを不審に思って調査をする者もいるかもしれない。しかし、ここ数年は召集もないし私もほとんど自身の領土から動いていない。可能性は低いが伝えておく。

羽)わかりました。何かしらの有事には対応できるよう準備は進める。


慈)二人が旅立つにあたってはこちらで服を用意する。今の着ている服装では<落ち人>とバレてしまう。くれぐれも<落ち人>とバレないようにすること。

岡)わかりました。道中気を付けます。

伊)二人の旅先の情報がこちらに伝わる手段はやはり郵便とかしかないのか?

慈)その件については問題ない。仁に渡した剣(ゾル)と私の持つ杖(ネフィリア)で映像付きで通話ができる。

岡)お互いの情報がリアルタイムでわかるのは、こちらとしてもありがたい。

慈)連絡は毎晩行うこととする。時間は任せる。ただし何も連絡がない場合はこちらから連絡する場合もある。

須)わかりました。その際に毎日じゃなくて良いので他の従業員の姿も確認したい。

(真那も同調するように頷く)

羽)わかった。日替わりで全員の顔が見れるように手配はする。

岡)ありがとうございます。


慈)他になければこれで会議を終了する。あとは私と二人で旅の準備をする。



 ―――会議が終了する、議事録はここまで―――


◇◇◇


 仁は、役員たちが退出したのを確認すると、大きなあくびをしながら背伸びをした。仁は会議が苦手だ。じっと話を聞いていると、ついつい眠くなってしまうのだ。これは彼自身、そういう「クセ」の一種だと思っている。

 しかし、その理由はもっと根本的なところにあるのかもしれない。会議室に漂う緊張感や形式的なやり取りに、仁の本質的な自由奔放さが反発しているのだろう。

 仁はどちらかといえば行動派で、元々工場勤務出身と言う経歴もあり、体を動かしながら思考する方が得意だ。会議のように長時間座っていると、そのエネルギーが行き場を失い、眠気として現れるのかもしれない。


「やっぱり、会議よりも現場が性に合ってるんだよな」

 心の中でつぶやきながら、仁はまた一つあくびをかみ殺した。


 そんな仁を横目に慈愛は小さな巾着袋を差し出してきた。

「旅に持っていくものを確認しよう。まずはこちらの通貨じゃ」


 異世界での通貨は円ではなくルーンと呼ぶ。日本円に置き換えるとほぼ同じようだが物価は明らかにこちらの世界が安い。紙幣が2種類、貨幣はplatinum(白金)、gold(金)、silver(銀)、copper(銅)、lead(鉛)の5種がある。慈愛は二人に日本円で10万ほどの通貨を渡した。この世界で10万ルーンあれば1ヵ月は飯付きで宿に滞在できる金額であるとの事だ。

 1万ルーン:紙幣、5000ルーン:紙幣、1000ルーン:白金貨、500ルーン:金貨、100ルーン:銀貨、10ルーン:銅貨、1ルーン:鉛貨となるそうだ。

 元の世界で使用していたお金で5円玉と50円玉に相当するのがないぐらいか。


 他に旅をする上で必要な物として、ナイフなどは仁の持つ剣(ゾル)があるし、サバイバルに必要なファイヤースターターや水フィルター、懐中電灯なんかも真那の魔法で不要になる。

 あとは最悪、野宿をする時のテントについてだが、それは慈愛より提案があった。


「もし野宿する場合は先ほどのショルダーバッグを使うと良いのじゃ」


 そう言うと慈愛はバッグの中に何も入っていないことを確認してから引っくり返してパチンと右手の指を鳴らす。するとバッグが指を鳴らすにつれ巨大化していく。


「大きさが自在に変えれる魔法のバッグじゃ。もとの大きさに戻すには左手で指を鳴らすのじゃ」


 仁はバッグが元の大きさに戻っていく様を見ながら、その異世界の不思議な技術に感心していた。普通の丈夫なバッグではなく、まるで魔法のようにサイズが変わるバッグ。テントサイズにすることもできれば、寝袋サイズにすることも可能だ。

 もし寝袋サイズにすれば、真那と一緒に入って寒さを凌ぐことができるなぁと天井を見ながら考えた瞬間、仁の顔には自然と笑みが浮かんでいた。


「え、なんか仁が気持ち悪い顔してる・・・」


 真那の突然の言葉に、仁はハッと我に返った。顔がニヤけていたことに気づき、慌てて表情を整えようとした。


「あ~、またこやつはイヤラシイ事を考えていたのじゃ、セクハラ課長じゃ」

 慈愛が追い打ちをかけるように冗談を飛ばした。


 二人の女性にからかわれ、仁は自分の顔をぺちぺちと叩いた。女性二人がタッグを組むと、男はたいていの状況で敵わないものだ。仁は気を取り直し、顔を引き締めて言った。


「真那が安心して寝れるように、寝ずに番するからな!」


 その言い訳じみた口調に、真那と慈愛は揃って「「え~」」とハモりながら、呆れた顔を仁に向けた。

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