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第43話 命がけの修行

 修行を始めてから6日目。旅立ちまで残り4日となった。10日目には、仁と真那の二人は見知らぬ異世界の地へ旅立つことになる。


 [GOGO!55!VRセイバー]の修行では、ゾルと共闘してからステージ5までは難なく行けるが、ステージ6で苦戦を強いられていた。過去2日間で、唯一1度だけステージ7まで行けたが、それはまぐれに近い勝利であった。その後はずっとステージ6で止まってしまい、進展が見られない。


 仁と真那は、体力的にも精神的にも限界を感じ始めていた。連日の厳しい修行が二人の体力を削り、精神的な疲労感も増していく。


 慈愛は二人の様子を見つめながら、心の中で呟いた。

「(ここいらが限界かのう・・・仁も剣の腕なら一国の兵士長クラスであろう。真那においても、魔法力に関して言えば、そこらにいる魔法使いと同等かそれ以上じゃ)」


 二人は慈愛の予測をはるかに上回る成長を遂げていた。しかし、連敗が続き、自信を喪失しかねない状況であった。慈愛は、これから大きな目標へ向かい旅立つ二人が自信を無くし、途中で諦めさせるわけにはいかないと考えていた。

 自信を取り戻させるために、実技を早めに切り上げ、残りの時間を体を休めさせながら、この世界の知識を学ぶ勉強会に充てることを考えていた。



 そして、午前中の修行が終わり食事の時間となった。しかし、運ばれてきた食事に真那はほとんど手を付けていなかった。仁は心配そうに真那の様子を見つめていたが、その視線に慈愛も気付いた。仁は意を決して慈愛に提案した。


「慈愛、今日の午後は休みにできないか?」


 慈愛は仁の提案を一考することなくあっさりと受け入れた。

「うむ、良かろう。わしも休息は必要かと考えていたところじゃ。午後はのんびりせい」


 慈愛の迅速な同意に仁は少し驚きつつも安堵した。あれこれと言い訳を考えていたが、それを使う必要はなかった。


 しかし、突然、真那が声を押し殺すように両手を拳状に握りしめ、膝の上に置いたまま叫んだ。

「ダメ!」

 その声にはいつもの張りがなく、かすれていた。真那の突然の叫びに仁がビクッとする。


「ダメ・・・続けよう、修行を。あまり時間もない。他の皆も頑張っている。それに、私のことを気遣ってくれているなら大丈夫だから。やろう、仁!」

 真那は一歩も引かない決意を見せ、真っ直ぐな瞳で仁を見つめた。その瞳には真剣な思いが込められており、仁は頷くしかなかった。



 食事を終えた二人は少しでも体力を回復させるため、休憩時間に30分の仮眠を取った。その後、再び「GOGO!55!VRセイバー」に挑むために立ち上がった。


 仁は真那に向き直り、深呼吸をしてから言った。

「よし!真那と一緒なら、どんな困難も乗り越えられる気がするよ」

 真那も微笑みを浮かべて頷いた。

「うん、私たちならできる。頑張ろう、仁!」


 こうして、二人は再び修行に挑む覚悟を決めた。



―――しかし―――


 結果はステージ6で仁が今まで以上の深手を負い慈愛のストップが掛かった。



 真那が近寄り仁を回復する。すると手から出る光の粒子が徐々に少なくなり、仁が全快する前に真那が突然気を失った。

 仁は倒れそうになる真那を抱え、何度も声を掛けるが気を失ったままで目を覚ます事は無かった。仁は真那を両腕で抱えて大会議室の隅にそっと寝かせた。慈愛も二人の傍に歩み寄る。


「慈愛、真那は大丈夫か?」

 仁が不安そうな顔で慈愛を見上げた。慈愛は真那の体に何かを探るようにして触れながら答えた。

「魔法力はまだ体内に残っておるから死んではおらん。大丈夫じゃ」


「"魔法力がまだ体内に残っているから"?どういうことだ?魔法力がなくなるとどうなるんだ?」

 死ぬと言う単語に敏感に反応し、突っかかるようにして仁は質問をした。


「魔法のスキル持ちは魔法力が0になれば死ぬ」

 冷徹に放った慈愛の一言で、仁の顔面は蒼白へと変化した。

「慈愛!そんな危険なことを知っていて魔法力の放出をさせていたのか!」


「荒療治だが先ほど真那が言った通り時間もない。命を掛けているのは真那やお主だけでない、ここにいる<落ち人>全員じゃ。皆から選ばれた勇者みたいな事を言われて思い上がったか?」


 慈愛は落ち着いた口調で仁に言葉を返した。仁は俯いて何かを決心したかのように黙って真那の元から立ち上がり、大会議室の中央に向かった。

 仁のケガは半分ほどしか回復していない。血は止まっているが所々の傷から今も血が飛び出しそうな生々しい痕が残っている。


 致命傷を負わなければ真那の回復で傷は治ってしまう事に少し甘えていたかもしれないと、仁はそんなことを考えると無性に自分に腹が立っていた。慈愛の言葉にも反論できなかった。


 仁は中央に立ち深呼吸をして慈愛を見ずに「始めろ」と言い放つ。慈愛は腕を組み、仁の真剣な横顔を強く見つめていた。


「(魔法力が例え0になっても死ぬ事は無い。自身の生命力を魔法力に変える術を身に付けていれば話は別じゃがの。しかし・・・仁、お主の力はそんなものではないだろ?これまでにもサイとの決闘や若い従業員との攻防を思い出すのじゃ。本当の力を見せてみろ!須沖仁!!)」


 慈愛は組んでいた腕を下ろすと片手を掲げ、再びVR空間を生成した。今までで一番最悪のコンディションで仁のVRセイバーはスタートした。



◇◇◇



 それから30分程が経過しただろうか。真那が目を覚ました。


 ぼんやりとした頭の中で、大会議室の中央に仁が立っているのが真那の瞳に薄っすらと映った。

 VR空間は消えていた。しかし仁が大怪我をして慈愛がストップしたような感じではなかった。その証拠に仁は倒れていない。ちゃんと自分の足で立っていたからだ。



 慈愛が突然パチパチと拍手をする。何事が起ったのかと真那はまだ頭が理解していない状態であった。


「まったくお主には驚かされるのぉ、ステージ10もクリアして55体全て撃破じゃ!しかもノーダメージじゃ!」


「ええ!」


 真那は驚いた。狐に化かされた顔をしているとはこういう顔だろう。ステージ6で手こずっていた筈が、無傷でクリアしたとはどういうことなのか。



 答えは仁の感覚が今まで以上に研ぎ澄まされ、全てのスケルトンの動きが手に取るように読めて"見抜いて"いたからであった。無論ゾルの力も貢献しているが、仁は真那の命ギリギリに修行に臨んでいた覚悟を知り、慈愛の言葉で戦闘能力の殻を一つ破ったといったところか。


―――または仁が持つスキルの賜物なのか―――


「やったぜ真那!」


 仁は剣を持たない方の手でピースサインを真那に向けた。


 真那は立ち上がり、仁に駆け寄る。真那がこれまで通り回復をしようとするのを見て、仁が止めようとするが、それよりも早く慈愛が止めた。

 慈愛は片方ずつの手を二人にかざし、呪文のようなものを唱えると、両手から光の球体が現れ、その球体が二人を吸い込むように包み込んだ。残っていた傷や疲労が一瞬で回復し、真那の失っていた魔法力も満杯になった。慈愛は二人を一気に回復させる強力な魔法を持っていたのだ。


 もともと光属性の魔法のスキルを持つ慈愛は、この世界で六賢者と称されるほどの実力者である。これくらいのことは朝飯前だったのであろう。

 この修行も、いざという時は慈愛の回復魔法があるという保険が掛けられていたのだ。極限まで力を出し切れたのもその為でもある。



 仁と真那は慈愛の修行の意図を理解し、まさに飴と鞭の使い分けに感謝していた。二人がここまで力を出し切れたのは慈愛の配慮があってこそだった。



「修行の成果は仁に関しては今見た通りじゃが、真那の修行の成果も確認じゃ。真那、魔法書を開いてみろ」


 慈愛にそう言われ、真那は魔法書を手に取る。


 VRセイバーの修行が始まってからは、魔法力による回復に集中していた為、一度も魔法書を開いていなかった。

 真那が魔法書を開くと数ページがパーッと明るく光り、自動でパラパラと捲れ、今まで何も書かれていなかったページから文字が浮き上がった。なんと魔法書には新たに12ページも文字が追加されたのだ。


「ほう、こっちも好成績じゃ!簡単な魔法は1ページに収まっているが、高度な魔法になっていくとページ数も増える。一概に何個の魔法が習得可能になったかは言えないが、旅の道中で少しずつ覚えていくがよい。二人とも修行完了じゃ!」


 仁と真那はガッツポーズをして、それぞれの拳を重ねて喜んだ。何よりも二人には戦いの自信が付いた。修行初めのころと違い、今はたくましくも見える。


 明日と明後日は、どのように目的に向け旅をしたらよいか教えてくれると慈愛は言った。旅立つ前の準備もある。何はともあれ、無事に剣と魔法の修行も終わりを告げたのであった。


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