4日目(8)
(私はきっと、もうこの時間には要らないのだろう)
私の頭の中は、そんな考えで埋まってしまっていた。
(翔君はおじいちゃんと良い関係も築けたし、海ちゃんとも両想いになった訳で、それこそ、私がもうこの時間でするべき事なんて無いんじゃないか)
私がその結論に至るまでは、さほど時間はかからなかった。それどころか、私が居ることで海ちゃんと翔君が遠慮して仲が進展しないだろう事も分かっていた。
(……そろそろ帰らないと)
ただその事実に、私の心は信じられないくらい痛みを覚えてしまう。
(帰りたくないな……)
自分のするべき事が分かっていても、したい事がそれを拒んでしまう。
そう思える程にこの時間は心地よく、お母さんやお父さんと同じ時間を過ごせて、他の誰にも邪魔されない、そんな現状が私を我儘にしてしまう。
(でもやっぱり帰らないと、私だって二人の事が好きなんだもん)
先程聞いたお母さんの言葉を、頭の中で魔法の様に唱えるが、それで私の心が明るくなる事も、体が軽くなる事も決して無かった。
(嫌だな……)
「雫。お昼食べましょ」
「へ?」
そんな私の思考を打ち砕いたのは、すぐ側から聞こえてきた海ちゃんの声だった。
海ちゃんの言葉を理解するのに少しの間を置いて、私は咄嗟に教室についている時計を確認する。
すると、海ちゃんの言っている通り、いつの間にか昼休憩の時間になってしまっていた。
「あら、迷惑だった?」
そんな風に私が驚いていると、海ちゃんは私がそれを確認するのを待っていたか、念押しする様に質問をしてくる。
「そっ、そんなんじゃないけど……」
何故だか海ちゃんの顔を見れずに下を向いてそう答えると、頭の上に温かなものが当たって私は咄嗟に上を見る。
「行きましょう。二人でね」
見上げると、海ちゃんが私の頭を撫でながら、優しい目で私の顔を見つめていた。
その姿に、お母さんを投影してしまい、また泣きそうになってしまう。
海ちゃんはそんな私に気が付いた様で、私の手を引っ張って立ち上がらせてくれる。
「もー。ほら来なさい」
「でも、翔君は……」
「良いのよ。私は友達の雫とご飯に行きたいだけなんだから」
そう言った海ちゃんは、後ろ姿でもわかる程に顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにしていた。
「……うん!」
私は滲んだ視界を拭い去って、今の時間を大事にする様に、海ちゃんと一緒に足を進め始めた。




