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孤得集 ――届かなかった人たち

宇宙人は僕を選ばない

作者: FU
掲載日:2026/05/10

From: きっと選ばれない僕

To: どこかにいるかもしれないあなたたちへ


あなたたちに文字があるのか、僕にはわかりません。


もしなかったら、この手紙はかなり気まずいものになります。けれど、僕はずいぶん長く考えました。


もし文字があるなら、どうかこれを他の誰かに渡さないでください。


僕があなたたちのことを初めて知ったのは、小学四年生のときでした。


その日、僕は熱を出して、リビングのソファに寝ていました。テレビでは宇宙のドキュメンタリーをやっていました。


番組では、太陽はいずれ膨張し、赤色巨星になると言っていました。


ナレーションは、太陽に近い惑星は呑み込まれ、いつか地球も生命に適さない場所になるかもしれない、と言いました。


僕は怖くありませんでした。


そのあと、番組はブラックホールの話になりました。


ブラックホールの中からは光さえ逃げられないこと。


人がそれに近づくと、時間がゆっくり進むこと。


いま僕たちが見ている星の光の中には、ずっと昔に死んだ星から来たものもあること。


僕はその言葉がとても好きでした。


ずっと昔に死んだ星が、まだ光り続けている。


当時の僕には意味はわかりませんでした。ただ、とてもきれいだと思いました。


番組の最後は、地球外生命体の話でした。


宇宙はこんなに広いのだから、人類だけではないかもしれない、と言っていました。


僕は初めて知りました。


世界は、この一種類だけではないのかもしれない。


授業、宿題、試験、ご飯、睡眠、成長、就職、結婚、老い。


それだけではないのかもしれない。


もしかすると、遠いどこかに、別の生命がいる。


彼らは僕を知らない。


その日から、僕はあなたたちのことが好きになりました。


誰にも言いませんでした。


子どもは宇宙人を信じてもいい。


高校生になると、あまりよくありません。


高校生は偏差値や、志望校や、就職のしやすさを信じるべきです。高校生になっても宇宙人を信じていると、少し頼りなく見えます。


そして僕はずっと、自分を頼りになる人間に見せようとしてきました。


僕の成績は、悪くはありません。


この言い方は嫌いです。


「悪くはない」は、まだ努力できるという意味です。


「良くもない」は、立ち止まる資格がないという意味です。


昔、僕は大人になることは自由になることだと思っていました。


でも違いました。


大人になるというのは、周りの人が少しずつ手を離し、こちらが転んでいないふりをしなければならなくなることでした。


昔は、幼稚園も、塾も、ランドセルも、歯ブラシも、みんな大人が選んでくれました。ところがある日、突然、進路希望調査票を目の前に置かれて、こう言われるのです。


「自分でよく考えなさい」


これは変です。


僕には長期的な計画がありません。


明日の午後に雨が降るかどうかさえ、わかりません。


好きだった女の子がいました。


彼女も宇宙が好きでした。ただし彼女は資料を調べ、観測時間を記録し、星の名前を知っている人でした。僕はただ、空を見上げるのが好きなだけでした。


僕たちは学校の天文部に入っていました。


一度、屋上で流星群を待ったことがあります。二時間待って、何も起きませんでした。


風が冷たかった。彼女は袖の中に手を引っ込めて言いました。


「宇宙って、あんまり私たちに協力的じゃないね」


僕は言いました。


「たぶん、僕たちが待ってるって知らないんだよ」


彼女は言いました。


「知ってても、気にしてないのかも」


卒業前、彼女に進路を訊かれました。


「どこに行きたいの?」


僕は言いました。


「わからない」


彼女は言いました。


「君、いつもわからないって言うね」


「わからないことは、悪いことじゃない」


彼女はうなずきました。


「悪くはないよ」


それから僕を見て、とても小さな声で言いました。


「でも、ずっと選ばないままではいられないよ」


僕はその言葉が嫌いでした。


あまりにも正しかったからです。


僕はそういう人間です。


選びたくない。


こちらを選べば、あちらを失う。


一種類の人間になってしまえば、もう別の人間になれたかもしれないふりができなくなる。


僕に未来がないわけではありません。


ただ未来が始まってしまうのが怖いのです。


始まった未来は、あまりにも具体的になります。


住所があり、専攻があり、時間割があり、インターンがあり、履歴書があり、社員証がある。


具体的になりすぎて、もう「もしかしたら」と言えなくなる。


僕は「もしかしたら」が好きです。


もしかしたら、宇宙人が来るかもしれない。


もしかしたら、僕はここに属していないのかもしれない。


そんな考えは幼稚です。


今夜、小学生のころに読んでいた宇宙図鑑を開きました。


ブラックホールのページを開くと、中央は真っ黒で、縁に光の輪がありました。横にはこう書かれていました。


事象の地平面を越えると、いかなる情報も戻ることができない。


僕はその一文を長いあいだ見つめていました。


明日、進路希望調査票を提出しなければなりません。


さっき父がドアをノックして、もう決まったのかと訊きました。


僕は、あと少し、と答えました。


父は言いました。


「いつまでも、あと少しじゃ困るぞ」


僕は、わかってる、と言いました。


「もう子どもじゃないんだから」


ドアが閉まってから、僕は部屋でしばらく座っていました。


急に、あなたたちへ手紙を書きたくなりました。


本当に届くと信じているからではありません。


ほかに誰へ書けばいいのかわからなかったからです。


あなたたちに書くのがいいと思いました。


あなたたちは遠いから。


僕はあなたたちに連れていってほしい。


ここから離れたい。


ここが嫌いなわけではありません。


ただ、ときどき、みんなの期待で、僕は別の人間に押しつぶされそうになります。


もっと筋の通った人間に。


でも僕は、自分がもともと何だったのか、まだわからないのです。


もし今夜あなたたちが来たら、僕はついていくかもしれません。


でも、たぶん迷います。


「十分だけ、荷物をまとめてもいいですか」


そう訊くかもしれません。


ほら。


逃げることさえ、僕はきれいにできません。


だから、あなたたちは僕を選ばないでしょう。


選ぶなら、もっと本当に勇敢な人を選ぶはずです。


もう行く方向を決めている人を。


彼女のような人を。


彼女は星の名前を知っているし、自分がどこへ行くのかも知っています。


あなたたちの星に海はあるのか、と訊くでしょう。


あなたたちは時間をどう見ているのか、と訊くでしょう。


あなたたちも死を怖がるのか、と訊くでしょう。


そしてすぐに、あなたたちの言葉を覚えるでしょう。


僕はたぶん、こう訊くだけです。


「そちらにも、進路希望調査票はありますか」


僕は特別な人間ではありません。


窓の外を、飛行機が通っていきました。


低い音が、遠くからゆっくり近づき、また遠くへ去っていきました。


飛行機には航路があり、乗客がいて、目的地があります。


僕を迎えに来たのではありません。


ただ通り過ぎただけです。


あなたたちも、きっとそうなのでしょう。


もしかしたら本当に存在しているのかもしれない。


もしかしたら、ずっと高いところから地球を通り過ぎ、街を見て、学校を見て、僕を見たのかもしれない。


そして、そのまま先へ進んだ。


僕が悪いからではなく。


僕に価値がないからでもなく。


宇宙は広く、誰かのために長く止まっていることはできないから。


この手紙をここまで書いて、急に終わり方がわからなくなりました。


「来てください」と書きたい。


「あなたたちは必要ありません」と書きたい。


「僕は自分で決めます」と書きたい。


でも、まだ決められていません。


窓の外の飛行機の音は、もう聞こえません。


部屋は静かです。


進路希望調査票は机の上にあり、第一志望の欄はまだ空白です。


僕は空を見上げるのが怖い。


本当に何もなかったら怖い。


何かがあっても、怖い。


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