事件解決、では次は
男は歩いていた。
「くそ...こんな、所で...」
体中の傷からは鉄の匂がする紅が吹き出し、地面にポタポタと垂れていく。
男が通った道は、赤い花が咲いたようになっている。
「せめて、指定...場所には、いかねぇと...」
ぜぇぜぇと肩で息をする男は、その言葉を最後に倒れてしまった。
「...で、これが怪我人と」
「そうみたいですな」
「ひどい傷...」
私とメテオ、それに村長は、寝かせられた男の人を見て呟いた。
がっしりとした体躯の、鮮やかな赤色の髪。おそらく件の冒険者というのが、この男のことだろう。
着ている革製の服はズタズタに引き裂かれ、傷だらけの肌が覗いている。
「噛み傷に打撲か...もしかして、僕達が倒したあの大蛇にやられたのかな」
メテオはそんな判断を下した。
なんでそういうの分かるのよ...
とはいえ、あの大蛇と戦っていたとするなら、まだ息があるのが不思議なくらいだ。
メテオは普通に倒してたけど、私やこの村の人達だったら、犠牲は免れない。
「...いや、生きるように書かれてるのか」
「なんて?」
「なんでもない」
急に意味不明なことを呟いたメテオに私は突っかかるが、軽々しくあしらわれてしまう。
書かれてる、ってどういうことだろう。
そうこうしていると、男の手がぴくっと動いた。
「...う、ここは...」
男は体を起こし、一言呟く。
目を瞬かせ、ぼんやりと虚空を見つめているのを見るに、まだ意識ははっきりしていないようだ。
「お目覚めですか、冒険者の方」
村長は男に、優しく声をかける。
「冒険者...そうだ!指定の場所にいかねぇと!」
すると男は何かに気づいたようで、包帯を巻かれた腕をばたつかせた。
「指定の場所?」
「あぁ。依頼されてから、だいぶ時間が経っちまってる!このままだと、危険が...」
私が聞くと、男はすらすらと状況を説明し始める。
話の内容からして、この村のことを言っているんじゃ...
そこまで言うと、男は落ち着きを取り戻したのか、ようやく私達に顔を向けた。
「...あんた達は?」
「お、やっと落ち着いた?僕はメテオ。こっちの小さいのがルリオンで、こっちが村長のお爺さん」
相変わらず、のんきな口調でメテオは名前だけを伝えていく。
小さいは余計よ、小さいは。
しかし男には、それで十分だったらしい。
「村長...?もしや、コモン村の?」
「いかにも」
震える声で尋ねる男に、村長は厳格な雰囲気でそう応える。
「じゃ、じゃあ蛇の魔物は...」
「こちらのお二方が倒してくださった。はるばる王国から来ていただいて申し訳ないがの」
村長はそう言い切った。
「...倒した?」
男は呆然と、そんな言葉をこぼす。
次の瞬間。
「よ、良かった...間に合わなかったのかと...」
心底安心したような様子で、彼は長い息を吐いた。
その表情には、怒りでも、私達への妬みでもなく、ただただ安堵が現れていたように思う。
──数日後。
「おーい、ヴォルフ!こっちを手伝ってくれ!」
「こっちもお願いするわ!」
「おう!ちょっと待ってろ」
私達は、まだ村に留まっている。
もともと行く宛もなかったため、村長の好意に甘えている形だ。
冒険者の男──ヴォルフも、傷の治療の間、この村に居ることになった。
彼はジョイエッリ王国から来た、シルバー級の冒険者らしい。
まずこの世界には、冒険者と、それをまとめる冒険者ギルドが存在する。
冒険者には級、つまりランクがあり、シルバー級ともなれば、大抵のことには対応できるはずだ。
少なくとも、普通の人間は──
「...ん?僕に何か用?」
「...いや、なんでもない」
──まぁ、この兎を基準にすると、何も当てにならないけど。
私が改めてメテオの異常性を確認していると、こちらにヴォルフが歩いてきた。
「やぁ、ヴォルフ。調子はどう?」
「おう。メテオに、ルリオンだったか?お陰様で、この通り元気だぜ」
そう言って、ヴォルフは鍛えられた二の腕を見せてくる。
私の腰ほどはあろう太さの、丸太のような腕だ。今ではすっかり包帯も取れ、ちょっとした訓練も行っているみたい。
「それは良かった」
私がその様子を見て頷くと、ヴォルフが陽気な笑顔を浮かべる。
「そろそろ傷も癒えるし、王国に戻ろうと思ってんだ」
成る程。
もともと依頼でここに来たんだし、傷が癒えれば国に帰りたくなるのは必然だ。
「ジョイエッリ、ってどんなとこなの?」
相変わらず空気を読まず、唐突にメテオがそう聞く。
「確か冒険者が国の大半を占めているから、中心にある城を除いたら、賑やかな雰囲気の良いところだったはずよ」
私は古い記憶を引っ張り出しながら、不自然にならないよう応える。
「よく知ってるな、実際に行ったことでもあるのか?」
「ほ、本で読んだの」
もちろん、嘘だ。
私が帝国の王女だったことを明かすと面倒なことになるし、ここでは知らないフリを貫くほうが良い。
メテオは、はたして気づいているのか気づいていないのか分からないが、少なくともヴォルフは誤魔化せたようだ。
「...そうだな、二人とも」
しばらく他愛もない会話を続けていると、ヴォルフが次の言葉を切り出した。
「行く宛がないなら、俺が王国を案内してやるぜ」
新キャラ、ヴォルフ登場。
登場から大分駆け足だったので、後半に文を追加いたしました。




