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彼の歪んだ愛の正体

 一ノ瀬選手がその場を立ち去ると、佐藤選手もどこかへ向かったようだった。


彼は、ひどく落ち込んだ様子だった。


2人の会話を柱に隠れ、一部始終聞いてしまったのだ。


僕だって盗み聞きをするつもりは、なかった。


ただ一ノ瀬選手のインタビューをしようと彼女の姿を追いかけただけだ。


「おい如月!リサにインタビューしてきたか?」


その声に僕の背筋は、凝り固まり、ビクッと音を立てた気がする。


先輩が来てしまった。どうしよう?まだインタビューを出来ていない。


正直に言うべきだろうか?


趣味は、筋トレと言うほど毎日トレーニングを重ねて手に入れた先輩の身体がより僕に威圧感を与える。で


も仕方がない。嘘をついて怒られるよりも、正直に話す方が良いだろう。


「インタビューしようと思ったのですが、とんでもない空気だったので話しかけることができませんでした。」


すると、先輩は、意外にも首を横には振らず、縦に振ったのだ。


「やっぱりリサ、落ち込んでたのか?」


確かに一ノ瀬リサは、落ち込んでいた。だが問題は、そこではない。


「違うのか?じゃあ何があったんだよ?」


先輩は、組んでいた腕を解き、身振り手振りで僕の回答を急がせた。


「佐藤選手と言い争っていました。」


「え?あの2人が?」


僕は、宝くじ1億円が当たったと先輩に言ったのかと錯覚する程の驚きようだった。


そうか。僕が見たものは、珍しい光景だったのか。てっきり普段からよく喧嘩をしている2人なのかと思っていた。喧嘩をする程仲が良い2人なのかと。そのくらい2人の言動からは、互いを思い合っていることが重々と伝わってきたからだ。


「一ノ瀬選手が佐藤選手は、1番近くにいるのにずっと遠いって。あの2人は、付き合ってるんですか?」


僕は、この間一ノ瀬選手を取材した時に彼女が口にしたことがずっと気になっていたのだ。


「彼は、私にとっては、なくてはならない存在なんです。」

「なくてはならない存在?」

「朝起きたら、歯磨きをして朝ごはんを食べるじゃないですか?彼は、私にとってそんな感じなんです。」


その時は、何を言っているのかさっぱり分からなかった。だが今ならなんとなく分かる気がした。


「リサも核心をついたな。」


先輩は、僕の気持ちも知らず、笑っていた。


「先輩!僕の質問に答えてくださいよ!」


「ああ。すまない。舞斗とリサは、幼馴染だよ。それ以上でもそれ以下でもない。結局2人の喧嘩は、どうなったんだ?」


「一ノ瀬選手が怒って逃げていきました。どこからどう見ても付き合ってるように見えるのに、一ノ瀬選手は、なぜそのように感じるんでしょうか?」


すると、いつものように佐藤選手の歴史について話し始めてくれた。


8歳の頃に靴を隠された佐藤少年は、助けてくれた一ノ瀬少女に心を開いた。これまでは、こないだ先輩が僕に話してくれた内容と一緒だった。


「だが舞斗がオリンピック初優勝を果たした後、事件は、訪れたんだ。」


「事件ですか?」


「熱愛報道だよ。」


僕は、それまで完全に忘れていた。研修中に佐藤選手について勉強している時に見たあの記事を。


「桜ノ宮あずさ…」


僕は、気づいたら口に出していた。


「お前知ってるのか?この女がまた厄介な女でさ。」


僕は、首を縦に振った。


佐藤選手が初めてのオリンピック優勝後、大人気女優である桜ノ宮あずさと熱愛報道が出たのだった。


「何故ですか?2人が話している様子を見ると、佐藤選手は、一ノ瀬選手を愛しているように見えました。」


「舞斗は、愛する人が自分の側から離れていくことに人一倍怯えているんだ。だからリサに想いを伝えて、側にいられないぐらいなら一生幼馴染のままでいいと思っているんだ。」


彼は、愛を拗らせている。素直にそう感じた。彼の恋愛にも母とのトラウマが関係してしまっているのだ。


そんな彼とは反して、8歳の頃から佐藤選手のことが好きだった一ノ瀬選手は、彼も私のことを好いてくれていると信じていた。


だがそんな中、熱愛報道が出た。記事を見た彼女は、深く傷ついてしまった。だがその後も彼は、彼女に思わせぶりな態度を取ることをやめなかった。


「佐藤選手って意外にも思わせぶりな男なんですね?」


僕は、心の底から彼に失望した。


「まぁ世間的には、そういうことになるかもしれないなぁ。」 


「世間的?」


先輩は、僕の問いを誤魔化すように、


「まぁこの話をすると長くなるからまた今度な。それより舞斗の母親について何かわかったことは、あるか?」 


と尋ねてきた。


彼のファンとしても、彼の歪んだ愛を正してあげなくては。僕は、正義感に駆られた。まずは、母と再会することが1番なのでないだろうか?


「海外にいるとの噂が出ています。」


僕は、この1ヶ月で取材を重ね、佐藤の母が海外に滞在しているとの噂を耳にしたのだ。


「本当か?」


先輩は、僕の肩を両手で掴み、合格発表を受けた両親のように喜んでいた。


「はい。引き続き調べてみます。」


必ず彼の母を見つけ出したい。そう心に誓ったのだった。


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