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52 真夏の攻防戦(2)

 クルーザーに備わっていた魚群探知機を見ながら移動しては糸を垂らし、移動しては糸を垂らしを繰り返したが釣果は無かった。

 釣りはやめて真里も日光浴へと楽しみ方を切り替えた。


 フロントデッキに水着の美少女が四人。ゴロンと横になり、陽を浴びながらお喋りに没頭している。


 真夏の太陽はなかなか水平線へ沈もうとしない。


「真里!」


 キャビン屋上のデッキにいた紀夫が真里の名前を呼んだ。


「なんですか。紀夫さん。」


 真里は首を少し反らして屋上デッキの方を見た。紀夫が上から真里達を見ていた。


「今、何時だ?」


 紀夫はダイバーウォッチの様な完全防水の時計は持っていなかったので、はめていた腕時計は別荘に置いてきた。


「今、五時二十五分ですよぉ〜。」


 腕時計を見た京華が真里に代わって答えた。


角共(すみとも)さん、ありがとう」


 紀夫が礼を言うと京華がモジモジしていた。


「あ…あのぉ」

「どうしたの?」

「真里を呼ぶみたいに、私の事、京華って呼んでもらえたら…」


 寝転がっていた真里が、ガバッと体を起こし京華をギンと睨む。


「何を言い出すの?京華。そんな事、ダメに決まってるでしょ。」

「え、いいじゃない。たかが呼び方なんだし。」

「そうだよねぇ。私も涼子って呼んでもらおうかな?」


 涼子も参戦してきた。


「な…なんで涼子まで!」

「そりゃ、紀夫さんは真里の婚約者だし?真里が下の名前で呼ばれるのは当たり前かもしれないけどさ…」

「私達も紀夫さんと、もっと仲良くなりたい。だから下の名前で呼んでもらう事は重要な事。」


 桃子が涼子の後を継いで言った。


「貴女もなの?桃子…」

「うん。ごめんね?」


 テヘと桃子が舌を出した。


「と言う事で…」


 涼子が体を起こして言った。京華と桃子も体を起こし、三人が紀夫を見上げて言った。


「京華です!」

「涼子です!」

「桃子です!」

「もぉ〜貴女達!紀夫さん、ダメですよ?却下!下の名前呼びは却下です!」


 ヒステリックに真里が言ったが、それに反して紀夫は静かに言った。


「えっと…京華さんに、涼子さん、桃子さんでいいかな?」


 紀夫の呼び方に不満げな四人。

 一人は言わずとも理由はわかる。残り三人の不満は真里とは違っていた。


「さん付けかぁ…」


 と言ったのは京華。


「うん、さん付けねぇ…」


 と項垂れたのは桃子。


「紀夫さん。さん付け、なんとかなりませんか?」


 とお願いしたのは涼子。


「もぉ〜!」


 と牛になったのは真里。


「えー。それじゃ京華ちゃん?涼子ちゃん?桃子ちゃん?」


 紀夫は呼び方をちゃん付けに変えてみた。


「今度はちゃん付けかぁ…」


 うーんと呻く京華。


「まぁ、悪くは無いんだけどねぇ…」


 納得のいかない桃子。


「子供扱いされてるみたいでヤダなぁ…」


 明らかに嫌そうにする涼子。


「そうよね!」

「私達、もう十八なのよ?」

「流石にちゃんは無いわぁ〜」


 三人は声を合わせた。


「「「呼び捨てでお願いします!」」」


「貴女達!いい加減にしなさいー!」


 真里が顔を真っ赤にして怒鳴った。


「わかった、わかった。じゃあ、真里、京華、涼子、桃子。そろそろ帰るからライフジャケットを着てくれないか?」

「はーい!」


 四人は後部デッキに移動してジャケットを着用し、屋上デッキへと上がってきた。


「紀夫さん、着けてきました!」


 桃子が嬉しそうに言った。京華と涼子も嬉しそうな顔をしている。

 真里だけが憮然としていた。


 操縦席に紀夫が座り、その横に真里が座った。

 一列後ろの席に三人が座る。


 紀夫はエンジンを始動すると、一路別荘に向けて舵を切った。


「真里、そんなに怒る事か?」


 頬を膨らませ、視線をまっすぐ前に向け海を見つめる真里。


「紀夫さんに私の気持ちは分からないと思います。」

「うん、分からないな。」


 ここで『分かってる』と言うのは間違いだと、今までの経験で紀夫は知っている。


『何を分かってるのですか?』

『分かっててやったのですか?』


 質問に叱責…後の展開は読める。

 だから分かってないフリをした。

 分かってて言った。


「まぁ、紀夫さんならそう言うと予想してましたけどね。」


 意外にも真里がそう言ったのに紀夫は驚いた。

 チラリと真里を見ると、先ほどとは打って変わって笑みを浮かべ満足そうにしていた。


「でもですね。気をつけて下さい。あの三人がこれだけで満足などしませんから…」

「どう言う事だ?」

「私にも分かりません。突拍子もない事をしでかすのが若さですからね」

「そう言う真里もあの子達のお友達だろうに。」

「私は彼女達とは違いますよ?」

「そうか?俺にはそう思えないのだがなぁ」


 これまで真里が冒してきた所行を思い出していた。


 紀夫は大きく揺れないように、二十ノット(時速約四十キロ米)の速さでクルーザーを走らせ、三十分足らずで別荘まで戻ってきた。

 マリーナにクルーザーを係留し、別荘の使用人に後の片付けを任せる。


「お帰りなさいませ。今夜の夕食はお言いつけ通りダイニングにご用意しております。」


 別荘の玄関で待っていた管理人が真里に言った。


「ありがとう。一時間後の七時から頂く事にします。」

「畏まりました。」


 管理人が厨房へと去っていった。


「皆んな、晩ご飯は七時からね。時間になったらダイニングに集まって。」


 真里がそう言って一旦解散となった。

 紀夫も与えられた部屋に入る。真里の荷物が置かれたままだった。

 いや、さらに様々な衣装が吊るされた移動式のハンガーラックが増えている。


「紀夫さん、早くシャワーを浴びて着替えましょ?」

「なぁ、なんで真里が一緒に部屋に入ってくるんだよ?」

「お昼に言いましたよね?紀夫さんと私は同じ部屋だって。」

「馬鹿やろ!そんな事、認められる訳ないだろう!」


 紀夫は真里の背中を押しながら部屋の外へと追いやろうとした。


「イヤん…紀夫さん、背中に手が…」


 真里がクネクネと体を(よじ)った。真里がクルリと身を捩り、紀夫の胸に飛び込む。両腕を紀夫の首に絡ませる様に回した。


「分かりました。部屋は別々にします。」


 真里はそう言って背伸びをすると、唇を紀夫の唇に重ね、舌を侵入させる。


「…んふぅ…んっんっ…」


 下腹部に何かが当たるのを確認した真里は満足したのか唇を離した。


「七時にダイニング集合ですから、遅れないで下さいね。」


 そう言って真里は部屋から出ていった。

お読みいただきありがとうございました。


(`-ω-)y─ 〜oΟ

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