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19 とある新婚?家庭の様子

 午後四時頃に紀夫は佐々倉の家を後にした。真里は少し不服そうだったが、何かを察している様で紀夫を無理に引き止めることはしなかった。

 車で送ってもらい、五時には家についた。途中、家の近くの洋菓子屋に寄ってもらいショートケーキを買った。

 家の前で車は停まる。運転手が降りようとしたので紀夫はそれを制し、礼を言って自分でドアを開け車を降りた。走り去る車が一つ目の交差路を曲がって行くまで見送ると、紀夫はインターホンのボタンを押した。


ガチャ


 玄関ドアが開かれ、中学生の頃からずっと見慣れた美人が和かに笑みを浮かべながら出迎える。


「おかえりなさい。」


 ゆったりとした鶯色のカットソーにデニムのワイドパンツ。ダークブラウンの髪をシュシュでサイドアップに軽くまとめただけなのに、何故か色気がある。エプロンをかけているのが妙に眩しい。


「何処の新妻さんですか?」


 紀夫は照れを隠すために発した言葉だった。


「馬鹿な事言ってないで、早く入りなさいよ。」


 楓は紀夫に促すと家の中に戻っていった。


『貴方の新妻にいつしてくれるのかしら…』


 楓は待っている。紀夫に早く決断して欲しいと、最近は特に思うようになった。真里の出現が理由なのも認識している。


 紀夫は玄関に入るとウィングチップを脱ぎ、上り(かまち)に上がる。


「ただいま。」

「おかえり。」


 楓が右手をスッと出す。紀夫はケーキの箱を右手に乗せた。


「ありがとう。気遣いのできる旦那様で嬉しいわ。」

「誰が旦那様だよ。」

「紀夫が。」

「誰の?」

「私の。」

「俺たち、いつ結婚したんだ?」

「明日?」

「するのかよ?」

「しないの?」

「別に明日じゃなくても良いだろ。明日は日曜で役所も休みだし。」

「休日でも婚姻届は受け取ってくれるわ。」

「それは知らなかった…じゃなくて、とりあえず明日でなくても良いだろ。」

「じゃあ明後日。会社休むわ。役所も営業してるから大丈夫。」

「結婚したいのか?」

「したいわ。」

「まだプロポーズしてないぞ?」

「言ってくれるの待ってたけど、待ち続けると手詰まりになりそうな気がするから省略可とします。」


 楓はケーキの箱を冷蔵庫に入れ、紀夫に向き合う。


「き…着替えてくる。」


 紀夫は逃げるように自分の部屋へと入っていった。楓はハァッと溜息を吐くと後を追うように部屋に入る。


「おじさんから電話があったわよ。」


 楓は紀夫が脱いだベストとジャケットを受け取るとハンガーにかけながら言った。


「いつ?」


 紀夫はベルトを緩め、スラックスを脱

ぎながら訊いた。


「紀夫が帰ってくる少し前。携帯に繋がらなかったって言ってたけど。」


 佐々倉邸にいる間、紀夫はスマートフォンの電源を切っていた。普段、電源を切る事をしないので、電源を入れ忘れていた。


「何か言ってたか?」


 スラックスを楓に渡し、ベッドに脱ぎ捨てられていたリーバイスを履く。


「明日の夕方におじさん、こっちに帰って来るそうよ。」


 楓はスラックスをズボンハンガーにかけるとクローゼットに直した。


「何しに来るんだろう。」


 紀夫がネクタイを外すと楓は受け取りネクタイ掛けに引っ掛ける。


「月曜日に本社で支社長会議があるって。」

「明日の夜はこの家で寝るって事か。」

「家がこちらにあるから、出張といってもホテル代が出ないそうよ。」


 楓は紀夫が脱いだYシャツを受け取ると部屋を出ていった。紀夫も左腕からタグホイヤーを外し、サイドボードの上に置くと部屋を出た。


 紀夫はリビングのソファに腰を下ろし、ラッキーストライクを咥えると火をつけ、紫煙を燻らせた。


「何か飲む?」

「ビールをくれ。」

「はーい。」


 楓は冷蔵庫から缶ビールとジョッキグラスを取り出し、ビールをジョッキグラスに注いだ。七対三の理想の泡が蓋を作った。


「はい、どうぞ。」


 楓がソファの前のローテーブルにコースターを置き、その上にジョッキグラスを乗せた。


「サンキュー。」

「おつまみは?」

「要らない。もうすぐ晩飯だろ?」

「ありがと!」


 楓はンフフ〜と締まりの無い顔をしながら台所へと戻っていく。ふんふん♪と鼻歌を歌いながら夕食の支度を始めた。


『紀夫のそういうところ、大好きよ…』




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「ごちそうさまでした。」

「お粗末様でした。」


 楓の料理は何を食べても美味しい。紀夫は楓に心の中で感謝した。

 今日の献立は中華だった。油淋鶏、麻婆茄子、八宝菜、卵スープ。どれも天下一品と言える品だった。


 楓が食器洗いをしている間に、紀夫は風呂の用意をした。紀夫が戻ってくると楓は食器を洗い終わり、布巾で拭いていた。


「手伝うよ。」

「ありがとう。」


 紀夫が拭き終わった食器を食器棚へと片付ける。二人で作業したので、あっという間に片付いた。


「ケーキ食べよ!」

「さっき晩飯食ったばかりだろ。」

「甘いものは別腹って言わされるのは何度目かしらね?」


 楓はそう言いながら、冷蔵庫からケーキの箱を取り出していた。やれやれと言いながら紀夫はダイニングテーブルにつく。楓は皿とフォークを出すとケーキの箱を開けた。枇杷(びわ)を使ったフルーツショートだった。上に佐藤錦が一粒乗っている。


「美味しそう〜」


 楓が嬉しそうにして皿にケーキを移し替える。


「いただきま〜す!」


 フォークでケーキを一口大に切り、それをフォークで口に放り込む。枇杷の香りと上品な甘みが口に広がる。


「美味しい〜!」


 楓の喜びように紀夫は顔が緩んだ。ケーキを食べ終え、残っていた佐藤錦を口に入れると酸味がそれまでのケーキの甘ったるさをリセットしてくれた。

 楓は佐藤錦の軸を口に入れると、モゴモゴモゴと口の中で舌を動かす。しばらくして口から結ばれた軸が生み出された。


「私って器用でしょ?」


 楓が自画自賛する時は大抵ドヤ顔をするのだが、この時は違った。口角が上がりニヤリと笑っている。まるで小悪魔のように。紀夫は身の危険を覚えた。


「ふ、風呂入ってくる。」


 風呂場へと逃げた。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




ザバァ〜〜


 紀夫は浴槽に身を沈め、一息ついた。


『今日の楓、変だ。何故グイグイくるんだろう?』


 うーんと考えてみるが理由がわからない。


「着替え置いとくわね。」


 ドアの向こうで楓が言った。が、気配が消えるどころか衣擦れの音がする。


ガチャリ


 ドアが開いて楓が入ってきた。生まれたままの姿だった。無駄な贅肉のない、引き締まった綺麗な裸体である。


「背中、流してあげる。」


 二人で風呂に入る事は何度となく経験してきている。だがそれは旅先の温泉で家族風呂を借りた時や、ラブホテルでの出来事で、紀夫の家の風呂でした事はない。紀夫は少し恥ずかしくなった。


「女に恥をかかせないで。」


 楓も少し恥じらっている。それがやけに可愛らしく、紀夫も決心して浴槽から出た。

 紀夫が椅子に座る。楓は紀夫の愛用しているボディタオルに石鹸をつけて、紀夫の背中を洗い出した。背中が終わると紀夫の脇の下から腕を通してほどほどに厚い胸板を洗い出した。


「おい、背中だけじゃないのか?」

「それだけで済むと思ったの?」

「だよな…」

「わかりきった事を訊かないの!」


 楓の手が胸から腹、そして股間へと洗う範囲を下げてくる。背中には程よい大きさの楓の武器が押し付けられ、苦しそうに形を変えていた。


「後で私の体を洗ってね。」


 紀夫の耳元で楓は艶かしく呟いた。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 風呂から上がり、二人で動画配信サービスの映画を二本観た。観終えた時は、日付が変わっていた。


「さて、寝るか。」


 紀夫がソファの背もたれに背中を預けて伸びをした。


「ねぇ、紀夫。」

「なんだ?」

「今夜は一緒に寝ましょ。」

「どうした?」

「だって…」

「ん?」

「最近、抱いてもらってない…」


 あ!と紀夫は思った。海外出張とか真里の一件とかでドタバタしていて、楓にかまってあげてなかった。今日の楓はかまってちゃんだったのかと、楓に言われて気付く。ダメだなぁ俺はと自己嫌悪に陥った。


「すまなかった、楓。」

「甘やかしてくれる?」

「ああ、いっぱい甘やかす。」

「ホント?」

「本当だ。」

「嬉しい…」


 楓は紀夫に顔を近づけて唇を重ねた。楓の舌が侵攻を始める。紀夫は楓の進軍を受け入れる。楓の舌は伊達にさくらんぼの軸を結ぶだけではなかった。


「…ん…うん…ん…」


 楓の呼吸が少しずつ荒くなる。時間にして数分。唇が離れた。楓は恍惚とした顔になっていた。目が少し潤んでいる。


「布団に行くか?」


 紀夫の部屋にはベッドがあるが、シングルなので体格の良い二人で寝るには狭すぎる。風呂から上がった後、紀夫は楓のために客間の和室に布団を敷いておいた。


 コクリと頷いた楓の手を取り、紀夫は楓を客間へとエスコートした。

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(`-ω-)y─ 〜oΟ

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