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第七章 悪役令嬢、名探偵ですわ!?

「カイル」


「…………」


 数秒。


 静寂が流れた。


 やがて。


「……ふふ」


 カイルが笑った。


「君には、お見通しだったわけか」


 カイルが、ぽつりと呟いた。


「 ....彼女、リリアは生まれた頃から


ずっと俺の隣にいたんだ」


 その声には、もう先ほどまでの穏やかさはなかった。


「家も近くて、幼い頃から一緒に遊んで……嬉しいことも、くだらないことも、全部一緒だった」


 カイルは俯いた。


「だから、俺は……いつか彼女と結婚するんだと思ってた」


「…………」


「それが、当たり前だと思ってたんだ」


 少しだけ笑う。


 けれど、その笑顔はひどく寂しかった。


「なのに……」


 指先が震える。


「彼女、好きな人ができたんだって」


 アリアは黙って聞いていた。


「突然だったよ」


 カイルの声が掠れる。


「何も変わらなかったのに」


「…………」


「『好きな人ができた』って」


 その言葉を、噛み締めるように繰り返す。


「俺、何も言えなかった」


「祝福の言葉すら?」


「……言えなかった」


 カイルは苦しそうに笑った。


「おめでとう、なんて……どうして言えるんだよ」


 そして。


「相手が王太子だと知った」


 握った拳が震える。


「この国の王子様は殺せないだろ?護衛もいる」


「…………」


「俺がどれだけ憎くても、どれだけリリアを奪われたと思っても……あの人には手を出せない」


 カイルはゆっくり顔を上げる。


「でも」


 その目には、狂気とも悲しみともつかない色が浮かんでいた。


「リリアなら」


「…………」


「俺以外の男と結婚するくらいなら――」


 アリアは静かに彼の言葉を引き取った。


「自分が、殺してしまおう」


「…………」


「そう考えたのですわね」


 長い沈黙。


 やがて。


 カイルは小さく笑った。


「もっと時間がかかると思ってた」


「私を誰だと思っていますの?」


 アリアは胸を張る。


「古畑○○郎や相○を熟知している女ですわよ!?」



 ――バーン!!


「動くな!!」


 旧図書塔の扉が勢いよく開いた。


「騎士団だ!!」


「カイル・アーヴェル! 殺人の罪で逮捕する!」


「……完敗だね」


 カイルが呟いた。


 騎士に連行されながら。


「でも、最後まで君を騙せる自信はあったよ」


「...そうでしょうね」


「え?」


「あなたが犯人だと確信したのは、本当に最後ですもの」



「それに」


「…………」


「あなたが私の推理を手伝ってくださらなかったら、もっと時間がかかっていたでしょうね」


「…………そうだね」


 カイルは苦笑した。


「自分で自分を追い詰めてたってわけか」


そして。


カイルは騎士団に連れて行かれた。



 事件が解決した翌朝。


 学園には、ようやく平穏が戻り始めていた。


 皇太子エドワードは、リリアの死を悼みながらも、事件の真相が明らかになったことに安堵していた。


 転生して。


 たった数日。


 ゲームの世界だと気づいた直後に殺人事件。


 しかも。


 自分は悪役令嬢。


「…………」


 アリアはため息をついた。


「普通、転生初日ってもっとこう……」


 キラキラした恋愛イベントとか。


 イケメンとの運命的な出会いとか。


「殺人事件じゃありませんわよね!?」


 アリアは腕を組む。


 そして。


 ふっと笑った。


「まあ」


 悪役令嬢だろうが。


 転生者だろうが。


 ゲームの世界だろうが。


 殺人事件が起きるなら。


「――この私が、全部解決して差し上げますわ!」



転生初日に始まった密室殺人事件は、幕を閉じた。


 ――ただ。


 この時のアリアは知らなかった。


 思い出せなかった「死」の記憶が。


事件当初、扉の前にいた謎の男も。


それが。


 この世界でこれから起こる事件と、深く繋がっていることを。


 彼女の知っている「ゲームの物語」から大きく外れ始めていた。

最後まで読んでくださって、ありがとうございました。


アリアの物語は、ひとまずここで幕を閉じます。


続編は――また機会があれば。


その時は、彼女が忘れている「死」の記憶と、この世界に隠された新たな事件をお届けします。

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