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おっさん、三国志の世界で軍師をやる 〜200回読んだ知識と計略で気づけば英傑が集まっていた〜  作者: ライディーンたけ


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第三十五話 ─ 再会、桃の涙、新たな民




【前回までのあらすじ】

 夏明国王は決断した。「林徳は明国を勝手に抜け出した独断者である。明国は彼の身柄を引き渡す権限を持たない。なぜなら田家村は、明国の正式な支配下ではないからである」。雪麗の知略と寸分違わず、一致していた。同じ刻、玄朝の山道で、林徳一行は玄朝・陳派の徐光と接触。関子陽の弟子だった徐光と暫定的な同盟を結んだ。一方、田家村では、桃が神社の丘の上で西の空を見ながら呟いていた。「徳兄さま、もうすぐ帰ってくる」。第四部の幕は、いまゆっくり降りようとしていた。第五部、田家村独立への道。その先に、季雲との最終決戦と、林徳の新しい生き方が、待っていた。



【主な登場人物】

 林徳(りん とく)    主人公。十歳

 関明慶(かん めいけい) 主人公の最初の家臣

 関明徳(かん めいとく) 関明慶の弟、傷は回復中

 (れん)       北方民の女猟師

 雪麗(せつれい)    亡国の姫

 銭弼(せん ひつ)    田家村の指揮官

 (ちょう)      男手の頭

 ()        徐・陳の盟友

 (とう)       趙の五歳の娘

 夏明国王の密使    明都からの正式な使者

 ()        玄朝からの最初の流民(今回登場)

 夏明国王       明国の若き君主

 季雲(き うん)     もう一人の転生者




 明国の街道。

 玄朝の国境を越えて、二日目。

 五頭の馬が、田家村への最後の道を進んでいた。

 春の終わり。

 道端の草が、薄い緑に、染まっていた。

 関明徳の傷は、ずいぶん、塞がっていた。

 彼は、ようやく、自分の力で、馬を、御していた。

 関明慶の表情に、深い安堵があった。

 弟が、自分の足で、明国の地を、踏んだ。

 その事実が、武人の二十年の重みをわずかに軽くしていた。


 雪麗は、林徳の馬の、後ろから、彼の十歳の体を、抱えていた。

 彼女の白い手が林徳の小さな胸の前で組まれていた。

 二月以上、二人で同じ馬に乗っていた。

 その温もりが林徳の四十年の社畜の心をゆっくり温めていた。


「徳殿」


「雪麗さま」


「あと、半日でございます」


「左様でございますね」


 林徳の声に、わずかな震えがあった。

 桃に会える。

 銭弼さまに会える。

 趙さま、李さま、村の皆さまに会える。

 そして徐、陳、張の墓の前で深く、頭を下げる。

 それが、明日の彼の役目。



   ◇  ◇  ◇



 昼。

 田家村の入り口の、最後の丘。

 馬の蹄の音が、ようやく聞こえる距離まで近づいた。

 その丘の上で、桃と、銭弼が、立っていた。

 桃の小さな手に雪麗が贈った、布の人形。

 彼女は、もう五日も、この丘の上に、立ち続けていた。

 毎朝、毎夕。


「銭弼さま」


「桃」


「来たよ」


「左様で、ございますか」


 桃の声に、揺るぎはなかった。

 彼女の目は、西の街道の、遠くを、見ていた。

 五頭の馬の影がわずかに見え始めていた。

 銭弼の心臓がわずかに、波打った。

 雪麗誘拐から、十二日。

 林徳が玄朝へ向かってから、八日。

 計算通りの戻り。

 しかし彼の中で、不安が混じっていた。

 ──「お五人、全員でお戻りなのか」。



   ◇  ◇  ◇



 馬の影が、徐々に、近づいた。

 桃の体が、わずかに震えた。

 四つではない。

 五つの馬。

 四人で出発したはずの一行が五人で、戻ってきた。


「桃」


「銭弼さま、五頭おる!」


「左様でございますね。──ご無事だったのかも、しれません」


 桃の小さな足が、丘を駆け降りた。

 彼女の小さな体が街道に向かって走り出した。


「とくにいさま!!」

「ゆきねえさま!!」


 桃の声が、田家村の入り口の街道に、響いた。

 五頭の馬がゆっくり止まった。

 林徳の十歳の目から、涙が、こぼれた。

 雪麗の白い頬にも、涙が、伝った。



   ◇  ◇  ◇



 林徳が、馬から、降りた。

 桃が、彼の腰に、抱きついた。

 小さな手が、しっかり、彼を、握っていた。


「とくにいさま」


「桃」


「とくにいさま、おかえりなさい」


「桃。──ただいま戻りました」


 桃が、林徳の顔を、じっと、見上げた。

 五歳の女の子の、確信に満ちた目。

 もう涙は、流れていなかった。

 代わりに、本物の、喜びが、その小さな顔に、満ちていた。


「桃、桃の信じる気持ちが私を田家村まで、連れてきました」


「うん。──知ってた」


 雪麗が、馬から、降りた。

 桃が、雪麗の方を、見た。


「ゆきねえさま」


「桃」


「ゆきねえさまも、おかえりなさい」


 雪麗が、しゃがんで、桃を、抱きしめた。

 二月ぶりの抱擁。

 雪麗の体が、わずかに震えていた。

 亡国の姫の二十年。

 彼女が桃という本物の家族を取り戻した、瞬間だった。



   ◇  ◇  ◇



 銭弼が、丘を、降りてきた。


「林徳どの」


「銭弼さま、ご無沙汰しております」


「ご無事で、ようございました」


 銭弼の目がわずかに、潤んでいた。

 四十六歳の戸部の役人。

 雪麗誘拐の夜から、彼は、村の指揮を、執り続けてきた。

 その重みがいま、ようやく降りようとしていた。


「銭弼さま。──関明慶どの、関明徳さま、蓮さま。皆ご無事でございます」


「関明徳さま、と申しますと」


 関明徳が、馬から、降りた。

 左肩に、まだ布を、巻いていた。

 彼は銭弼の前で深く、頭を下げた。


「銭弼さま。──関明慶の弟、関明徳でございます。お初にお目にかかります」


「お会いできて、光栄でございます」


 銭弼は、深く頷いた。

 戦盤で読むまでもない。

 彼の中で、関明徳が、村の、新しい仲間として、即座に、認識されていた。



   ◇  ◇  ◇



 村人たち、全員が、村の入り口に、集まってきた。

 趙、李、新参の二十六人、女手たち、村の長老衆、子供たち。

 六十人を超える村人たち。

 雪麗の姿を、見た、その瞬間。

 女手たちの目から、一斉に、涙が、こぼれた。

 趙が、林徳の前に、跪いた。


「主」


「趙さま」


「ご無事で、ようございました。──そして雪麗さまをお救いくださり、ありがとうございます」


「趙さま。──私の力ではなく、皆さまのお力でございます」


 林徳は深く、頭を下げた。

 趙の目から、涙が、流れた。

 元・山賊の頭領。

 彼は、四十年、彼の人生で、二度目の、本物の涙を、流していた。

 徐、陳、張、三人の手下を、失った。

 だが村は生き延びた。

 雪麗さまも林徳も、戻ってきた。

 その事実が彼の心の最後の重みを、解いていた。



   ◇  ◇  ◇



 その日の夕方。

 林徳、雪麗、関明慶、関明徳、蓮の五人は、村の北の、小さな丘に、立っていた。

 三つの石の墓標。

 徐、陳、張。

 雪麗が、白い、小さな花を、三つ、墓標の前に、置いた。

 関明徳が、深く頭を下げた。


「徐さま、陳さま、張さま。──関明慶の弟、関明徳でございます」


 関明徳の声に、深い敬意があった。


「皆さまの、お命の犠牲が、いま、田家村の、独立への道を、開きました。──私は、皆さまの分も、村のために、命を、捧げます」


 林徳が、深く頭を下げた。


「徐おじさま、陳おじさま、張おじさま。──ただいま戻りました」


 林徳の声が、わずかに震えた。


「皆さまの、最期の言葉を、私は、忘れません。──『村人として、死ねて、幸せだった』。──皆さまは、本物の、田家村の、村人でいらっしゃいました」



   ◇  ◇  ◇



 雪麗が、墓標の前で、白い手を、組んだ。


「徐さま、陳さま、張さま。──あなたさまがたがいらっしゃったから、私は林徳どのに、もう一度お会いできました」


 雪麗の声に、揺るぎはなかった。


「私の命の続きは、あなたさまがたの命の続きでもございます。──田家村を、皆さまの誇りにいたします」


 三つの墓標の前で、五人が、長く、頭を、下げ続けた。

 春の終わりの夕日が、丘の上を、優しく、照らしていた。

 徐、陳、張、三人の、最期の言葉が、田家村の地に、深く根を、下ろした。

 ──「過去を問わぬ」林徳の理念が、三人の命で、証明された。

 その理念はいま、田家村の独立の土台になっていた。



   ◇  ◇  ◇



 その夜、林徳の家。

 二月ぶりに、林徳が、自分の家の、囲炉裏に、座った。

 母はすでに、眠っていた。

 桃が、林徳の膝の上に、座っていた。

 雪麗、関明慶、関明徳、蓮、銭弼が、囲炉裏を、囲んでいた。

 趙と、李、村の長老衆、藤、村の主だった、人々も、その家に、集まっていた。


「皆さま」


 林徳がゆっくり、口を開いた。


「明都での結果と、玄朝での結果を、ご報告いたします」


 彼は、すべてを、語った。

 明都での、夏明国王との改革協議。

 季雲との、思想バトル。

 雪麗誘拐の急報。

 明都を出立し、街道を駆けた五日間。

 関明徳との、出会い。

 玄朝への潜入。

 呉永寿の別邸での、救出戦。

 季雲の真の罠。──林徳を、明国に帰れない、亡命者に、する計画。

 張の死。

 雪麗の知略。──第三の道。

 玄朝・陳派の徐光との、暫定的同盟。



   ◇  ◇  ◇



 話を、聞き終えた、銭弼が、深く息を吐いた。


「林徳どの」


「銭弼さま」


「お一つ、ご報告がございます」


「お聞かせください」


「本日、午後、明都から、お一人の使者が、村に、参られました」


 林徳の体が止まった。


「夏明国王さまの、密使でございます」


 銭弼は、机の上に、一枚の書状を、置いた。

 封蝋に明国の、正式な紋章。

 しかし、戸部のものでも宮中の公式のものでもない。

 夏明国王の、私印。

 林徳が書状をゆっくり開いた。



   ◇  ◇  ◇



 書状の内容は、簡潔だった。


 『林徳どのへ


 玄朝中央への、明国の正式な返答を、本日、お送りした。

 その内容は、「林徳は明国を勝手に抜け出した独断者。明国は彼の身柄を引き渡す権限を持たない。田家村は、明国の正式な支配下ではないからである」。

 これは、雪麗さまの、お知恵と、私の決断の、結果である。

 田家村は、本日より、明国の正式な支配外の地と、認定する。

 ただし、いかなる時も、田家村は、明国の友人である。

 いつでも、私の門は、あなたさまに、開かれている。


 夏明国王』


 林徳の十歳の手がわずかに、震えた。

 雪麗の知略の道が、いま現実になった。

 田家村は本日から明国の、正式な支配外の地。

 明国でも玄朝でもない、第三の場所。


「皆さま」


 林徳の声が、囲炉裏の周りに、響いた。


「夏明国王さまのご決断により、田家村は本日より独立の地と、なりました」


 囲炉裏の周りに、深い、沈黙が、流れた。

 誰もが、その意味の、重さを、噛みしめていた。



   ◇  ◇  ◇



 趙がゆっくり、口を開いた。


「主。──独立、と申しますと」


「左様でございます、趙さま。──私たちの村は、もう明国の村でも、玄朝の村でも、ありません。──私たちの、村でございます」


「ですが、玄朝の追っ手は」


「玄朝中央への、明国の正式な返答が、本日、出されました。──玄朝は、明国に、林徳どのの引き渡しを、要求できなくなりました。代わりに、玄朝が、田家村に、直接、追っ手を出すことは、可能でございます。ですが、その時は、村の地形と、皆さまの、お力で、お守りいたします」


 関明徳が、深く頷いた。


「林徳どの。──玄朝・陳派の徐光どのに、お声がけすれば、玄朝中央で、季雲と袁派の動きを、抑えてもらえます。──追っ手が、田家村まで、来る可能性は、低うございます」


 趙の目がわずかに、見開かれた。


「主。──ならば田家村は、本物の独立の地になられたのですね」


「左様でございます」



   ◇  ◇  ◇



 その時、戸口で、低い声が、響いた。


「失礼いたします!」


 全員が、戸口を、見た。

 李が、戸を、開けた。

 外に、見知らぬ、男が、立っていた。

 三十代半ば。痩せた体。汚れた衣。

 明らかに、長い旅の途中の姿。

 彼は、林徳の方を、見た。


「林徳さまで、いらっしゃいますか」


「左様でございます」


「私は、()と、申します。──玄朝の北、流民の出でございます。──田家村が、独立の地に、なるとの噂を、聞き、お頼り申し上げに、参りました」


 林徳の体が止まった。

 雪麗が彼の隣で、深く頷いた。

 彼女は、即座に、理解した。

 ──「噂は、すでに広がり始めている」。



   ◇  ◇  ◇



「顧どの、どこから参られましたか」


「玄朝の北。──雪山のふもとの、小さな村でございます。──玄朝・袁派の徴税の重さで、村が立ち行かなくなり、村人十二名で明国南へ、逃れて参りました」


「十二名、と申しますと」


「左様でございます。──村の外で、皆を、待たせております。──私一人で、まず、お話を、お伺いに、参りました」


 林徳の戦盤が瞬時に、回り始めた。

 ──「玄朝の流民、十二名。──田家村が独立の地になる噂を聞いて、来た」。

 ──「噂は玄朝の北まで、伝わっている」。

 雪麗が、低く、口を開いた。


「徳殿。──玄朝・陳派の方々が、私たちの独立の話を玄朝の中で、広めてくださっているのでしょう。──彼らにとっても田家村の独立は、季雲と袁派の力を削ぐ材料になります」


 林徳は深く頷いた。

 季雲と袁派が玄朝の中で最も恐れていることは、玄朝の民が田家村を本物の希望の地として、見始めること。



   ◇  ◇  ◇



「顧どの」


「はい、林徳さま」


「十二名の皆さまを、お迎えいたします」


「林徳さま」


「ですが、お一つお約束いただきとう、ございます」


「お聞かせください」


「田家村は、明国でも、玄朝でもない、独立の、土地でございます。──過去を、問いません。ですが、村の決まりには、必ずお従いください。働ける者は、働く。年寄りと、子供は、村全体で、お守りする。それだけでございます」


「承知いたしました。──そのご決まりを、私たちは心から、お慕い申し上げます」


 顧は深く頭を下げた。

 その目から、涙が、流れていた。

 長い旅の疲れと安堵が、混じった涙。



   ◇  ◇  ◇



 夜、村の入り口の、広場に、十二名の流民が、集まった。

 男七名、女三名、子供二名。

 全員、長旅で痩せていた。

 林徳が、村人たちと、彼らを、迎えた。


「皆さま、田家村へようこそ」


 林徳の声に深い温もりが、あった。


「ここは、皆さまの新しいお家でございます」


 流民たちの中から、声を、上げる者は、いなかった。

 ただ誰もが、深く頭を下げた。

 雪麗、関明慶、関明徳、蓮、銭弼が、その光景を、見守っていた。

 桃が、林徳の足元で、彼の手を、握っていた。


「とくにいさま」


「桃」


「みなさま、たくさんなるの?」


「左様でございます、桃。──皆さまが、たくさんなります」


「桃、うれしい」


 桃の小さな声に、本物の喜びが、満ちていた。



   ◇  ◇  ◇



 その時、玄朝の領内、季雲の馬車。

 明都への、戻りの途中。

 彼女の手元に、また新しい書状が、届いていた。

 差出人は、玄朝・袁派の別の手下。

 書状の内容は、短かった。


 『季雲さまへ


 玄朝の北、雪山のふもとから、流民、十二名が、明国南へ、逃れた、模様。

 目的地は、田家村と、推定される。

 他にも、複数の村で、田家村への移住を、検討する者が、出始めております。


 手下』


 季雲の体がわずかに、止まった。

 歴史学者の頭の中で、新しい、計算が、始まった。

 彼女は、林徳の、最大の武器が、人を信じる力であることを、知っていた。

 だが、それ以上の、もう一つの武器を、彼女は、計算に、入れていなかった。

 ──「彼が独立の地として田家村を開いた、その瞬間、玄朝と明国の苦しんでいる民が、彼の元へ集まり始める」。

 季雲の口元がわずかに、引き締まった。


(林徳どの。──あなたは私の罠を、独立の道に変えてしまった)

(そして、いまあなたの村は、雪山の流民から徐々に大きくなろうとしている)



   ◇  ◇  ◇



 夜の田家村。

 林徳の家で、囲炉裏の火が、揺れていた。

 桃が、林徳の膝の上で、寝ていた。

 雪麗が、林徳の隣に、座っていた。

 関明慶、関明徳、蓮、銭弼、趙、李が、囲炉裏を、囲んでいた。


「皆さま」


 林徳の声に深い覚悟が、あった。


「田家村は、本日より、明国でも、玄朝でもない、独立の地に、なりました。──そして、今夜、玄朝から、十二名の流民が、村に、加わりました」


「主」


「これから私たちは、村をただの田舎の小村ではなく、本物の独立の村として立て直さねば、なりません」


 銭弼が深く頷いた。


「林徳どの。──私の戸部での経験で、村の新しい体制の設計図を、お作りいたします」


「お頼み申し上げます、銭弼さま」



   ◇  ◇  ◇



 関明徳がゆっくり口を開いた。


「林徳どの。──玄朝・陳派には、政治の使者・徐光どのだけでなく、技術の人々もございます。──陶工、鍛冶師、医者。──季雲と袁派の弾圧で行き場を失った、玄朝の技術者たち」


「関明徳さま、それは──」


「徐光どのにお頼みすれば、彼らを密かに田家村に、お招きすることが可能でございます」


 林徳の戦盤が、新しく、回り始めた。

 ──「玄朝の技術者たち」。

 ──「明国と玄朝の両国から、最も優秀な人々が田家村に、集まる」。

 雪麗がわずかに、微笑んだ。


「徳殿。──田家村はこれから、ただの村ではありません。──明国と玄朝の両方から人が集まる、独立の都市になります」


「雪麗さま。──それは私の、社畜時代の夢に似ております」


「と、申しますと」


「組織が、大きくなる時、最初は、小さな、信頼の輪。──しかし、その輪に、本物の、人が、集まり始めると、輪は、ゆっくり大きくなる。──そして、ある日、組織全体が、新しい、姿に、なる」


 雪麗は深く頷いた。



   ◇  ◇  ◇



 第五部の幕が、いま、ゆっくり上がろうとしていた。

 田家村独立。

 流民の到来。

 明国と玄朝の両側からの、人と技術の流入。

 夏明国王の、密かな後ろ盾。

 玄朝・陳派との、暫定的同盟。

 桃の笑顔。

 雪麗の温もり。

 関兄弟の絆。

 蓮の弓。

 そして徐、陳、張の、村人としての誇り。

 すべてがいま、田家村という新しい独立の地で、組み上がろうとしていた。


 まだ林徳は、知らない。

 今夜、最初の十二名の流民が訪れたことは、ただの始まりだったことを。

 明日からの毎日、五人、十人、二十人と、流民が田家村を目指して、やってくることを。

 そして、その流入を、季雲が、新しい、戦の駒として、計算に、入れ直していることを。


 田家村は、いま、本物の、変革の、入り口に、立っていた。

 四十年の社畜の頭が、新しい組織図を組み立て始めていた。

 ──「これは本物の、組織作りの始まりだ」。

 林徳の十歳の体の中で、四十年の、社畜の経験が、いま、初めて本物の、組織を、生み出そうとしていた。



─ 第三十五話 了 ─


次回、第三十六話「新たな村人、新たな仕組み」


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