第一話 あの日の金色
大人風BLです。
お付き合いいただけたら嬉しいです。
「調子はどうだい」
「ああ、リハビリはまずまずだ。俺が戻るまでメイン投手の座、守ってろよ」
右肩の手術は成功した。
三十を越えれば、引退の文字がちらつく年齢だ。それでも、まだ投げられる。もう一花咲かせられるはずだった。
夢だったメジャーのマウンド。
慣れない異国の空気。
気がつけばメイン投手と呼ばれる位置にいた。
仲間にも恵まれ、毎日は忙しく、そして楽しかった。
隣には、いつも彼がいた。
「もちろんだとも。お前の場所を奪われる前に戻ってくるんだな」
「このやろう」
肘で小突き合い、笑う。
そのとき、薬指に光る金色が目に入った。
視線に気づいたのか、彼は少しだけ照れくさそうに笑う。
「俺さ、結婚するんだ」
目を細めたその顔は、心から嬉しそうだった。
喉がひどく乾く。
「そうか、おめでとう」
ようやく絞り出した声は、自分でも驚くほどかすれていた。
それでも笑う。
いつもと同じように肩を叩き、冗談のひとつも返せるくらいには。
「やっとかよ。相手、泣かせるなよ」
声は自然だった。少なくとも、そう聞こえたはずだ。
エースは動じない。
マウンドの上でも、何度もそうしてきた。
胸の奥で、何かが軋む。
心は、確かに悲鳴を上げていた。
彼の幸せを祝えない自分に、気づいてしまった瞬間だった。
それが、終わりの始まりだったのかもしれない。
引退を決めたのは、その後間もなくのことだ。
復帰することもなく、彼は静かにマウンドを降りた。
誰にも理由は告げなかった。
ただ、フェードアウトするように。
あの日の金色の光だけが、やけに鮮明に残っている。
それから、七年が経つ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次話から七年後のホテル編に入ります。




