北への旅路
お待たせしました。
少しGemini君に手伝ってもらうことで完成しました。
引き続きハルトの話です。
ハルトは目が覚めると、いつもと違う天井に困惑したが、すぐに思い出した。
自分は昨日から北のアイスランドに向けての移動の途中で、ここは最初の街だということを。
ベットで横になったまま隣を見るとガレスはすでに起きていて武具の手入れをしていた。
「あぁ、すまん。起こしたか?」
「いえ、大丈夫です。むしろ気を使わせてしまい、すいません」
ハルトは体を起こし、ガレスのベッド側の壁にある窓を見た。
日は登り切っていないのでどうやら寝過ごしたわけではないらしい。
ハルトはベッドから起き上がり、部屋に備え付けてある水道でぬるま湯を出し顔を洗った。
この水道は魔道具であり、この宿だから設置されているものである。
この宿よりも安宿であったなら水道は他の客と共同か、もしくは存在せず井戸を使わなければいけないかもしれない。
備え付けのタオルで顔を拭き、顔をあげ鏡で自分の顔を見てため息をつく。
別に自分の顔が嫌いなわけではないのだが、いつ見ても気弱な表情をしているのでため息をつきたくなるのである。
ベッドに立てかけてある荷物をベッドの上に乗せ、着替えを取り出し着替え始める。
ガレスは近くに戻ってきたハルトに声をかける。
「アイスランドに行くために通る大きな街はここで最後だ、荷物整理をして足りないものがあればこの街で買っておくといい」
この街は北の3カ国に移動するための最終分岐点でもある。
次に訪れる町はこの街から比べて、規模も人口も本当に3分の1になるらしい。
ハルトはガレスの提案の通り、自分の荷物のチェックを行ったが、出発前より減ったものといえば馬車の中でふるまった帝国産のお菓子くらいだった。
そのことをガレスに伝えるとガレスは少し笑った。
どちらにしろ買い物は馬車を待つ間にすればいいという結論になり、宿の食堂で朝食を食べた。
今後の宿で、生活用の魔道具がいつ使えるかわからないので、ハルトとガレスは昨日着ていた服の洗濯
を行うことにした。
宿の2階は客室のフロアだが、1階には受付と食堂、大浴場の他にランドリーが設置されており、そこに洗濯機と乾燥機の魔道具が置いてあった。
ハルトは受付で使用料を払い、魔石を受け取った。
こうした共有で使用する魔道具は魔石をはめる箇所があり、受付で魔石を借りるために使用料を払う。
そこで借りれる魔石も魔力が既に入っているものと、空のものから選ぶことができ、空の方が使用料が安い。
ハルトは魔力量には自信があったので、迷わず空の安い方を選んだのだ。
ランドリーで洗濯機の魔道具に魔力を注入した魔石をはめる。
ハルトは自分の分とガレスの分を一気に洗濯機に突っ込み起動した。
しばらく時間がかかると判断した二人は食堂で今後の相談を行うことにした。
「洗濯が終わり次第動こう、昼前に北の乗合待合所で馬車を予約をして、その周りで買い物と昼食を済ませてしまおう」
ガレスの提案にハルトは賛成をした。
洗濯の後、乾燥機にもかけ、綺麗になった昨日の衣服を仕舞うと、軽く部屋を片付け宿をチェックアウトした。
キートンスさんからもらった地図を参考に北を目指すと、乗合待合所はすぐに見つかった。
近づくと、乗合待合所の建物の裏に待機している馬車が見える。
帝都では馬車が10台以上待機していたが、この街では3台のみ待機していた。
ハルトとガレスは乗合待合所の建物に入る。この街の受付は愛想と恰幅がいい中年の女性であった。
ハルトはすぐ北の町に移動したい旨を伝えると、3台の馬車の出発予定時間を教えてくれた。
ハルトは1番早く出発する馬車を選択すると、馬車の特徴を教えてくれた。
建物から外に出て、馬車に近づく。
教えてくれた馬車は建物から見れば一番奥にいた、町の出口に一番近い場所に止めてある馬車がそうだった。
ハルトとガレスは御者に話しかけて、乗車賃を支払う。
そして、馬車に貴重品以外の荷物を乗せて護衛にチップを払う。
これにより、護衛が命の危機を感じるようなことがない限り、荷物を守ってくれるはずだ。
一番早く出発するとはいえ、午後に入ってすぐのことである。
ハルトはポケットから懐中時計を取り出し、出発の時間まで2時間近くあることを確認すると、ガレスに声をかけ、街中の方に歩いて行った。
ハルトは年齢の割には少食な方である、とガレスは思っていた。
自分が10代後半の時は友人とどれだけ食べれるか競い合ったものだ。
しかし、ハルトとの交流が進んでくるとそれは認識違いだということがわかってきた。
確かにハルトは少食である、主食に関しては。
ハルトとガレスが入った食堂で、ガレスは大盛りのパスタ、ハルトは小さいサンドイッチを食べた。
ガレスはハルトがそれでお腹がいっぱいになるのか心配になったが、ハルトが追加で注文した品に度肝を抜かれた。
それは大盛りパンケーキであった。
この世界で甘味は貴重である。
申し訳程度のハチミツがかかり、申し訳程度の砂糖が入ったわずかに甘味が感じられるソレをハルトは美味しそうに頬張る。
ハルトがパンケーキを食べる姿をみて、わずかに胸焼けしたが、若い体でたくさん食べるのは良いことだ、と思い直し、自分もパスタを食べることに意識を戻した。
お腹を満たした2人はお菓子を買い足し乗合待合所に戻る。
ガレスはハルトが甘味中毒ではないかと危惧したが
「大丈夫です、塩味のお菓子も半分くらいあります」
と言われてしまった。
ハルトとガレスを乗せた馬車は、定刻通りに町の北門をくぐり抜けた。
帝都付近の広々とした街道とは違い、北へ進むにつれて道幅は狭まり、路肩には溶け残った雪が目立ち始める。
馬車に揺られること数時間。ハルトは窓の外を流れる単調な景色を眺めながら、先ほど買い足した塩味のクラッカーを時折口に運んでいた
「……ガレスさん。これ、食べますか?」
「お、悪いな。……ほう、これは少しピリ辛で酒のつまみになりそうだ」
ガレスは器用に一枚つまむと、ボリボリと小気味よい音を立てる。ハルトはその音を聞きながら、少しだけ緊張が解けるのを感じていた。
同乗している他の客たちは、皆一様に厚手の外套に身を包み、寒さに備えて口を閉ざしている。車内に広がる沈黙と、馬の蹄が雪混じりの地面を叩く一定のルズム。それが心地よい眠気を誘い、ハルトはいつの間にか、ガレスの肩に頭を預けるような形で深い眠りに落ちていた
「おい、ハルト。着いたぞ」
ガレスの低い声に揺り起こされた時、外はすでに薄藍色の帳に包まれていた。
到着したのは、北の大きな町へと続く中継地点の町だ。昨日までの街に比べると灯火も少なく、空気の冷たさは一段と鋭さを増している。
二人は手早く宿を見つけ、夕食を済ませた。
ここの宿には自室の魔道具水道などはなく、共同の洗い場で冷たい水を使って顔を洗うしかなかったが、ハルトは文句一つ言わずに耐えた。むしろ、明日からのさらに過酷な旅路を思い、早々にベッドに潜り込んだのである。
翌朝。
窓の隙間から差し込む、刺すような冷気でハルトは目を覚ました。
「くしゅんっ!」
昨日、シフォンがくしゃみをしたのと呼応するかのように、ハルトもまた一つ、大きな音を立てた
「……寒い。帝都とは、もう空気が違いますね」
ハルトは震える手でシーツをたぐり寄せ、鼻を赤くしながら起き上がった。
隣のベッドでは、ガレスがすでに旅支度を整え、革靴の紐を締め直しているところだった
「ああ、ここから先は『冬の入り口』だ。ハルト、昨日のうちに防寒着を一番上にまとめておけと言ったのは正解だっただろう?」
「はい……本当に。これがないと、馬車を待つ間に凍えてしまいそうです」
ハルトは立ち上がり、昨日買い込んだ防寒用のローブを羽織る。
階下の食堂からは、パンが焼ける香ばしい匂いと、朝早くから出発する旅人たちの騒がしい声が聞こえてくる
「ガレスさん。今日の移動、昨日受付の方が言っていた『少し物騒な区域』を通るルートですよね……?」
ハルトが不安げに尋ねると、ガレスは腰の剣を軽く叩いてニヤリと笑った
「ああ。魔物が出るって噂の森のそばを通る。だが安心しろ、あんたのその聖魔法の腕前、そろそろ実戦で拝ませてもらうつもりだからな」
「……胃が、痛くなってきました」
ハルトはお守りのように、鞄の奥にある甘いクッキーの袋を指先で確認した。
卒業試験という名の、本当の「試練」がすぐそこまで迫っていることを、ハルトは肌を刺す冷気と共に実感していた。
ガレスに促され、ハルトは重い腰を上げた。食堂で提供された朝食は、帝都の華やかなものとは違い、黒パンに塩気の強いスープという質素なものだったが、今のハルトにはその素朴さがかえって腹に溜まる気がして心強かった。
宿をチェックアウトし、昨日予約した馬車へと向かう。道すがら、ハルトは自分の両手のひらをじっと見つめた。昨夜、宿のランドリーでレンタルした魔石を充填した際、指先に残った魔力の残滓がかすかに熱を持っている気がした。
(魔石があれば便利だけど、ここから先は僕自身の魔力がすべてだ……)
この世界において、魔石はあくまで高価な消耗品だ。平民出身の苦学生であるハルトにとって、予備の魔石を買い揃えるなど夢のまた夢。自分の中に蓄えられた聖なる魔力こそが、唯一にして最大の武器だった
「……よし。魔力量は問題なし。あとは、僕の根気だけ」
独り言で自分を鼓舞する。聖属性の魔力は、使う者の精神状態に左右されやすい。不安に支配されれば、肝心な時に霧のように霧散してしまうのだと学院の講義で口酸っぱく教えられた。
馬車に乗り込むと、今回の同乗者はハルトたち以外にはいなかった。北へ向かうほど人の流れは細くなり、代わりに冷え切った沈黙が車内を支配する。御者が鞭を振るい、馬車が動き出すと、町を囲む粗末な木柵がみるみる遠ざかっていった。そこから先は道と呼ぶのも憚られるような、雪と泥の混じった荒野が続いていた
「ハルト、そんなに肩を怒らせるな。敵に会う前に疲れちまうぞ」
「……わかってはいるんです。でも、実戦となると、どうしても」
ハルトは膝の上に置いた両手をぎゅっと握りしめた。手袋越しにも、自分の指先が冷たくなっているのがわかる。馬車が林の入り口に差し掛かると、急に光が遮られ、車内に濃い影が落ちた。ガレスの手が、さりげなく腰の剣の柄に添えられる。その何気ない動作一つに、プロの緊張感が宿っていた。
(……アンデッド。死してなお動き続ける、不浄の存在)
教科書で見た挿絵を思い出し、ハルトはこっそりと懐のクッキーを一かじりした
「もし何か出たら……僕が、浄化してみせます。学院の成績は伊達じゃないってところを、自分にも証明しないといけませんから」
震える声で告げた決意に、ガレスは頼もしげな笑みを浮かべて頷いた。馬車はさらに深く、日の当たらない森の奥へと進んでいく。
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アイスランドの将軍、ギリアム・フォーサイスは少し苛立ちと焦りを覚えていた。
アイスランド南西の森にアンデットが湧き始め、ギリアム将軍が対応し始めて数日が経った日のことである。
確かに、下級のアンデットは弱い。
陣形など組まないし、戦略などもない。
自身の身を案じない捨て身の攻撃は厄介だが、それでも1体が兵1人と同等の強さしかない。
アンデット1体に対してこちらは陣形を組み3人がかりで戦っているので、現状被害は少ない。
問題は毎日正確に20体、アンデットが湧くという点だ。
当初の想定よりも数が多い。
ギリアム将軍はアイスランドきっての弓の名将であり、当然部下も弓兵が多い。
1人が盾を持ちアンデットの攻撃を引きつけ、残りの2人が弓で撃退する。
最初の数日はそれで問題なく対処できていた。
しかし、弓兵が使用する矢は無限ではない。
次の支援物資として新しい矢が届くまで戦いに使用する矢を節約しようとすると、今度は攻撃を引きつける盾兵が疲弊したり、軽い怪我を負うようになって来てしまった。
ギリアム将軍はアンデットを侮り自分の部隊だけで任務にあたったことを後悔していた。
それと同時にアンデットに特攻がある聖属性の魔法を使える神官を多く抱え込む教会がこの件に対して非協力的なことに腹を立てていた。
自分ではどうしようもないことに腹を立てていても仕方がないと思い、ギリアム将軍は部下が入れてくれた温かい紅茶を口にする。
ギリアム将軍は落ち着きを取り戻し、プライドをかなぐり捨て援軍要請の手紙の執筆を始めた。
やがてその手紙が書き終わった頃に誰が援軍に推参するかを想像してみた。
現実的な路線から王からの騙し討ちとも取れる人材まで、思い出してみる。
その中で我が子が懇意にしている第3王子が援軍に来る姿を思い浮かべてしまう。
戦力的には申し分はないのだが、彼が前線に立つとなると王や賢者が右往左往することになる。
その姿を想像してしまい、ギリアム将軍は思わず笑みを浮かべてしまうのであった。
氷の国の王子様は2ヶ月に1話更新くらいの気持ちで待っていてください。
代わりに毎週月曜日に新作「こちら魔王城世界安定課!」を連載します。
「こちら魔王城世界安定課!」の第1話は4/20(月)に投稿予定です。
「無属性チートと王家に守られてのんびり異世界で暮らします」も毎週土曜日に投稿していますので合わせてよろしくお願いいたします。




