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氷の国の不穏

今回はまたシフォンに話が戻ります。

後半にまたハルトに話が戻ります。

セレニアと共にクレヴァスを見送ったシフォンは、セレニアとも分かれ一度自室に戻った。

自室で稽古着に着替え、今度は兵士の稽古場に向かった。


そして現在。

目の前には栗毛のクセのある短髪で、シフォンと同じような体格で、子供用の弓兵用軽防具に身を包んだ満面の笑みのレスターがいた。


レスターは弓の名家の生まれである。彼の父もアイスランドの将軍であり、アイスランドきっての弓の名手でもあった。

レスターも御多分に洩れず弓が大得意であり、その得意な弓の稽古を大好きなシフォンとできるということで笑みが止まらないらしい。


レスターの様子と自分が両手で握っている、あまり得意ではない弓を見て、シフォンはため息をつきたくなる。

その気持ちを抑え、近くにいる大人、レオンに目線で助けを求めた。

レオンは24歳の男性で、髪は短髪のブロンズ。

筋肉質で好青年に見える彼は、一般の護衛より少し質のいい軽装備を身につけている。

レオンはアイスランドの大臣の次男であり、軍部に所属している。

家柄と本人の才覚によりそれなりの地位にいるので、シフォンやレスターといった名家のぼっちゃま達の稽古の教官を任されているのだ。

彼の父は饒舌家であったが、彼は口下手でこういう時のフォローの文句が思いつかなった。

レオンは苦笑いで頭をかいて誤魔化し、この場にいるもう二人の人物に目線を投げた。


レオンのアイコンタクトをもらったサイラスとロレンツはお互いの顔を見合った後、サイラスはため息をつき、ロレンツは笑顔になった。


「シフォン様、マイペースでいいのです。とりあえずやってみましょう。あとはレオンがフォローします」


と稽古の開始を求めた。

サイラスは次兄セルジュの親友で、15歳で文官見習いになり16歳の現在ですでに見習いを卒業している才人である。あと髪も含め全体的に青い。一応、午前中にシフォンに着いてきた文官とは別人である。

ロレンツは長兄リュークの親友で、21歳の腕のいい冒険者である。王城とは無関係の部外者ではあるが、リュークとロレンツの仲は王城でも有名なので顔パスで入城できる特権を得ている。あと髪も含め全体的に赤い。

シフォンが城内で武芸の稽古をする時は大抵レスター、レオン、サイラス、ロレンツの4人も一緒である。

そのせいか最近ではこの4人はシフォン一派と呼ばれている。

実態はシフォンが心配な家族がそれぞれを派遣しているだけなのだが。

ちなみにレオンは父シルヴァが、ロレンツは長兄リュークが、サイラスは次兄セルジュから頼まれて来ている。

シフォンもレスターもそれは理解しているが、実際子供だけで稽古ができるわけでもないので頼らせてもらっている。

本日の稽古は突発的であり、しかも久しぶりのものであったが全員が問題なく集まれるあたり、常に準備しているのだろう。


レオンの「射て」の合図で矢を放つシフォンとレスター。数発放った後にマトを確認する。

レスターは大人顔負けにマトの中心に百発百中である。弓の名家生まれは伊達ではないことがよくわかる。

対するシフォンは一つだけがかろうじてマトの外側に当たっている。

結果に少しむくれたシフォンに対して、ロレンツが疑問をぶつける。


「そもそもシフォン坊ちゃんに弓は必要ないだろ?遠距離は魔法があるし、近接は俺らが近づけさせないからな」


シフォンはそれもそうだと思った。

シフォンは真面目に稽古をするのを諦め楽しむことにした。

肩の力が抜けると案外うまくいくもので、今までより精度が上がった。

ロレンツはシフォンの肩の力が抜け、表情が良くなったことに満足した。

レオンはシフォンを弓兵に仕立て上げたい訳ではないので、遊び感覚でやってもらっても文句はなかった。

レスターはシフォンと同じことができれば満足なので、楽しんでくれた方がありがたかった。

サイラスだけは、集中力が切れて怪我をすることがないように目を凝らしてシフォンを注目していた。


「気の持ち用、か」


シフォンは独りごちた。

シフォンはレスターの態度を許すことにした。いや、気にしないことにした。

何か実害があれば、他の大人が注意するだろう、と自己完結したのである。

で、あれば。


「レスターはすごいね。頼もしいよ」


と、素直に賞賛を送ることにした。


「シフォン様〜!」


この言葉にレスターは感激してしまい、思わずシフォンに抱きついた。

レスターの行動にびっくりしたシフォンだが、レスターの感情が昂った時の表現は昔のままだということに気づき、安心したのだった。

シフォンの何気ない心の成長を感じたレオンとサイラスは主に報告することが増えたなと喜ばしい気持ちになった。

ロレンツはただ二人の少年の交流を微笑ましく思っただけだった。



稽古終了後、レスターは自宅に帰ったが、残りの3人は着いてきた。

代表してレオンに聞くと


「護衛も兼ねているので」


と言われてしまった。

それならば無碍に帰らせることもできないので、同行を許可する。

自室に戻ると、稽古着から普段着へ着替える間は3人に自室の前で待ってもらった。

着替えが終わってから入室を許可したが、逆に自室の外に出るように言われてしまった。


「王からの伝令です」


とレオンが自室の前にもう一人増えていた兵士を紹介する。


「伝令。会議室に至急集まるようにとのことです。レオン殿とその他の方もシフォン様と馳せ参じろとのことです」


シフォンとレオンらが承諾すると、兵士は引き返していった。

父王からの会議室への呼び出しは不吉なことが多い。

前回の呼び出しは祖父クレヴァスとの稽古場近くに大型の熊型モンスターが出没したため、しばらくの稽古中止というものであった。

(なお、そのモンスターは数日の間にクレヴァスを中心とした特別チームによって討伐された。)

今回も同様のことが考えられるため、サイラスに視線を向ける。


「気休めですが、私が思っていることだとしたらシフォン様にはあまり影響のない話だと思います」


サイラスの言葉に感謝を伝え、シフォン一行は会議室へと歩き出した。



案の定、会議室への到着はシフォン一行が最後であった。

王家の席順は食卓の通りである。会議ではその周りに大臣や文官や護衛などが控えている。

シフォンの着席を確認すると、父王が喋り出す。


「揃ったようだな。では大臣、概要報告を頼む」

「はっ」


父王の言葉に大臣が反応すると、シフォンは後ろに控えているレオンの顔色を伺う。

レオンは特に反応をせず、目線でシフォンに大臣の話をしっかり聞くように促してきた。


「南西の森で下級のアンデットが複数発見されました。現在、ギリアム将軍に現地で対応してもらっています」


ギリアム将軍とはレスターの父である。

シフォンはアンデットよりもレスターの父が現在遠征中だということに驚いた。

シフォンにとってアンデットは恐るるに値しない存在である。

確かにアンデットは聖属性の魔法が特攻であり、他の魔法が効きづらいモンスターではあるのだが、シフォンにはその道理が通用しない。

効き()()()だけで()()()()訳ではないからである。

普通に魔法が効くか効かないかわからないオバケの方が怖い。

さらに大臣の説明は続く


「ギリアム将軍からの報告によると、近くの村の避難は順調に進んでいるようです。また、王都の教会に原因の解明を要請したところ、帝都の神官学院から学院生が派遣されることになりました」


この報告には父王セルジュと長兄リュークが眉を顰めた。当然後半の報告についてである。


「これだから教会の奴らは」


とリュークはこぼしてしまった。

セルジュはリュークの方を向くと何も言わずに首を振った。

いずれ王を継ぐものとして滅多なことは口に出すべきではないという教育である。

王都の教会も王の傘下にある訳ではない別組織だが、アイスランドの国家運営上外すことはできない組織でもある。

つまり、同胞ではないものの敵ではないのだ。

不用意な発言で敵に回すべきではない。というのが教会に対する王族の共通理念である。


「失礼しました」


と素直に謝るリューク。

リュークの謝罪を受け取り頷くセルジュ。


「ともかくそれは教会の判断だ。その学院生とやらに任せてみよう。何、その学院生がしくじれば教会を糾弾すれば良いのだ」


貴方が一番教会を敵に回す発言をしてません?とシフォン以外の会議室内の面々は思ったが、誰もそれを言い出す者はいなかった。

教会がこの問題を軽んじていて、それを王も少なからず不服に思っていることをシフォン以外の全員が感じ取れたからだ。


「シフォン」

「は、はい!」


会議も大詰めかというタイミングで父王に名指しで呼ばれたため、シフォンは少し驚いた。


「この問題が解決するまで王都からの外出を禁ずる。いいね?」


前回は楽しみな祖父との稽古の禁止だったので渋ったが、今回は王城からならまだしも王都からの外出の禁止である。

近日中に家族旅行の計画がある訳でもないので、シフォンは素直に了承をした。



-----------------------



「クシュン」


くしゃみをしたハルトはどこかで噂でもされているのかな?と思った。


「おや、まだアイスランドには早いですぞ?」


と、キートンスさんの冗談が通じるほど馬車内は和やかな雰囲気であった。

帝都を出発したハルトたちを乗せた馬車は順調に進んでいた。


会話が弾み、ハルトの緊張も解けてきた頃だった。話の流れで学院が話題になったのである。

ハルトが学院についてや聖属性の魔法について説明していると、ガレスがこう尋ねてきた


「なぁ、聖属性の魔法っていうのは戦いに使えるものなのか?」


ハルトは少し思案しこう答えた


「聖属性の魔法はモンスター、とりわけアンデット系のモンスターには特攻と言われています。逆に悪しき心を持たない善良な人間にはかすり傷もつけられません。たとえば…。そうですね、ガレスさんのその剣がアンデットだと切れ味が増して、善良な一般人に対しては(なまくら)と化す。そんな感じですね」


ガレスはその答えで満足したみたいだが、アッシュさんは違う疑問が沸いたみたいだ。


「その悪しき心を持たない善良な人間であればというのは?」

「人間誰しも悪戯心や妬み嫉みなどは持っているものです。こういったことは含まれず、明確に相手を害しよう、陥れようと考えている人間や、実行して反省していない人間が悪しき心を持った人間と判断されるようです」


ハルトの説明でアッシュさんもどこかほっとしたようだった。



数回のトイレ休憩を挟んだりしながら馬車は進む。

途中でジョルジュさんやアイビーさんから軽食の提供があり、ハルトも帝都名物のお菓子の提供をもってお返しとした。

ハルトのパンパンの荷物の一部が少なくない量の日持ちする帝都のお菓子だということを知ったガレスは苦笑いを浮かべていた。


街が見え始めた頃、キートンスさんから尋ねられる。


「アッシュさん方も、ハルト君たちも本日の宿は決まっているのかね?」


ガレス以外の3人が首を振ると、キートンスさんは我が意を得たりと隣のジョルジュさんの肩を叩きながら


「ジュルジュ、あの地図を」


と、指示をした。

ジョルジュさんからアイビーさんとハルトが地図を受け取るとキートンスさんは説明を行う。


「そこは私の仲間が経営している宿でな、そこそこの宿泊代は取るがいい宿だ。その地図は私からの紹介状も兼ねているのでね、それを持ってその宿に行くといい」


4人はキートンスさんに素直に感謝をした。


そして日が少し傾き始めた頃に目的の街までついた。


順々に馬車を降り、最後に降りたキートンスさんにハルトとガレスは感謝の意を伝えた。

その様子に気づいたアッシュさんアイビーさん夫妻も加わり、それぞれにキートンスさん、ジョルジュさんと握手をして別れる。


4人はもう一度地図を確認し、宿まで連れ立った。


たどり着いた宿はキートンスさんの言っていた通り、安宿でもない、高級宿でもないが落ち着いている綺麗な宿だった。

入り口にあるカウンターでハルト達と夫妻はそれぞれ受付を済ませそれぞれの部屋に分かれた。

ハルト達は、ベットが二つある二人部屋を頼んだ。


鍵を受け取り、店員の案内通り本日泊まる部屋を訪れる。

荷物の整理、晩御飯、入浴を済ませたハルトとガレスはそれぞれのベットに座り、明日以降の打ち合わせを行った。


「このレベルの宿に泊まり続けるとなると、途中のどこかで野宿か狩りのどちらかをすることになりそうです」


ハルトが財布を見ながら提案をすれば


「ならば、狩りだな。日が落ちる前に目的地についた時にでも行おう」


打てば響くという言葉通り、すぐに返事が返ってくるガレスのことを頼もしく思いつつ


「では、その方向で。よろしくお願いします」


話し合いが終われば消灯をし、すぐに横になる二人。

旅慣れてない上に普段は一人で寝ているハルトは隣に誰かいる状態で寝れるのか不安になったが、旅の疲れのおかげもあってか、すんなり深い眠りに落ちるのであった。

次回投稿日は未定です。

3/8 4話の進捗率25%です。

3/27 4話の進捗率40%です。

4/7 4話の進捗率60%です。

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