追手?登場
俺は王都の北門を抜け、その後東に向かっていた。
俺がどこの門から出たかは調べれば分かるはず、だから敢えて北に向かわず方向を変えていた。
本当は師匠のいた西側に向かいたいのだが……そこも読まれる可能性がある。
今捕まるわけにはいかない。
それでも辺りを警戒しながら道を進んでいた。
敵は騎士団だけではない、魔族もだ。
僧侶である俺は狙われているはずだからな。
森の中にある街道を進んで行く。
密集した木が生い茂り、街道はそれなりに広くとも木の枝や葉に覆われ薄暗い道だ。
呪いや人口低下のせいか誰にもすれ違うこともなかった。
俺は街道から少しそれ森の中で休憩を取る事にする。
ちっと休憩しつつ位置を見るか……
鞄から地図を取り出すと周辺の様子を確認する。
ん~~? どうやら少し行くと村があるようだな?
その村は無事なんだろうか?
呪われていたら俺の『アンチカーズ』により解呪してやらねーと。
しっかし『聖者』スキルが付いたとして何連続で魔法を使えるんだろうか?
以前は五回が限度で、休憩を挟まないと倒れちまったからな。
思考を切り上げると俺は地図を仕舞い、用心深く注意して街道に戻る。
そうして俺は地図にあった村を目指して歩き出した。
俺が村に着くと、そこでは村人達が畑を耕し家畜の面倒を見たりと普通に生活していた。
(ここは……呪いの影響はなさそうか?)
簡素的な柵に覆われた村に入ると、目についた中年の女性に話を伺う事にする。
どうやら他の奥様方と井戸端会議をしているようだ。
「あの~? ちょっと話が聞きたいんだが良いかい?」
俺が話しかけると胡散臭そうな目で見てくる。
まぁこういう村では良くあることだ。 村の外から来る人にあまりいい印象を持たない。
「なんだね? 旅人さん」
「この村で呪い……いや、流行病はあったのか?」
「ああ、あの病だな? 少し前に流行ったけど、王都から来た偉い神官さんが治してくれたよ」
「なるほど、じゃあこの村で掛かっていない奴はいるか?」
「この村の者は全員掛かったよ」
「そうか、ありがとよ!」
俺が礼を言うと女性は再び他の女性と立ち話を始めた。
俺の事が気になるのかこちらを見ながらヒソヒソ話をしている。
そこから離れつつ、
(この村はもう平気そうか……王都に近い分、すぐに対応してくれたようだな)
俺は村の様子を見ながら抜けると、街道を進み次の村を目指していった。
謁見の間にいるフィリム国王の元に、一人の兵士が慌ただしく駆けつけて来た。
「何事だ? 騒々しい」
「た、大変です! 『聖者』スキルの僧侶が逃げ出しました!!」
「なんだと?」
兵の報告を聞いてフィリム国王の方眉が上がる。
「これでは牢の方が良かったか……ララとロロを呼べ」
「はっ!」
兵士が駆け出していく。
「……余計な仕事を増やしてくれる」
フィリ厶国王は誰ともなしに一人呟いた。
フィリ厶国王にルル捕縛の命を受けるとララとロロは謁見の間から廊下に出た。
「やっぱり逃げちゃったね~」
「の割には嬉しそうじゃない?」
「そんな事ないよ~」
「とか言って……気付いてたんでしょ? ドアの事」
「ロロだって~」
すぐ横でゴソゴソされれば流石に気付く。
ドアを閉める際も穴に何か詰めてあったのが見えた。
「心配じゃないの?」
「ん~……一応リリには頼んだよ」
「さすが団長様。 抜かりはないわね」
「って言うかロロも頼んでたでしょ? 『今言われたばかりッス』とか言われちゃったよ~」
「ふふっ、まぁね。 ルルの力になれない事ばかりだからね」
ララもロロもルルが逃げようとしていたのは気付いていた。
逃げるのに賛成だった訳ではないが、王への言葉、あの信念を持つ以上ルルは意地でも逃げ出そうとするだろう。
二人ともルルの事が心配ではあるが、同時に応援したくなっていた。
そんな訳で、逃げるのを見越したうえでリリという部下を付けたのだ。
リリはララとロロの部下で随一の身軽さを持つ、さらに彼女の体力と力は馬鹿に出来ず、体力だけならララよりも上だろう。
「ただねぇ……」
ロロが眉をひそめる。
「あの子ちょっと抜けてるのが心配なのよねぇ……」
飛び掛かってきた狼を躱すとその腹に蹴りを叩きこんだ!!
「くっそ! お前らマジふざけんな!」
俺は今、狼達の晩飯になるかどうかの瀬戸際だった。
涎を垂らし唸り声を上げる狼達、その数は十匹程度いる。
地面には俺により倒された狼が二匹いるが、あちらさんは引く気はない様だ。
「悪く思うなよ! 『フラッシュ』」
掲げた杖から目もくらむような光が溢れた!
目眩ましの光撃魔法だ。
それは狼達の目を強烈に焼き付ける!
グルルル!
ギャウン!
ガルゥ!
目を眩ませられた狼達から悲鳴が上がり、地面をもんどりうっている!
一時的な目潰しだが、これで十分だろう。
(よっしゃ! 今のうち!!)
逃げようとした俺の前にドグシャ!と何かが落ちて来た!!
「おわっ! 何だぁ!?」
木の上にいたらしいそいつは小柄な少女だ。
両手で目を押さえつつ身悶えしている。
「きゅ~目が~目がぁ~ッス!」
こいつも俺の『フラッシュ』で目がくらんだのか!?
「くっそ! 世話が焼ける!! 誰か知らんがこっちだ!」
俺はそいつの手を引いて立たせると走ってその場から逃げ出した!
何とか街道まで逃げてくると息を整える。
「まっ……全く! はぁ、余計な、はぁ、面倒事を……はぁ」
息を落ち着かせつつ少女を見て気付いた。
(や、やべぇ!! このコートって騎士団のだ!)
横で寝っ転がっている少女を見て俺は慌てて逃げだした!!
(くそ~~何でこんなに走らされるんだよ!!)
街道を進んで狼に囲まれ……走って森で追いつかれ……『フラッシュ』後街道まで走って戻り……また走らされるとか!!
それよりどうして騎士団が?
上手く巻いたと思ったのに……。
たまたまではないだろう。
森の中で木の上にいて俺の側にいるなんて偶然あってたまるか!
「待つッスよ~~」
げ!? もう追ってきやがった!!
後ろから猛スピードで追いかけてくる少女。
俺も足には自信があるが……あいつ早ぇ!!
街道は先の方でカーブになっており、カーブを曲がると遠くまで一直線だった。
これでは追い付かれる!
俺は曲がるふりしてすぐ側の木に隠れた。
(くぅ~これじゃ見つかるだろうが……ひとまず息を整えないと)
先程から走り続けて息が荒い。
心臓もバクバクして肺が酸素を要求する。
そして……ダダダダダ!!
後ろから少女が走ってきた!
カーブを曲がる……俺がいない事に気付いて辺りを探すだろう。
俺は必死に荒い息を押さえていると……。
「うはっ! も、もういないッス! あの子早いッスよーー!!」
そう言って街道を全速力で走って行った。
よく考えれば隠れているのが分かるだろうに……。
(あいつさては馬鹿だな?)
栄養が全て筋力に行ったのだろう。
何はともあれ……、
「な、なんとか巻いたか……」
俺は木の後ろに隠れたまま詰めていた息を吐きだしたのだった。




