第三十三話 しがない合宿③
「もしもし、九条です。美咲さんっていますか? 」
「はい、もしもし!お電話ありがとうございます! オタサーの姫の美咲と申し・・・・・・うーん? ルイじゃんどうしたのこんな時間に」
電話をかけると直ぐに美咲が応答してくれた。この電話だけだと自分からオタサーの姫だと公言している完全にヤバイ人だ。
「いや実はさ、今度海行くんだけどお前来ないか?」
「へ?」
「いやだからさ、海行くんだよ。良かったら美咲も来いよ」
「・・・・・・それは二人でってこと?」
少し間が開いて美咲は返事をした。
「んー、いや、実は俺の知り合いが来るんだよ」
「その人って、女の人?」
「まあ、一応は」
性格はかなり男勝りで大雑把だけどな。
「・・・・・・その人、可愛い?」
美咲はとても返答に困る質問をしてきた。そりゃ、可愛いと、言いたいけれども・・・・・・なんだろう、ここで選択肢を間違えたら俺に未来はない気がする。
不思議とそんな予感がした。
「まあ、それなりにってとこじゃね? 俺目線だけどな。まあ安心しろよ、千尋も来るからさ」
「そっか、千尋ちゃんもくるなら大丈夫か。いいよ、行く。それで日時は?」
「あぁ、まだしっかりと決まってねえから決まり次第連絡する」
「わかった。あぁ、それとねルイ」
「ん? どうした」
「ルイの、好きな色とか教えてくれない?」
「別にいいけどさ・・・・・・それさっき同じこと聞かれた」
「誰に!?」
急にあわてふためく美咲、一体どうしたのだろう。
「誰って、千尋に」
「ふーん、千尋ちゃんにね、ふーん」
「な、なんだよ」
「別にー、とりあえずは好きな色教えてよ」
「ええっと、黒とか白とかシンプルな色、そういうのは結構好みだ」
「ハッキリしないなぁ、どっちかに出来ないの?」
別にそうしたところで、なんだというのだろうか。
どちらかと、言われたら・・・・・・
「あえていうなら、白の方がいい」
「おけ、わかった。それじゃ、またね」
プツリと簡単に電話が終わった。それにしてもなんなのだろうか。最近の女子の間では色聞くの流行ってるとか?
まさか、そんなわけないよな。いくらなんでもマニアック過ぎる。
それから一週間過ぎた日曜日、予定日になったので俺と美咲と千尋は目的地である海岸に向かうため駅へと歩いていた。
「あっちい・・・・・・溶けるぅ・・・・・・」
「人間そんなんで溶けるわけないでしょ。まったくもう、情けない」
「なんで美咲も千尋もそんなに元気なんだよ。くそぅ・・・・・・」
「普段から引きこもってるからですよ兄さん。軽くでも運動しておかないと後が大変です」
「ちょっとやそっと運動しなかったくらいで人間変になりゃしねえよ」
まあ正直最近は運動神経が著しく低下している。体育の時とかすぐバテてる気がするし。
「そういえば、兄さん。マリアさんと式夜さんはどうするんです?」
「あぁ、どうにも式夜はマリアと一緒に行くらしくてさ。マリアの体調面を考えて少し遅れるからだとよ」
マリアに関しては足の不自由さもあるだろうし、しかたない。
今回の海へ遊びに行く、もとい合宿、実のところの発案者は式夜ではなくマリアらしい。
くわしくは知らないが日本の海を見てみたいのと、千尋とのいざこざを一辺に解決するためとかなんとか。
「ってルイ!? もう電車の時間が・・・・・・!」
「うげっ、ヤバイな」
スマホに保存してある時刻表と今現在の時刻を照らし合わせると電車はあと三分あまりで来てしまうのがわかった。ので、
「よし、ダッシュゥゥゥ!」
「ちょ、ルイ! 待ってよ!」
「兄さんそれだけ走れるなら最初から動いてくださいよ!?」
努力結局間に合わず、俺は電車が一本遅れる頃には式夜とマリアが既に電車で向かっていることに気付き、式夜たちに平謝りで電話するのだった。