第三十一話 しがない合宿①
「海に行こう!」
「・・・・・・は?」
マリアの一件から早くも二週間、今日は一歩外に出たら引きこもり気味の軽い陰キャは焼かれるのではないかと思えるほどの日射しが常続く猛暑日、いつものようにパソコンカチカチしながらオンラインゲームを貪っていたらノックも無しに式夜がいきなり押し入ってきた。
それも手にはA4の観光旅行の広告用紙をもっていて両目を綺麗な物を見つけた小さな子供のように輝かせながらだ。
「なんだよ急に? ってか海ってこの時期人クッソ多いじゃねえかやだよ」
「そういうな、別に私だって遊びで海に行こうだなんて思ってはいないさ」
「それはそれで意味ないだろ。それに遊び以外の理由があるならあるで、とりあえずそれ聞いてからだろ」
「ふむ、実はな・・・・・・マリアと千尋のことで少し喧嘩、とまでは言わないがゴタゴタがあってだな」
「え、まじかよ」
マリアと千尋、お互いがお互いテストプレイにおいてはある程度似た境遇をもつ。けれどこの二人が喧嘩だなんてあるのか? というか根本的に二人はまだ殆んど顔を合わせていないような。
「マリアとの一件、彼女のアバターマリーが随分と無双していただろう」
「まあ、それはな。レベル差もあったし」
今の俺らならば当時のマリアに遅れることはない。そもそも後に分かった話だがあの異常な程までの強さにはプロトタイプのオーダーテスターの強力なシステムサポートがあったからだと当の本人が暴露した。そりゃあれだけ無双できるわけだ。
「で、その事を千尋に話したらな・・・・・・」
「卑怯だとか言ってキレたか?」
「ビンゴだ」
まあ、わからないことはない。言わせてみればあんなのチートなわけだし。千尋は前々から妙に変なところであの強靭な真面目姓を発揮するわけだから今回のことは相当頭にきているのだろう。
「あと1ヶ月もしないうちに我々はアメリカのサーバーに参戦する。星弓という装備品の回収はテストプレイヤーとしての仕事だ。その為にも私達のチームに問題を抱えるわけにはいかないだろう?」
確かに一理ある。けれどもなぜ・・・・・・
「なんで海なの?」
俺らゲーマーですよ? ならゲームで仲直りしましょうや。
「なに、折角の夏だ。引きこもってゲームするのも別に悪いとは言わないがこの際は体を動かしたいじゃないか」
「いやだからさ、海行くならオーダーテスター使って水があるエリアとかで遊べばよくね?」
「・・・・・・今日のルイくん面倒だな」
「なにをぅ!?」
「水着、リアルで見たくないのか?」
「・・・・・・へ?」
いきなりの言葉に驚く。そりゃ見たいか見たくないかと言われたら・・・・・・
「めちゃ見たいです」
「・・・・・・この際改めてはっきり言うが私は君に惚れているんだ。世界で誰よりも愛しているんだ。だからこそ、君と遊びたい、話をしたい、一緒にいたい。ゲームの中で会うのもいいがどうせなら現実がいい」
「そ、そうか・・・・・・」
自分でも頬が上気していくのが感じ取れた。これだけ熱烈なアプローチをされたのはあのデートの時以来だった。
「それに、思い出も作れるじゃないか。私や千尋はともかくマリアに関してはいつ外国に帰るかもわかったものじゃないだろう?」
「それは、そうだけど・・・・・・」
式夜の言う通りだ。俺たちのテストプレイにはいつか終わりがくる。それイコール、というわけではないにしてもどんな形であれ別れがあるはずなんだ
「これで、決まりだな? よしルイくん、日時は追って連絡する。それではまた!」
「え、ちょっと!?」
夏用の着物を翻し式夜はそそくさと帰ってしまった。前の時もそうだったがアプローチした後はどこか妙にさっぱりしている。
「・・・・・・海か」
嵐の後の静けさ、とも言うのだろうか。カーテンの隙間から見える青空を仰ぎながら俺は綺麗なさざ波をを思い浮かべていた。