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未成年女探偵の一息な時間  作者: 中川夏希
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ファイル.9

梅雨の時期。ジメジメした日が続く。降り続く雨が憎たらしい。窓を眺め、早く梅雨が明けないか祈るが未だ止みそうにない。

「空ばかり眺めても止みませんよ」

淹れてくれた温かいコーヒーを僕に渡し彼女は言う。こんな雨だ。お客さんも来ない。文字通り暇な時間が続き、苛立ちを覚え始めた。

「平山さん。コーヒーなんかいつもと違いますよ」

「え? そんなはずはないと思いますが……」

もちろんいつも飲んでるコーヒーの味などの違いなど分かるはずがない。だが、大人気ないと分かっていながらも淹れてくれたコーヒーにケチをつけるほど暇である。

「はあ……横山さん。イライラを私にぶつけるのは構いませんがコーヒーに八つ当たりだけはしないでもらえませんか?」

真面目に怒る彼女の顔を見て、言ってはいないことを言ってしまったと反省する。

「すみません。平山さんってコーヒーが好きなんですか? この前の旅行の時も持参してたし……」

「このコーヒーが好きなだけです」

それって……と理由を聞こうとした時、言葉を遮るようにドアの開く音が割り込んできた。

「ここやってる? ちょっと雨宿りさせてほしいだけど」

「ようこそホームズ探偵事務所へ。私がここの探偵をやっている平山です。すごいずぶ濡れですね」

彼女が言った通り、入ってきた男性の服は雨で濡れていた。男性にタオルを渡し、コーヒーを出す。

「どうも。へーー。ここって探偵事務所なんだ。そんでここにいる女の子が探偵さんね……」

男性は事務所の中を見渡しそして彼女を見る。

「もし困った事がありましたらうちの事務所にご依頼を」

「じゃあさ。この写真の謎を解いてよ」

そう言うと男性は財布から一枚の写真を取り出し僕たちに見せた。写っていたのはどこかの飲食店の中でピースをしている二人の女性。

「なんですか? この写真は」

「この間俺の部屋で見つけたんだよ。でも俺はこれに写ってる人なんて知らないしダチに聞いてもみんな分からないって言うし。探偵さんならこの写真だけで謎が解けじゃねえか?」

いくら彼女とはいえ、一枚の写真だけで分かるはずがない。

「わかるはずない……か。悪いないきなりこんな話して。今の話は忘れてくれ」

男性は彼女から写真を奪い去るように取り、入れてあった財布に写真を戻す。

「いえ、お役に立てなくて申し訳ありません。なにせ情報がその写真一枚のみだったため推理しようがないのです」

彼女は座りながら頭を下げ、お詫びとして事務所の片隅に無造作に置いてあった傘を男性に渡した。

「また何か新しい情報があったらここに来てください。私もモヤモヤしてるので」

分かったよと男性が立ち上がり事務所を出て行った。

「しかし、あの写真一枚でどう推理しようと言うのか……」

男性が出た後に呟くように言った僕に彼女は笑いながら返してきた。

「いえ? あの写真だけでもある程度の推測は立てられましたよ?」

僕を驚かせる言葉だった。

「手前に不自然に空いていた席が写っていましたよね? あそこに座っていた方が撮影者かと思われます。その席の近くにあった携帯と、携帯を手に持ってピースをしていた女性を見て、もう一人の女性の携帯でしょう。場所は隣町にある居酒屋さんってとこですかね。確かチェーン店でなかったので一店舗しかなかったと。割り箸が入った袋にその名前が書いてありました。問題は何故あの写真があの方の部屋にあったのか……ですね。ご友人に聞いても知らないと言っていたのでもしかしたら……」

後はあなたが推理してくださいと言わんばかりの顔をし、彼女はキッチンに入っていった。仕方なく先ほどの写真を思い出すがやはり分からない。

「友達が嘘をついている……」

ありえそうな答えを導き出す。

「残念。そもそも嘘をつく理由とはなんでしょうか?」

そうか……と再度推測。

「彼女の友達じゃないですかもう」

と、僕は適当に言った。

「半分正解で半分不正解です」

意外に惜しい答えだった。ふふっと笑いソファに座る彼女。答え合わせの時間が始まる。

「写真の持ち主は元カノです。女子会か何かの時の写真でしょうね」

「え? なんで元カノなんですか? 別れてないかもしれませんよ」

「まだ付き合ってたら最初に彼女に聞くはずです。なのに未だその写真の持ち主かは分からない。ということは、連絡も取れない状態。あの方が彼女を避けているということになります。まあ、これは私の憶測ですが」

なるほど……と感心はするが、なにかが引っかかる。友達でもなければ前に付き合っていた彼女のものだと勝手でも思いつくはずだ。なのになんであの男性は分からなかったのか。

「平山さん。一つ聞いてもいいですか?」

「どうぞ?」

彼女が僕の顔を見ずに答える。

「消去法で彼女が忘れていった写真だと気付きませんか? 僕だったらそう思いますが……」

「よっぽどの馬鹿か、そう思いたくもない考えがあったのでしょう。詮索はやめにしましょう」

なんとも解決とは言えない推理だ。益々疑問を抱いてしまった。もしあの男性がそこまで頭が働かない人ではなく、他にそんな答えに導きたくない理由があるとすれば……。

「横山さん。もういいじゃないですか。写真の持ち主は元カノ。事件解決です」

半ば強制的な終わり方に納得ができない。あの写真に写っていたものを思い出す。確かあれは……と、考えた。

「はあ……。分かりました。本当の私の推理を話します。あれは確かに前に付き合っていた人の写真です。そして当然あの男性も彼女さんに聞いたのでしょうね。お前のかって。ですが彼女さんは違うと答えたかと思います。何故だか分かりますか?」

「え? 何でですか?」

「座席が四つ。左前と後ろには友人がいました。そして向かい側に空いていた席に撮影者である彼女。その隣の席に男物のコートとカバンが写り込んでいました。ただの友達か思いますがあそこにもう一人、男がいた。写真を見せてもらった時彼女はすぐにその事に気付き違うと言ってしまった。やましい関係なんでしょうね。あの男性ももしかしたら気づいていたのかもしれないと不安があってこその嘘です。そうでなくても隣に男がいる席に座っているって分かると嫉妬してしまうのかもしれない。だから結局あの持ち主は分からずじまいで終わってしまった。ってとこでしょうね」

「別れた彼氏なのに今更……」

「まだ好きなんじゃないでしょうかね。はい、これで本当に終わりです。ちょうど晴れてきたようですしお散歩にでも出かけますか」

「ほんとだ。先ほどの推理よりちょっとスッキリしました」

さっきまで降っていた雨が止み、太陽が出始める。僕の気持ちも空も晴れていた。

「やっぱり平山さんの観察力と推理力とじゃ敵いませんね。まだまだ経験が足りないです」

「誰だって経験から学ぶものなんだ。今度の事件で君が得た教訓は、常に別の可能性というものを忘れてはいけない、ということだね」

それから梅雨が明け、また暖かい日が続いた。

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