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未成年女探偵の一息な時間  作者: 中川夏希
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ファイル0.5

「ねえ。綾って高校卒業したら進路どうするの?」

「え?」

学校の昼休み。一緒に弁当を食べていた友人の愛美が私に聞いてきた。クラスで私一人だけが進路届けを白紙に出したと、どこかで嗅ぎつけたらしい。

「決まってないかな……。会社に入ろうとも思ってないし……。愛美はどうするの?」

「私は卒業したらとりあえず大学かな? その後は適当なところで就職」

「大学……ねえ……」

私にとって学校に入ることはとてもではないが無理に等しい。親を事故で亡くし親戚に預けられていたため、これ以上学費やらに世話になりたくなかった。

「綾のお父さんって昔喫茶店のマスターだったんだよね? 綾もなれば?」

「嫌だよ。別に嫌いってことじゃいけどお父さんの仕事はしたくない」

クラスのみんなは、私の両親が死んだことは知らない。自分から話すほどでもなかったのだ。

「平山はいるか?」

担任が私を呼びに教室に来る。

「ここにいますが……」

「ちょっと職員室に来て」

何だろう……とは一瞬考えたが、恐らく進路のことだろう。私は職員室に行った。


「平山。どうするか決めたか?」

「すみません。まだ決めてないです」

「お前はクラスでも模範的な生徒だ。大学も奨学金の制度だってあるんだぞ?」

この話は何度目だろう。正直聞き飽きていた。私だってどうしようか迷ってる。

「卒業までには決めておきます……」

私はそう言って職員室を出た。


その日の帰り道。何も考えず歩く。

「あれ?」

気がつくとかつて父が営んでた喫茶店に着いていた。当時と変わらない外壁に、中も空っぽではあったがどこか面影がある。

「いつの間に……」

「綾ちゃんかい?」

後ろから私の名前を呼ぶ声がした。振り向くと一人の老人が立っていてその顔には見覚えがあった。

「じっちゃん……?」

「おお。やっぱり綾ちゃんじゃったか。懐かしいのう。何年ぶりじゃ?」

昔と変わらないじっちゃん。お久しぶりですと会釈をし、話をするため私とじっちゃんは近くのベンチに座った。

「そうか。あの小さかった綾ちゃんがもう高校生か……。時が経つのが早いのう……」

「三年になって進路がどうとか学校で話になってるんですが、まだ決められてないんですよ。優柔不断な性格がここできてるっていうか……」

「進路かあ……。綾ちゃんは夢とかないのかの?」

夢……。考えたこともなかった。歳を重ねればいずれは見つかると思っていた。だが、それは大きな間違いで高校生の今になると現実ばかり見始めた。

「ないです……。何になりたいのかさえも分かってなくて……」

「君の父さんはな。二十歳の時に儂のところに来たんじゃよ。あの喫茶店を営業したいとな。最初は上手くいかないと思ってたんじゃが、独学で色々調べてバリスタの資格も取ったんじゃ。なんも今やりたいことを見つけなくてもいいと儂は思ってる。いつかやりたいことを見つけたらその時に頑張ればいい」

じっちゃんは私の頭を撫でた。昔も今も変わらない優しいじっちゃんだった。

「それとな。綾ちゃんに一つ謎を解いてもらいたいんじゃが、いいかの?」

「謎ですか?」

「行方不明になった男の子がいたんじゃが、すぐに帰って来たんじゃ。その男の子の証言で警察は犯人を探そうとしたんじゃが、その犯人は見つからなくてのう。男の子が見た犯人の特徴は、白髪で髭は長く帽子を深く被ってたそうじゃ。目隠しされてたから犯人が何をしていたとかは全く見当もつかんかったらしい。証言から容疑者が三人絞り出したんじゃが、Aさんは髭は長いが髪は黒。Bさんは白髪で髭は長かったんじゃが帽子など持っておらんかった。Cさんは髪も黒く髭もなかった。誰がその男の子を誘拐したのかのう?」

いつも持ってくるじっちゃんの話は、今思うと面白かった。私はホームズのように手を顎に当て考える。

「Aさん……白髪を黒に染めることもできるしBさんも帽子を捨てればいい……。Cさんに関しては髭を剃れば……いや待てよ……。分かりましたよ」

「ほう。さすが綾ちゃんじゃな。では誰が犯人かな?」

私はベンチから立ち上がり手を後ろに組み話し始めた。

「容疑者がいるという事が問題でした。これは事件だと思っていたのがそもそも間違いです。誘拐されたその男の子は何故目隠しをしていたのにも関わらず犯人の特徴を知っているのでしょうか? それは、これは誘拐ではなかったからですよ。その男の子は自分が誘拐されたと狂言した。が答えです」

じっちゃんはパチパチと拍手をし笑っていた。

「お見事じゃ。推理の仕方がお父さんと似てるのう。ちと簡単すぎたなあ。まるで探偵みたいじゃったよ」

「ありがとうございます。伊達にホームズを読んでないので」

するとじっちゃんが突如立ち、おいでと私をあの店に連れて行く。

「ここは綾ちゃんが卒業したら受け渡す予定だったんじゃ。ほれ鍵じゃ。何をするかは綾ちゃんが決めればいい」

じっちゃんは私に鍵を渡した。中に入ると、カランコロンと聞き覚えのある音が響く。「お前さん。この町のシャーロックホームズになる気はないかの?」

「ホームズ?」

「儂もこう見えて大のミステリー好きなんじゃ。綾ちゃんが探偵になればこの町も平和になるんじゃないかと思ってのう」

探偵……。


『わたし大きくなったらホームズみたいなたんていになりたい!』


そう言えばそんな事言ってたっけ……。昔の自分の言葉を思い出した。町の悩みを聞く。憧れたシャーロックホームズみたいな探偵か……。

「ここの改築費用は儂に任せてもいい。儂はたまに来てコーヒーを飲みたいだけじゃ」

ほほほと笑うじっちゃんは、どこかに行ってしまった。

とりあえずの気持ちで始めることにしよう。私はアルバイトで貯めたお金で中を改装し、色々手続きなどを済ますことにした。

そして卒業と同時に私は「ホームズ探偵事務所」を開業した。名前は適当に、尊敬するシャーロックホームズの名前を借りた。


費用は儂が出すと言ったのに……

と、ぼやいていたじっちゃんだったが、涙ぐんでいた。

「父が出していたコーヒーです。前みたいに機械じゃないので完璧にまでは再現できないんですが、豆を探すのに苦労しましたよ」

じっちゃんにコーヒーを出す。懐かしい味だと言いながら飲むじっちゃんに一つの恩返しが出来たと思った。

「後はお客さんが来るか……ですね」

「まあ焦るでない。地道にゆっくり待とうじゃないか」


それから一ヶ月、二ヶ月と過ぎるが、お客さんは来なかった。

「おかしいな……」

その理由は自分でも分かっていた。一見ここが探偵事務所だとは誰も思わない外装だったからだ。そこで私はじっちゃんに頼み、看板を作ってもらった。するとこの看板が良かったのかポツリポツリとお客さんが来るようになった。


「最近夫の様子が……」

「犬がいなくなったんです!」

「好きな人がいて……」


色々な依頼を受けてはそれを解決した。とは言っても、シャーロックホームズみたいな本格的な事件はなく、探偵というよりただの便利屋だった。それも町の人たちが喜んでくれるならと思えば苦ではない。むしろ嬉しい。

ある日の事。

「あの……。ここって探偵事務所ですよね?」

「ようこそホームズ探偵事務所へ」

一人の女性が依頼をしに来た。私はその人を中に入れソファに座らせる。

「お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「原口まりと言います。実は私が飼っていた猫が度々いなくなってしまうんです。なのでその猫を探していただけないでしょうか」

猫探し……。

「分かりました。どんな猫なんでしょうか?」

「ちょっと太ってる猫で……」

まりさんに猫の特徴を聞き、早速捜しに出かけた。

「色んな猫がいますね。太ってる猫……」

心当たりある所を捜すが、見つからない。

「ハニ丸ちゃん。どこいったのーー?」

名前を呼んで来るのであれば誰も苦労しない。暗くなってきたところで今日は探すのをやめた。

「ハニ丸は……?」

事務所に帰るとずっと待っていたのか、まりさんがソファに座っていた。

「見つからなかったです。太ってる猫という線で探していたのですが、中々該当する猫は……」

「そうですか……」

落ち込むまりさん。私は自分の分とまりさんの分のコーヒーを淹れる。

「平山さんって幾つなんですか? 凄い若く見えますが……」

突然まりさんが私に質問を投げかけた。

「私ですか? 今年で十九歳になります」

「え……? 未成年? ご立派ですね」

驚くまりさん。ふふふ……と少し笑ってしまった。確かに若くして探偵事務所を立ち上げた人は少ないだろう。

「私がまだ小学校上がる前ぐらいは、父がこの場所でお店を開いてたんですよ。だけどその何年か後に事故で両親が亡くなってしまって……。高校卒業するまでやりたい事もなくフラフラとこの事務所の前に来たら、ここの管理人である人と再会しまして、話をしてるうちにその人が探偵になってみないかと言ってくれたんです」

「それで探偵に……」

「ええ。まあ、私も探偵になりたいと一時は思っていたので」

まりさんが本棚に置いてある本を一冊取り出した。

「シャーロックホームズですね。私も昔読んだことがあります」

「私の敬愛する名探偵です。彼の洞察力と観察力。そして彼の推理力は素晴らしいです」

「この町のホームズになれるといいですね」

二人は声を揃えて笑う。

「私とホームズとじゃ、天と地の差ですけどね。少しでも追いつくためにも絶対にハニ丸は見つけますね!」

「お願いします」


次の日の朝。私は猫を見つけるため早くから出かけた。

まりさんからもらった写真を見る。確かに太っている。それも結構目立つほどだ。聞き込みなどをするが該当する猫はいなかった。

「みんな結構猫って見ないのかな……」

群れていた猫たちを見て可愛いのに……と、呟きながら歩く。

「ん?」

私は通り過ぎようとした時、先ほど見た群れていた猫たちをもう一度見た。

「あれ……ハニ丸?」

一匹明らかになにかが違う猫がいた。なにより

「写真よりだいぶ太ってるじゃん……」

足音を立てず背後に近づく。他の猫たちは私の存在に気が付き逃げていくが、他の猫などはどうでもよかった。

「ハニ丸……捕まえ……た!」

ガシッと掴み持ち上げる。

「重っ!」

すぐにまりさんに連絡をする。

「ハニ丸! いました! ええ。この重さは間違いなくハニ丸です!」

デブ猫とはよく言ったものだ。


「ハニ丸ーー!」

喜ぶまりさん。またこれで一つ依頼は解決した。いやそれよりも……

「ハニ丸ってメスだったんですね」

「はい。あれ? 言ってませんでしたっけ?」

まりさんは頭にクエスチョンマークを作っていた。


「いやあ。無事解決ですね」

「ありがとうございます! ダメよ? ハニ丸ーー」

重たいハニ丸を軽々と抱き抱えるまりさん。お礼を言って帰っていった。

それから何ヶ月かが過ぎた。

「まだこんな時間か……。八時……」

時計を見ると時刻は八時四分。突然カランコロンとドアの開く音が鳴る。看板立てた覚えはないはず。知り合いでも来たのか……?

「いらっしゃいませ! ようこそ探偵事務所ホームズ店へ。ここで働いてる探偵の平山です」

「君随分若いね。いくつなの?」

「今年で二十歳になります」


-中間の推理をことごとく消し去って、ただ出発点と結論だけを示すと、安っぽくはあるが、ともかく相手をびっくりさせる効果は十分だ-


「ふむふむ……なるほど……」

私は目の前にいる男性が、どんな経緯でここに来たのか推理を披露した。

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