表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未成年女探偵の一息な時間  作者: 中川夏希
13/14

ファイル.0

河がよく見える所の向かい。そこで父が経営する喫茶店は、常連さんから評判が良かった。こだわりのコーヒーとフレンチトーストは特に美味しいと巷で話題にもなるほどだ。

中を見ると、テーブル席がいくつかとカウンター席がある小さいお店。壁の戸棚には沢山の本が置いてある。その中でも私が好きなのは、ミステリー好きの父から教えてもらった「シャーロックホームズ」だった。

あまり人と話すのが得意でなかった私は、クラスの人たちともうまく馴染めずにいた。そんな私に父は、本を買ってくれた。それが「シャーロックホームズの冒険」である。私の歳にしては難しい内容だったが、父曰く理解力の早い私にはちょうどいい本だった。

「わたしシャーロックホームズに会いたい」

「本の中の人だから会えないよ。彩がホームズになったらどうだい?」

「ホームズはホームズなの! わたしじゃなれないんだよ?」

私の言葉に笑う父と母。幸せな時間を過ごしていた。

カラコンコロンと店内にドアの開く音が響く。

「おや? 今日は可愛い店員さんがいるな」

「あらじっちゃん。今日は随分早いんですね」

「じっちゃん」と呼ばれる人は、このお店の管理している沼田康平さん。私は松の下でよく休んでいた事から松下のじっちゃんと呼んでいた。

「じっちゃん、わたし今日幼稚園おやすみなの」

じっちゃんが持ってくる話はとても好きで、私はいつもじっちゃんの横に座りその話を聞いていた。

「ちょいとマスターには推理してもらいたい話があるんじゃが……いかがかな?」

「話とは?」

父はグラスを拭く動作を止め、じっちゃんの話に食いつく。

「ある旅館で男性が何者かに刃物で刺され殺されたんじゃ。その男性は、一人旅が好きでの、他に連れはいなかったんじゃよ。容疑者は三人。一人は同じ一人旅をしていたAさん。二人目は奥さんと二人で旅行に来ていたBさん。三人目はその奥さんであるCさん。殺された場所は浴場の更衣室。それぞれ同じ時間にその三人と、被害者がいたそうなんじゃが、アリバイはないんじゃ」

「殺害された時、その三人はどこにいたんですか?」

「Aさんはトイレの中。Bさんは浴場に忘れ物を取りに中に入ってたんじゃ。Cさんは男風呂の前で待ってた。ちなみに第一発見者は清掃員のおじさんじゃよ。」

ほほう……と父が興味を持つ。

「清掃員が入る時間帯……よほど遅い時刻だったんですね。犯人は恐らくBさんですね。トイレに入ってるAさんはまず外の状況を把握ができない。Cさんも同様。女性が男風呂に入るのは少々抵抗があります。消去法でBさんってことになりますね。それに返り血を洗い流すこともできますし」

パチパチと、じっちゃんが手を叩く。

「正解じゃ。これはいささか簡単じゃったな」

「ええーー? 私はてっきり清掃員が犯人かと思った……」

母がおかわりのコーヒーを出しながら言った。

「ねーねー? この話ってじっちゃんが考えたのーー?」

「そうじゃよ。綾ちゃんは分かったかのお?」

ニッコリと笑いながらじっちゃんは、私を見て答えた。

「ぜんぜん分かんなかった。むずかしすぎるよーー」

毎度ながらじっちゃんの話は当時の私にはまだ理解ができてなかった。

「それでじっちゃん。今日はただのお散歩がてらに?」

父が思い出したかのように聞いた。

「おおそうじゃ。実はな、明日久しぶりに孫が遊びに来るんじゃ。今年で四年生なんじゃが、ここに連れて来ていいかの?」

「ええもちろん。そういえば孫が一人いるって言ってましたね」

「昔はよく遊びに来てたんじゃけどのう……。最近はめっきり来なくなったもんじゃ」

じっちゃんは少し寂しげそうな顔をしていた。

「じゃあ、そろそろ行くかのう。マスター、また明日に」

「お気をつけて」

じっちゃんは、もう一度私の頭を撫で、店を出た。

「そういえば綾、明日持ってくる物は用意できたかい?」

「あ、やるの忘れてた……」

私は急いで部屋に戻った。明日を楽しみに待つ。だが、明日を待ってもその孫はおろかじっちゃんも来なかった。

それから一年後。七才になり小学生になった私は、相変わらず孤立していた。

学校が休みである日曜日に、久しぶりに見る顔の人が喫茶店に入ってきた。

「久しぶりじゃのう。ここに来るのは」

「いらっしゃいませ。あら? じっちゃん」

約一年ぶりに見るじっちゃんも、相変わらず元気だった。

「すまんのう。今日は孫を連れてきたんよ」

じっちゃんの後ろには、少し背の高い男の子がいた。反射的に私は母の背中に隠れる。

「孫の智じゃ」

「これが智くんか。将来はイケメンに育つのかな?」

智と呼ばれる男の子は少し恥ずかしそうに会釈をしていた。

「綾、おいで。この子うちの一人娘なんですよ」

父が私を呼び、智くんに紹介する。

「確か年齢は七才って言ったっけな。智と年齢が近いんじゃな。ほら智、一緒に遊んでおいで」

じっちゃんは智くんの背中をポンっと叩く。父もあっちの部屋にと私の部屋に案内しなさいと言われ、私は智くんを連れて部屋に行った。

「ここがわたしのお部屋。本が好きなの」

本が千冊以上並ぶ部屋。そのほとんどが父からもらった本であった。

「いやいや……。七才の子が読む本じゃないでしょ……」

引きつった顔をする智くん。やっぱりこの人も私の事変だと思ってるのかな……。

「おすすめの本ってないの?」

「おすすめ? って何?」

「えっと……君が好きな本ってことかな?」

私は自分が好きな本を智くんに渡した。この前の誕生日に父から買ってもらった本だった。

「シャーロック……ホームズ?」

「えっとね。シャーロックホームズっていう名前の探偵がね。いろんなじけんを解決するの」

確かに小学生が読む本にしては難しい内容だろう。智くんは興味なさそうな顔をする。

「お兄ちゃんの名前、なんて言うの?」

「智くん」って分かっていたがいきなり名前を呼ぶのはいけないと思い、再度名前を聞いた。

「僕は横山智。よろしくね」

智くんは笑顔で答える。

「他にはどんな本が好きなの? できれば僕にも分かりそうな本教えてほしいな……」

分かりそうな本……と言っても父の本はどれも難しそうなものばかりだったため、沢山ある本からそれを選ぶのは骨が折れそうだった。とりあえず一緒に探す。するとすぐに智くんが気にいるような本を見つけた。

「ホラーの真相……?」

恐いのが苦手な私であったが、一方智くんはそのタイトルに興味津々であった。

「僕意外にこういうの好きなんだよね。綾ちゃんは好きじゃないの?」

「うん……。わたし恐いのきらい……」

智くんがそれを読んでいる間、私は別の本を探す。すると、部屋のドアが開きじっちゃんが入ってきた。

「智、そろそろ帰ろうかのう。早く帰らないとお母さん来るからのう」

「はーい」と智くんは帰る支度をする。

「お兄ちゃん。また会える?」

もう少しだけ一緒にいたかった。智くんはじっちゃんが私によくするように頭を撫でる。

「当たり前だろ。また会おうな」

笑顔でそう言い、智くんとじっちゃんは帰っていった。これが後に探偵とその助手になることはこの時の私たちは想像すらしてなかっただろう。


それから数ヶ月後。段々学校にも慣れ、友達とも仲良くなれた頃。ある悲劇が起きた。私が学校から帰ってきたら、いつもいるはずの父と母は店にはおらず、置き手紙だけが置いてあった。

「綾へ。戸締りはしっかりすること。隣町に行って食器買ってくるからお留守番よろしくね」

なるほどと納得する。前の晩に父が新しく出来た骨董品屋に行きたいと言っていたのを思い出した。それなら私も連れていってほしかったなと、文句を言いながら自分の部屋に戻り本を読み始めた。

それから何時間経ったのだろうか。いつの間にか寝てしまっていた。時計を見ると夜の八時を回っていた。しかし父と母の姿はない。

「帰ってくるのおそすぎじゃん」

とぼやくが、その言葉を言ったところで意味がない。電気をつけ二人の帰りを待った。

それから何時間が経っても帰ってこない。時計の針だけが進んでいった。部屋に戻ろうとした時、ドアの叩く音が聞こえた。

「誰……?」

「綾ちゃん! いるか!」

その声はじっちゃんだった。私は急いで開けた。

「はあ……はあ……ずっと家にいたんじゃな……!」

息を切らしながら、話そうとするじっちゃん。私が電気をつけずに寝てしまったせいで家にいないと思い、町中探してくれてたんだと直感的に思った。そんなじっちゃんが息を切らしてまで私を探していた理由ってなんだろう? と考えていたが、その答えはすぐに分かった。

「綾ちゃん……。驚かないで聞いてくれのう……お父さんとお母さん……車に引かれて先ほど病院で亡くなった……」


え……?


その言葉を聞き私は嘘だと思った。だが、じっちゃんの顔を見て、それが本当なんだとも思えた。


じっちゃんに連れられ病院に行く。霊安室に入ると、白い布で顔を隠した人が二人横になっていた。私は恐る恐るその布をめくる。その顔は、つい朝まで元気で笑っていた父と母だった。冷たい体が、私に現実を突きさせる。




私の両親は亡くなった




私はその場で泣き崩れてしまった。




後日、警察から話を聞いた。二人が信号を渡っていた時に、スピードを上げながら曲がってきた車にぶつかり死亡したそうだ。その相手は大学生らしく、アルバイト先に間に合わないとかなんとか。私には関係ない話だった。


小学生にして親を亡くしてしまった私は、親戚の家に預けられることになった。幸いにもその親戚の人は私を快く引き受けてくれた。

町のみんなが好んでくれた喫茶店は閉店した。しかし管理人だったじっちゃんは死んだ父がいつでも帰ってこれるようにと、その後も店を他の人に受け渡すことも潰すこともしなかった。

私が探偵事務所としてその店を開くことはもう少し先の話だ。

ファイル.0であるお話。平山の過去のお話です。

番外編と言いますか、何故コーヒーを好んでいたのか、伏線が少し回収している物語となっております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ