プロローグ:少女配属式
旧作から来てくれた方へ。お待たせしました。
初めて来てくれた方へ。ようこそ。本当にようこそ
希望はあります。ただ、それが実ることはありません。
そういう話が読みたくて、書いています。
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空が、きれいだった。
四月の青空だった。桜が風に流されて、制服の肩にくっついた。払おうとして、やめた。なんとなく。
新しい制服はまだ硬い。首元がちくちくする。
隣の子と目が合った。
「……緊張する?」
小声で聞くと、その子は少し遅れて頷いた。
私も、と言いかけて、前の列の先輩が振り返ったので黙る。
二千人。
今年、霞学園に配属された私たちの数だ。広いグラウンドに整列しても、まだ余裕がある。それだけの人数が、同じ制服を着て、同じ方向を向いている。
壇上に、白衣の先輩が立った。
「みなさん、ご入学おめでとうございます」
眠そうな声だった。けど、不思議と嫌な感じはしない。少し安心する。
「霞学園へようこそ。ここは、素晴らしい学園です」
周りの子たちは真面目な顔で聞いていたけど、私はその言葉を聞きながら、寮って門限あるのかな、とか別のことを考えていた。それから慌てて、ちゃんと前を向いた。
玲緒奈様、という名前が何度も出てきた。出るたびに、周りの先輩たちの背筋がすっと伸びた。どんな人なんだろう。きっとすごい人なんだろうな。
説明が終わると、見学ツアーになった。
整備場に連れて行ってもらった。大きなトラックが並んでいて、先輩たちが楽しそうに作業していた。
「これがマチルダ!うちの子!」
案内の先輩が、トラックの大きな砲をぺたぺた叩きながら言った。嬉しそうだったので、「かわいいですね」と言った。先輩は満足そうに笑った。
「よく詰まるんだけどね!」
詰まるんだ。
弾薬工場も見た。機械がずらりと並んで、せっせと弾を作っていた。この弾がどこに飛んでいくのか、私にはよく分からなかった。
最後に蘇生プラント。
廊下に入った瞬間、空気が変わった。
両側に警備の先輩たちが並んでいた。等間隔に、微動だにせず、立っていた。腰の銃が照明を反射してぬらりと光った。目が合った気がして、視線を逸らした。
分厚い扉を抜けると、白い部屋だった。何もかもが白かった。
大きな機械が整然と並んでいた。白衣の先輩たちが黙々と作業していた。バッジを見ると、五年生、六年生ばかりだった。なんとなく、話しかけてはいけない気がした。
「これが蘇生プラントMk-IVね」
案内の先輩が小声で言った。
「死んでも三分で生き返れるから、霞学園は強いんだよ」
三分。
先輩が少し身を屈めて、もっと小声で言った。
「ここだけの話ね。会長たちが使うやつは、もっと早いらしいよ」
「え。」
「詳しくは知らないけど」
先輩はそれだけ言って、次に進んだ。白衣の先輩たちは、こちらをちらりとも見なかった。
グラウンドに戻ると、対抗訓練の実演があった。
先輩たちが二手に分かれて、向かい合った。みんな笑っていた。楽しそうだった。
「始め!」
笛の音が鳴った。
最初は何が起きているのか分からなかった。煙が上がって、音がして、先輩たちが走って——
バタバタと、倒れた。
隣の子が、小さく声を上げた。
「射撃やめ!」
倒れた先輩たちは動かない。何人かは、苦しそうにうめき声を上げていた。
一人の先輩が、静かに歩いていった。
うめいている先輩のそばに膝をつく。
カチャリ。
腰のホルスターから、銃を抜いて。
パン。
うめき声が止まった。
また別の先輩のところへ。
パン。
パン。
静寂が戻った。
私は、息をするのを忘れていた。
しばらくして、先輩たちが戻ってきた。さっき倒れていた先輩たちが、同じ顔で、同じ制服で、少し髪が濡れているだけで戻ってきた。
「ありがと!」
撃たれた先輩が、撃った先輩に明るく言った。
「どういたしまして」と撃った先輩は笑った。
隣の子が、小さく声を上げた。
横にいた先輩が、私たちを見て、ああ、と言った。
「慈悲の一撃っていうんだ。苦しんでる子を早く蘇生させてあげるために、トドメを刺してあげるんだ」
当たり前のように言った。
「まあ、すぐ慣れるさ」
死体が、まだそこにあった。さっきまで笑っていた先輩たちと同じ顔の死体が、グラウンドに転がっていた。でも今、同じ顔の先輩たちが笑いながら話している。
私はどちらを見ればいいのか分からなかった。
しばらく、そのまま立っていた。
「では、配属発表に移ります」
ふわふわした声が言った。
名前が読み上げられるたびに、誰かが列を離れていく。防衛部門、生産部門、宣伝部門。淡々と、続いていく。
私の名前は、まだ呼ばれない。
隣の子が、小声でそっと言った。
「……なかなか呼ばれないね」
不安そうだった。
頷こうとした時。
「——ナナミ」
スクリーンに名前が映し出された。隣の子の名前だった。
隣の子が、書類を受け取りに後ろへ歩いていった。
振り返って私を見た。
何か言いたそうな顔だったけど、何も言わなかった。そのまま列を離れて、後ろの方へ消えていった。
私の名前は、まだ呼ばれない。
「最後に、メーテル突撃隊への配属者を読み上げます」
グラウンドの空気が、少し変わった気がした。
周りの先輩たちが、わずかに姿勢を正した。どこかから、小さな羨望に似た、でも少し違うようなため息が聞こえた気がした。
突撃隊。
それがどういうものなのか、私にはよく分からなかった。ただ、周りの反応を見てすごいことなんだと思った。
そのとき、グラウンドの端の扉が開いた。
笑い声が聞こえた。あははは、と。
入ってきた彼女たちは、笑いながら喋りながら、ぞろぞろとグラウンドに入ってきた。胸元に大きな銃を斜めに下げて、腰に丸いものをいくつもぶら下げて、でも誰も全然気にしていない。
読み上げは続いている。
構わずに彼女たちは新入生の列をのぞき込みながら、きゃあきゃあと声を上げた。
「かわいい!この子私の!」
「えっ、ずるい!私も!」
名前が、聞こえた。
私の名前が。
気づいたら、目の前に顔があった。
満面の笑みで、こちらを見ている先輩が。
「み〜つけたっ!君だね!すっごく可愛い!」
「え、あ、あの……」
「君は私とペアだよ!今日から私と一緒!お風呂も寝るのも、自爆するのも、ずーっと一緒だよ!」
自爆ってどういう。
「行くよ!玲緒奈様のために死ぬ方法、たーっぷり教えてあげるから!」
「ちょ、待って、痛い、痛いです先輩!」
引っ張られながら、振り返った。
グラウンドに残った子たちが、こちらを見ていた。ある子は羨ましそうに。ある子は、何か言いたそうな顔で。
さっき後ろへ歩いていった隣の子の姿は、もうない。
扉が、閉まった。
次回、1話:新入り会議 です。当分は毎日投稿を行います
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