第98話 姫さま、斥候を行い護衛騎士、絵本に文句を言う
バジルが、言いにくそうにアニキへ言った。
「……仲間の顔をしてるってなら、たぶん仲間なんだと思うよ。……ただ、造り変えられてて、容姿が似通ってるってだけかも。……少なくとも、俺が魔王の眷属を検分して感じたのは、そこここに人間のような骨格があったけど、皮膚や骨は少なくとも人間のものじゃなかったって……」
アニキは、もう一度拳で壁を叩いた。
あたしたちはビクッとしてしまう。
「…………いや、すまねぇな。ムカついちまった。当たり散らすこたねぇよな。……姫さま。勇者の慈悲で、俺の仲間をこんな状態にした連中を、この手で殺させてくれねぇか?」
アニキが暗い声でお願いしてきた。
「……アルジャンが殺してなかったら、いいぞ」
先に来てるから、もう殺してるかもしんない。
「よし! じゃ、行くぜ!」
アニキが立ち上がった。
そのまま行こうとするので、引き止める。
「……せっかくだから、持って帰ろう。弔ってやれ」
アイテムボックスに入れたら、アニキが泣きそうな顔で私に礼を言った。
「ありがとよ、勇者様」
「別に大したことじゃないぞ。それより、早くアルジャンを見つけよう。アルジャンは一人で戦ってるんだ!」
「……そうだな! よし、やるか!」
アニキが明るい声を無理やり出した。
再びみんなで歩き出す。
アルジャンはいないんだけど、アルジャンが壊したっぽい感じの部屋がたくさんあるので、アルジャンは元気に暴れ回ってるみたい。
「アルジャン、どこまでいったのかなー」
止まってくれればいいのに。
せっかく迎えに来たのに、ぜんぜん見つからないよ!
どんどん進むと……物音が聞こえてきた。
「あっちから、何か聞こえてくるぞ!」
あたしが指をさしたら、アニキが顎を撫でた。
「確かに姫さまは、斥候の能力があるな。アルジャンが言うだけある」
「ふふん。まぁな! この程度、大したことないな!」
褒められたので、いばっておく!
すると、イディオが困った顔で呟く。
「仮にも王族なので、斥候をやらせるのは難しいかと……」
「そもそも姫さまは勇者ですし。幼女の勇者が斥候をやって斃れたら、とってもよろしくないんじゃないでしょうか?」
ってプリエも言ってる。
アニキが肩をすくめた。
「ま、なんとか俺が守るさ。姫さま以上に斥候が出来る奴がいねぇから、しかたねぇ」
「攻撃されても平気だぞ。アルジャンがうるさかったから、対策したのだ」
守りの札も貼ってるし、反射のブローチも付けてるし、浮遊の羽も付けてるし。
「それを信じてやってもらうかね」
一番後ろのバジルが手をあげた。
「あのー、じゃあ俺がクモコとハナコと一緒に姫さまを守るけど」
「僕! 僕がやるよ!」
リノールも手をあげた。
アニキは首を横に振る。
「ダメだ。殿は攻守いけるバジルがいい。イディオでもいいが、イディオはまだ経験が浅い」
バジルは困った顔で反論した。
「え、俺もそうだけど……」
「そうでもねーからお前がいいっつってんだよ。謙遜するな」
アニキの言葉を聞いたイディオが、悔しそうに唇を嚙んだ。
気づいたアニキがイディオの頭を乱暴に撫でる。
「経験値の差だ。バジルはのらくらしてるように見せかけてるけどな、冒険者のランクでいくとBには余裕で達してるぞ。錬金術師ってのは調合だけかと思っていたが、実力を見る限り、材料調達も自力やってんだろうよ。それは、ソロの冒険者と一緒だ。つまりは、ソロで材料調達出来るくらいの能力があんだよ」
イディオがハッとして、顔をあげた。
そして、バジルに謝る。
「……申し訳ない。理由もなく侮っていた」
「いや、全然いいよ? つか、そんなに実力ないからね? 買いかぶりすぎ!」
バジルが叫んだ。
「んでもって、そっちのリノールも経験不足だ。あと、召喚魔術は本人が斃れたら終わりだろ。真ん中で守られとけ」
「…………はい」
リノールがガッカリしてる。
あたしは腕を組んでうなずいた。
「皆、血気盛んでいいことだ! では、先へ急ぐぞ!」
私は音のするほうを指して言った。
*
はい、こちらアルジャンです。
俺が、空気の読めない絵本と、どうみても寄生型魔物ですありがとうございます、の自律防御武器とともにあちこちを壊して回っているうちに、いよいよ中枢にきたか、って感じになった。
具体的には、異形がわんさか出てきた。
「うらぁっ! おとなしく冥府に旅立て! あと、元はこっちの奴だろうが! 攻撃やめろ!」
そんなことを言っても聞く耳を持たない。まぁ、もう死んだようなものなんだろう。
ヒュドラも攻撃しているが、何せ数が多い。
「おいっ! 初代勇者! お前も参戦しろよ!」
『どうやってだ』
「お前、口だけかよ!?」
いや、口もないから思念だけか! マジで使えねー!
「勇者の剣をもっと強力にするとか出来ねーのか!? つか、この剣、固いだけなのか!? ご大層な名前のわりにショボいぞ!」
俺がさらに怒鳴ると、絵本が黙った。
怒る感情はあるのかと思ったら、こう言ってきた。
『確かに、その剣は現在大した力がないな。本来は私の血を引く者が魔力を流すと威力を発揮するのだが、貴殿は私の血を引いてない上に、魔力の放出を知らない』
俺のせいだったか!
「……ま、斬れるだけマシか」
俺は沈静化したが、絵本がすごいことを言ってきた。
『私の魔力をその剣にこめよう。そうすれば威力が増す』
えっ、マジで?
俺が驚いていると、剣が青白く光り輝いた。
「うわ! スゲェ!」
剣から、圧倒的なパワーを感じる。
「――ゥラアッ!!」
俺は横薙ぎに剣を振る。
すると、広範囲に渡り、斬撃が飛んだ!!
「うわぁ!」
ビビった。
『それは今、辺境伯となった仲間の使っていた武器と同じくらいの威力を放てる。あちらは膨大な魔力が必要な代わりに誰でも使えるが、この剣は血筋の魔力で威力を発揮する。ただし、記憶のみとなった私だと、その程度しか威力を出せない』
そうなのか。
「いや、じゅうぶんだ! 俺が合図したときだけでいい、魔力をこめてもらえるか!?」
『承知した』
よし、だいぶ楽になったぞ!




