第99話 護衛騎士、姫さまと人影を見つける
敵をなぎ払った俺は先に進もうとしたが、後方から気配がするので足を止めた。
「……これは、複数人で、しかも異形じゃねぇな。一人はかなりの戦士だ。気配を消さないのが自信に満ちあふれていていやらしいな……。あと、一人、かなり小さくて軽い……ん?」
なんか、姫さまっぽい歩き方なんですけど?
まさか姫さま、魔王種に飛び込んできてないよね?
騎士団を率いて魔王の封印に向かっているよね?
嫌~な予感がしていて、反応が遅れた。
また、異形がわんさか湧いてきやがった!
しかも、姫さまっぽい足音のほうに向かったぞ!
「おい! ちょっと待てコラァ!」
姫さまじゃないよね?
……って祈りつつ追いかけたら……。
「ギャー! こんなん勝てっこないでしょー!」
「プリエ、下がれ! 魔術が効くか試す!」
「いや待てイディオ。まずは俺が武器が効くか試すわ。効かなかったら、出来るだけ隙を突くように魔術で攻撃しろ」
「私も前に出ます。クモコはご主人さまを守るように」
「ハナコ、お前、戦えるのか!?」
「……こんなところまで連れてきて、それはないでしょう? どうにかしますよ」
「えっと、僕は……隙を見て、死霊を召喚しますから!」
……聞き覚えのある声ばかりがする。
どうやら、勇者の供がとうとう姫さまと合流したらしい。
いやそれはいいんだけど、なんでここに来た!?
勇者の供になったらしいアニキが、ものっすごい凶悪な大剣を振り回す。
異形が吹っ飛んだり、両断されたりしているよ。さすがアニキ!
だけど、アニキの攻撃をかいくぐった異形が迫る。
姫さまが魔法銃を撃ち込む。
だが、多少数を減らせただけだ。
「姫さま! 私のそばへ!『結界よ、我が身と救うべき者を守れ!』」
プリエ嬢、結界の魔術を使ったのか!?
お前、マジで使えるじゃんか!
……と、その横から、
「ア゛ァァア゛ア゛ア゛ア゛!」
という、デスボイスがした。
……え?
アレ、何?
あれって……イディオ様だよな?
頭に、ヒュドラよりも気持ち悪い頭……いや、帽子か? を装着していて、その帽子……いやアレ、頭だろ、が、口から魔術を吐き出している。
最後に、
「ゲェップ」
って言って締めくくった。
イディオ様、泣きそうな顔で剣を抜いた。
「頭から魔術を吐き出すのなら、両手が空く! ならば剣がふるえるな!」
「……そうね。剣で戦ってちょうだい。そして私と姫さまには近づかないでね」
プリエ嬢が、以前のかわいらしさの欠片もない、絶対零度の声でイディオ様を突き放した。
リノールも参戦した。
死霊を出して異形を襲わせ、動きを鈍らせている。
うーん、すごいな。
俺、出る幕なくない?
傍観しつつ、辺りを何気なく見渡していたら……。
「……ん?」
異形じゃない、人影を見た。
俺は迷った。
このまま合流したほうが安全だ。
安全なのだが……人がいる。
下手をしたら逃げられる。
俺は迷った末、人影に近づくことにした。
忍び足で近寄ると、姫さまたちの様子をうかがっている誰かが見える。
捕まってここまで連れ去られ、逃げている奴か?
少しずつ近づいていき、観察する。
隠れているのは男だ。
変わった服装をしている。
全身が白い。
いや、白い服を着ているが、あちこち赤黒いシミがついている。どう見ても血だ。
男はけっこうな年齢で、髪の半分以上白髪だ。
そしてボサボサだ。しばらく湯あみをしていない感じだな。
まぁ、捕まっていたらそうだろうが……。
途中で目くらましの札を持っていたことを思い出して貼り、さらに近づいた。
かなり近くまで来て、男の様子をうかがった。
なんとなく、声をかけないほうがいい気がしたのだ。
男の戦いを見る瞳が、尋常ではない光を放っていたから。
少なくとも、連れ去られてどこともわからない場所にいる男がする目つきじゃない。
男はジッと戦いを見つめる。
姫さまたちが優勢だ。というか、余裕だな。全員と合流すればかなり楽な戦いになったのか……。
まぁいい。
これで姫さまも、供が多いほうが戦いに余裕ができるとわかってくれただろう。
……と、ほぼ異形を倒したところで男が舌打ちした。
「チッ! もっと出さなければ連中を捕まえられないか」
ハイ、敵でしたー!
この場で叩き切るか捕まえるかで悩み、泳がすという第三の選択を採った。
認識阻害は、認識されると効力をなくす。
ならば、効力のあるうちに尾行して調べようと考えたのだ。
姫さまたちの戦いに片がつきそうになると、男は踵を返した。
俺は後を追う。
『なぜ殺さない?』
と、絵本が尋ねたので小声で返した。
「……泳がせて、もう少し情報を探る。アレが何者かとか、ここがどういうところとか、情報が少なすぎるだろ? 魔道具をぶっ壊して出入り口を絶っても、また作られたらおしまいだ。誰が何をしているか見極めないと」
絵本はしばらく黙る。
『確かにそれがいい』
俺は絵本をなだめるように服の上からポンポンと叩いた。
「……焦るなよ。殺したい気持ちは非常によくわかるが、奴が下級兵士だったら意味がない。ここを作り上げた奴と、人を攫って異形に造り変えた奴を殺さないことには、また進出してくる。絶対、成し遂げよう」
『わかった』
……俺はふと思いついて、絵本に伝えた。
「目的地に着いた、もしくは目的の人物が判明したら、姫さまに知らせることができるか?」
『できる。だが……その場合、私はお前のそばを離れることになる。お前一人になってしまうし、勇者の剣に魔力をこめられないが、いいか?』
俺は目を瞬いた後、苦笑した。
「……お前、心配もできるんだな」
『…………。私の使命は魔王を倒すことだ。そのために存在する。お前は、他の誰よりも魔王を倒す可能性が高い。ならば、いくらでも心配するし協力しよう』
真面目な回答だ……。
だが、照れ隠しにも聞こえるんだよな。なんでだろうね。
「そりゃ、ありがたいね。正直、幼い姫さまには荷が重いって思ってたからな。本来なら、家族と幸せに暮らしているはずの年齢なのに、こんなところまで来て元人間の異形を狩るなんてことをやらされて、いくら王族でもかわいそうだろってさ。俺が引き受けられるなら、いくらでも倒すさ。……じゃあ、よろしくな」
そう返すと、おしゃべりを切り上げた。




