第90話 姫さま、昔を語る①
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――いつの頃だったか覚えてない。
でも、気がついたら、絵本がそばにあった。
その絵本は、しゃべることが出来た。
でも、言ってることはわかんない。
だって、あたしに言葉を教えてくれる人なんていなかったから。
繰り返し「ゆうしゃ」と「しめい」って言ってた気がする。
まわりにいる奴は、良くなったり悪くなったり。
話しかけて世話してくれる人がたまに現れるけど、すぐいなくなる。
あたしは、どういう状況だかなんてわかんなかった。
ただ、ボーッとして、あっちこっちに行った。
絵本はキモいからあっちこっちに行くついでに捨ててくるんだけど、いつの間にかまた戻ってる。
池に放り込んでもダメだった。
しつこいよね。
今日はどこに捨てに行こうかなってボーッと考えてたとき。
デッカい男が目の前に立った。
……と思ったら、しゃがんだ。
「姫さま。私は、今日から貴方に仕える護衛騎士のアルジャンです。どうぞよろしくお願いします」
……なんか、長くしゃべる男だった。
ボーッと見てたら、男は頭をかいて、いきなりあたしの両脇に手を突っ込んで持ち上げた。
「ひゃっ!」
ビックリして声を出すと、男はあたしを片手で抱っこして言った。
「姫さま。俺は、姫さまと一緒にいる人ですよ」
……そっか。一緒にいる人なんだ。
アルジャンは、ホントにずっと一緒にいてくれて、あたしにいろんなことを教えてくれた。
美味しい木の実、虫の捕まえ方、蛙の捕まえ方、蛇の捕まえ方。
騎士っていうから強いんだろうと、棒で叩いてやろうとしたら、ホントに強かった! ぜんぜん当たんない!
くやしくて暴れてもひょいひょい避けられて、簡単に捕まえられて、抱えて運ばれてしまう。
「あるじゃんはせかいいちつよいんだ!」
そう叫んだら、アルジャンが笑った。
強くてかっこいいアルジャン。
いろんなことを教えてくれるアルジャン。
一緒にいてくれるアルジャン。
アルジャンが片手で抱き上げて散歩してくれてたときにあたしは訊いた。
「あるじゃん! あたしとずっといっしょだよな!」
「え? ……そうですね。最初は臨時かと思いましたけど、なんか、たぶんずっと姫さまの護衛をすることになったみたいですね」
ずっと一緒だって言ったので、あたしは浮かれた。
――なのに、あのうるさい絵本がうるさく言うのだ。
『お前は勇者だ』
『勇者は、魔王を封印し続けなくてはならない』
『旅立つために、知識をつけろ』
「うるさい。そんなんどーでもいい。あたしはやりたくない。あるじゃんといっしょにいる」
『なら、より知識をつけろ。一緒にいたいなら、お前がアルジャンを守れ。魔王が復活したらアルジャンも死ぬぞ』
「しぬわけない! あるじゃんはつよいんだ!」
『もしも死んだらどうする。その知識もないのだから、知識をつけろ。魔王は、ひと一人ではどうすることも出来ない災厄だ。お前が知識をつければ、アルジャンのためにもなる』
「……あるじゃんのため?」
『そうだ』
そう言った絵本に騙されて、勉強することになった。
まず読み書き。それから、魔物の話。草木の話。
……わりとおもしろかった。
絵本も、最初の頃みたいに何言ってんのかわかんない言葉じゃなくて、アルジャンみたいにわかりやすく言うようになった。
って言ったら、私がわかりやすいようにアルジャンの真似をしたんだって。やっぱりアルジャンはすごい!
ごくたまに、知らないおじさんや知らないお兄さんがコッチを見てて、そしたら絵本が『王族だ。つまり、お前の家族だ』と教えてくれた。
かぞくってなんだかわからないけど、絵本が『教えたとおりにやればいい』って言ったのでその通りにした。
あとで、おうぞくは魔王を封印する役割の人達って教わった。私もおうぞくだから、やらないといけないんだってさ。
遊んでたらアルジャンに連れてかれて、いつの間にかいた知らない人たちと一緒に座らされた。
なよなよしてる奴は『いいなずけ』っていうらしい。
よくわかんないけど、なんかムカってきたのでちょっと叩いたらビックリするくらい泣いちゃった。
「あるじゃんあるじゃん。アレはなんだ?」
「アレは姫さまの……うーん、そうですね、お友達、ですね」
「遊んでいいのか!?」
「えー……まぁ、はい」
アルジャンに聞いたら、おともだちだって言った。
でも、絵本は違うことを言った。
『アレは、お前の供だ』
「とも? ともだちじゃないの?」
『違う。供は、お前に付き従う者だ。今から鍛えておけば、魔王封印の旅の時に役立つかもしれん』
「ふーん……。あたしはあるじゃんだけでいいけどなー」
『アルジャンだけでは無理だ。アルジャンを死なせたくなければ、他にも供を探せ』
そう絵本は言うけど、アルジャンはとっても強いから魔王なんかに負けないけどな!
あたしは、偉く見せるように言葉遣いを変えた。
絵本の真似をして偉そうにした。
「あるじゃん、どうだ! えらそうだろ!」
アルジャンは笑ってる。
「そうですね。でも、姫さまは実際に偉いんですけど」
「そうか!」
アルジャンはうなずくと、私の頭を撫でてくれた。
アルジャンに頭を撫でられると、うれしい。
ずっと一緒にいてくれるアルジャン。
世界で一番強いアルジャン。
根性無しの軟弱イディオとは違って、私が暴れても全然動じないで笑ってる。




