6話
「……そうですか」
田渕の話しが入ってこない。瑠璃が浮浪者とラブホテルに入った事を知って、思考がストップしたのだ。
「私はその浮浪者を尾行しました。部下には瑠璃さんの後を追うように言って」
「瑠璃はその後は何処に?」
「自宅に戻ったと連絡を受けました」
よく分からない安堵感──その後も良からぬ行動や場所に行っていなくて胸を撫で下ろす。
「その男はその後どうしたんですか?」
「それがですね……」
田渕はゆっくりと、噛み砕くように語る。その男は徒歩でまずリサイクルショップに入る。古着コーナーで黒いダウンジャケットと、セーター、よれたデニムと、スニーカーを購入して試着コーナーでそれらに着替えた。
「お金はどうしたんでしょう?」
「茶封筒から取り出していましたね」
田渕はその様子をスマホで隠し撮りをしていた。
「これです」
「確かに茶封筒から取り出していますね」
刑事に尾行されている事など露ほども思っていないのだろう。かなり至近距離から撮られているのに全く気づいていない感じだ。
「ちょっとすいません。ちょっと手元を大きくできます?」
「はい」
拓哉は拡大された茶封筒を見て愕然とした。足や手までも痺れ始めた。
「どうされました?」
「……うっ、うちの会社の茶封筒です。間違いありません」
茶封筒の左上に、将棋の駒のマークがはっきりと見える。赤い“角”の文字のそのロゴは間違いなく会社のものであった。
「そうですか。と言うと、瑠璃さんが渡したと考えるのが一番自然ですね」
「……そうですね」
「茶封筒だけ渡すはずもないからお金も渡していますね」
「……その後は?」
「小一時間ほど尾行したんです」
「それで?」
「例の飛び込みの現場の駅に着きました」
「歩いて?」
「そうですね。徒歩では行けない事はないですが、相当疲れましたよ」
田渕が言った”しらみつぶし”の意味がようやく理解できた。おそらく、その浮浪者はその駅周辺を寝床にしている可能性が高い。お金を瑠璃が渡した事は間違いない。おそらく、お金を渡して上田カイリを突き落として欲しいと依頼したのかもしれない。素人の推理だが田渕に言う。




