5話
見掛け倒しとはこの事か──極々ありふれたコーヒーの味に安堵した。これ以上、絵に描いたようなイケおじ像を目の当たりににしたくなかったからだ。拓哉は間違いなく嫉妬していた。このスキー焼けしているイケおじマスターに。
「お口に合いますか?」
マスターが作り笑顔で聞いてくる。何のこだわりもないように感じるこのコーヒーにどんな感想を言えと言うのか──。『普通すね』と答えたかったが、ピリついた空気を自ら創り上げる事もない。
「美味しいです」
「そうですか。良かった」
「そう? コーヒーの味分からないけど、普通よ」
いつもそうだった。言葉にしないでおこうと思った事や、我慢しなければと努力した直後にこの母親もどきはいつだって破壊した。我慢の“が”の字もなく、ただただ思うがまま、なすがままだ。
「とりあえず、ユリにいくら借りたんだ?」
「借りた? あの娘、返さなくていいっていったわよ」
「……そんな」
「条件があるって言われたけど」
「条件って何だよ?」
「お前の前に現れない事、万が一会うことになってもお金を渡した事は言わない事」
「……ふざけてるね」
「何がふざけてるのよ!」
「両方、約束破ってるじゃないか!」
「あんたが教えてくれっていったんじゃないかっ!」
話しにならない。想像はしていたが、それ以上だった。涙の再会を一ミリも期待してはいなかった。万が一レベルで、抱きつかれて泣かれたら、許してしまいそうになるんじゃないかと考えていた事が本当に無駄で恥ずかしかった。
「あの娘、あんたの為ならなんでもやるわね。目を見れば分かるわ」
「こっちだって彼女の為ならなんだってできるよ」
「くだらないね。ほんと男はくだらない。そう思うでしょ? マスター」
「男も一途な人はいますよ」
「男はあの事しか頭にないだろ? ひどいやつは処理する道具だと思っているしね」
母親の言動一つで碌な男と出会っていないと分かる。父親の話しも聞きたい気持ちはあるが、最低ランクの人間である事は間違いない。このまま聞かずに帰る方がいいかもしれない。
「もういいや。ユリには二度と会わないと約束してくれ」
「会わないわよ。それよりいいの? メインの父親の話しは」




