第7話 綾小路と一ノ瀬
「京都にはいつお帰りに?」
一ノ瀬は綾小路と将棋をうっていた。
「そこねぇ。
そんなゆっくりで、いいの?」
綾小路は答えず、将棋盤を指差す。
一ノ瀬はにっこり笑う。
「焦らせようとしてますか?」
沈黙
「で」
話を戻そうと一ノ瀬が口を開けると、綾小路はすかさずため息をついた。
「京都に?
あぁ。そうそう。
連絡が入り次第帰ります」
一ノ瀬は困った顔をした。
「綾小路さんがいると、相良さんが機嫌が悪いんです」
「可愛い顔して、酷いこと言うねぇ。」
綾小路は細い目をさらに細くして、くっくっくっと笑う。
「でも正直、一ノ瀬くんが、こんなおもろい人やとは思わなかった」
「攻めますね」
「ほれ。逃げた方が良いんちゃう?」
二人が仲良く将棋盤を覗き込んでいた時、突如、障子がすごい速さで開け放たれた。
「紫苑!
少しいいか?」
「ええぇー!!!
ここで離脱したら、僕の負けですか?」
「でしょうね」
綾小路は、くっくっくと笑う。
(この男も笑うのか)
障子に手をかけたまま相良は口を曲げると、横目で綾小路を見た。
団子屋から帰ってくると、一ノ瀬と綾小路は、すっかり打ち解けていた。
この、根から明るい一ノ瀬の性格が、根本の暗そうな綾小路の心に刺さったのだろう。
「相良さん。
そんな、一ノ瀬さん取られたみたいな顔、しんといてください」
(異様に饒舌になりやがって)
どうも、この男は気に食わねえ。
だが、それはお互い様だろう。
相良は何も答えず一ノ瀬の手首をひっぱり、部屋から出て行った。
「痛い。
痛いですって相良さん!」
一ノ瀬は、引っ張られるより倍の力で相良の手を振り解く。
「どうしたんですか?
用があるようには見えないけど」
一ノ瀬には何でもお見通しだ。
「ああやって、人の懐に入り込むのがうまい男だ」
「それは、そうかもしれませんが、僕の懐に入っても、僕は何も持ってませんから」
一ノ瀬は、ただ、みんなと仲良くしたいだけだ。
黒崎と仲が悪かったのは、黒崎の相良に対する態度が気に入らなかったからだ。
だがそれも、お互い相良のことを大切にしているとわかったため、以前ほど険悪になることもない。
「お前のそういう性格が、丸山の侵入を許したんじゃないのか?」
一ノ瀬は、はたりと立ち止まった。
「そんな風に思ってたんですか?」
もちろん、そんな事はつゆほども思っていない。
誰にでも人懐っこい一ノ瀬に、釘を刺すつもりでつい漏れた言葉だ。
(吉岡さんが殺されている。
もっと、付き合いにも危機感をもってあたるのが当然だろう)
一ノ瀬の、誰にでも同じ態度で接するその純粋さが、相良には幼く、危うく感じて仕方がないのだ。
「一ノ瀬さん、相良隊長、どうかしましたか?」
二人のいつもと違う空気に、たまたま通りかかった清雅は怪訝な顔をした。
「僕は、丸山くんを信頼していた。
共に戦う仲間を信頼できず、疑いの目で見ることはできない」
(一ノ瀬さんが、相良さんに、は向かってる)
『反抗期が来たかのう』
九曜が面白がっている。
相良の目にありありと怒りの色がちらつき始めた。
「お前は命を狙われていたんだぞ!!?」
一ノ瀬の胸ぐらを掴んで壁に押し付けた相良を、清雅は急いで間に入って止めた。
「ちょっ!
落ち着いてください!
なんで急に、こんな話になってるんですか!?」
「私のせいかな?」
こっそり部屋から、綾小路がこちらを見ていた。




