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明治維新がこなかった....(下)  作者: yuyuko50
第一章 期待と疑念、それが紡ぐもの
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第5話 同盟

「若様、おかえりなさい」


出迎えたのは藤乃(ふじの)だった。




清雅は久しぶりに玄之介(げんのすけ)と藤乃の待つ家へと帰ってきた。


最近は宿舎に泊まることも増えいてる。




「不本意ながら……」


清雅は奥にしまった、まんが本とチョコレートを出してきた。




「仕事に忙殺されている」


もぞもぞと座布団を敷き、その上に寝そべる。




『主は本当にだらしがないのぉ』


刀掛けに置かれた九曜はうんざりした。




「俺は日常と職務をしっかり分けて考えたいのだ」


武士にも息抜きは必要。


清雅の勝手極まる、生きるための武士五箇条である。





「若様、少しよろしいですか?」


障子を開けず、藤乃が廊下に静かに立っていた。


「え?」


清雅はチョコとまんが本を隠し「何?」と姿勢を正した。




静かに部屋へ入ってきた藤乃は、ふと右側に置かれた九曜を見やった。




「若様の刀を一目みたいというお方が京より来られています」


突然の話に清雅は驚いた。




「えぇっと、今?」


「いいえ。


 近いうち、若様のご都合の良い時にです」




藤乃は、にっこりと微笑んだ。




「わかった。


 じゃあ、またいつが良いかは伝えます」




清雅は思案した。


九曜に落武者がとり憑いているのは一部の人間しか知らぬこと。


なぜ九曜を見たいという者が現れたのか……




用心深い清雅は、この件を一ノ瀬に相談しようと決意した。







同じ頃、打ち捨てられた古い寺に、黒猫と戦国武将の出立をした男が、共に月明かりを浴びながら空を見上げていた。


ときおり吹く風は、冬の冷たさを運び、枯れた木々がカサカサと不気味な音を立てていた。




「江戸を焼く」




黒猫が、その可愛い姿からはおよそ想像もつかぬ物騒なことを言ってのける。


猫は姿のみ。


声はまさしく男のものであった。





「それが、あやかし連合の目的か?」





武将は猫を膝へのせた。


体は冷え切っている。いや、そもそもこの猫は死骸か?





「罪なき人を巻き添えにするのは、我々のやり方ではない」


膝に乗る猫をあたためてやりながら武将は答えた。


「意見が別れたな」




「ならば、戦国復古派と言われるお主たちは、どのように国をひっくり返す?」


猫の黄色い目が武将の目を見据えた。




「国をひっくり返すのが目的ではない」


 我々は西洋に傾倒する者を、一人ずつ消すのみ」


言って無精髭の合間から黄色い歯を覗かせ、不敵に笑う。






「吉岡の暗殺は余興」


武将は手を打った。





ポロン





それに合わせるよう、琵琶の音が鳴った。






「ついで相良」






ボロロン






冷たい月夜に悲しい音色がよく似合う。






生暖かい風が吹いてきた。


誰かの吐息のような。






「次は誰かな」






黒猫は面白そうに問うた。






「そうさなぁ。


 近衛清雅あたりか」





名を出した瞬間、琵琶の弦が切れ、鼓膜を破らんばかりの激しい嗚咽が夜空に響き渡る。





「それは許さん!!」





黒猫は武将の膝の上で膨れ上がり、人の大きさをゆうに超え、狼へと変貌を遂げる。





それを武将は黙って見ていた。





「そうだろう。


 やはりな」





その怒りをまるで初めから知っていたかのように、戦国武将の出立をした男は大声で笑った。





「とにかく、あやかし連合と戦国復古派は手を組んだ。


 しかし、互いにふれてはならぬ領域があるようだな」





「近衛清雅には手を出すな」





「では、罪なき人を殺すのはやめてもらおう」





「狙いは警察の失墜と、相良と綾小路、一ノ瀬の首」





そこで折り合いがついたのか、黒猫と武将はそれぞれ別の方角へと去っていった。



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