第2話 京都の動乱
「父上、清雅をいつ江戸から呼び戻すのですか?」
清雅の父 輝雅は、部屋に入ってくるなり、ぶっしつけな態度で疑問をなげかけてくる我が息子を、じろりと睨んだ。
清雅の兄、元輝である。
清雅の家は京都にある。
江戸警察で勤めを果たす清雅を、兄の元輝は心配でたまらない。
そんな元輝の気持ちを察してはいるが、父、輝雅は清雅にとって、江戸での勤めは重要と考えている。
「お前のな」
輝雅は、元輝を見た。
「その、弟への執着、なんとかならんか?」
ため息をひとつ。
「執着ではありません父上。
今、京都がどないな事になってるか、知ってますでしょ?」
―― そう。
京都では大変な事件が起こっていた。
江戸を守る江戸警察は、佐倉が所長を務めており将軍様をお守りしている。
京都を守る京都警察は、天皇をお守りするのが職務。
その京都警察の所長が、先日何者かに暗殺されたのだ。
「内部の人間が刺客と通じていたらしいな。
敵に組織の奥まで入られるとは、京都警察も大した事ない」
「今、京都では"戦国復古派"と言われるテロリストが、盛んに行動を起こしているらしいですしね」
戦国復古派は、通称"ムカデ衆"と言われる密偵を使う、頭脳派テロリスト集団だ。
京都警察は、このテロリストに手を焼いていた。
「ついに所長が殺されたとあっては、京都警察も黙ってはいまい」
「それはそうでしょう。
私が言いたいのは、京都で起こったことが、いつ何時、江戸でも起こるかわからないという事です」
元輝は、父の目の前で正座をし、父の目を見据えた。
「何かあってからでは、取り返しがつきません。
もし、あの清雅の、白くて柔らかい肌に傷でもついたら、嫁の貰い手がなくなりますよ」
「あれは男だ」
「……」
輝雅は深いため息をついた。
(元輝には、はよう嫁を探さんと………しまいには、弟を嫁にするなどと言いかねん)
兄の弟への執着は、輝雅の悩みの種だった。
一方、江戸警察では佐倉が、相良、一ノ瀬、黒崎を呼び出していた。
京都での問題の知らせは、すぐに佐倉のもとにも届いていたのだ。
「吉岡さんがねぇ」
佐倉は腕を組み、頭を捻りながら、ため息ばかりついている。
「まさか暗殺されるとは」
佐倉と、暗殺された京都警察所長の吉岡とは深い仲だった。
「あそこは規律も厳しく、内部統制もしっかり取れていた」
「どこからヒビが入ったかは、わからんものだ」
相良が相槌を打つ。
「人ごとではないはずです」
黒崎が冷静な口調で佐倉と相良に釘を刺した。
「我々も、つい先日まで、所内に侵入を許していましたからね」
「どういうことですか?」
一ノ瀬は姿勢よく正座をしたまま、三人の顔を順番に見る。
「ここにも、ムカデ衆が混じっていたと?」
言って、そこで口をつぐんだ。
勘のいい一ノ瀬は瞬時に頭をめぐらし見当をつけたようだ。
「僕だけ知らないということは、僕の近くの人物ですね」
「丸山だ」
黒崎は瞬時に事実を突きつけた。
「これ以上、隠す意味はない」
「清雅と高岡に、お前の体調を気遣えと言われ、今まで言わなかった」
冷たく突き放した態度の黒崎の言葉を補うように、相良は一ノ瀬に向き直った。
「そうか……。
それで、黒崎さんが丸山くんを斬ったのですね」
一ノ瀬は、その日のことを思い出したように目を瞑り拳を握る。
「あれだけ近くにいながら気づかなかった。
お前の落ち度だ」
「いやいや、これは我々全ての問題だ」
黒崎の言葉を佐倉は否定した。
「まだ、丸山以外にもいるかもしれない」
「もしくは……」
相良は相変わらず緊張感なく耳くそをほじる。
「たぶらかされて、後から寝返る奴もでてくるだろう」
つぶやくように言いながらも、視線はするどく、何事かを考えているようだった。
本人は協力するつもりなどない。
しかし、そこをうまく使い、内部から事を起こす。
ここ江戸警察でも、見事にしてやられることとなる。




