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明治維新がこなかった....(下)  作者: yuyuko50
第一章 期待と疑念、それが紡ぐもの
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第16話 真面目な男

相良は二晩ほど寝ずに策を考えていた。


あかあかと、部屋を照らす行灯の光が相良の横顔を照らす。




筆で何事か書き留めながらも頭の片隅には、あの写真の風景が片時も離れずこびりついていた。




「くそいまいましい!」


言って、書いていた紙を握りつぶす。




幕府と西洋人の間で、何かが取り決められている。


そのことが、腹立たしくて仕方がなかった。


(あの技術を、金を払って幕府のものにするということだろうか?)




それなら、なおさらだ。


(ワシらには何も知らせず、責任だけを押しつける)





「警察は完全に蚊帳の外ですな」


障子がするりと開いて黒崎が音もなく入ってきた。




「責任だけ押し付けられるのは毎度のことだが」


相良は自分の力のなさを痛感していた。


この身分では、何も変えることなどできはしない。


せいぜい、警察と江戸の人々の暮らしを守るくらいだ。




「それで良いのではないですか?」


心をよんだように黒崎が答えた。




相良は黒崎をまじまじと見た。




「最近、みんなワシを慰めるな」


自嘲的な笑みを返す相良に黒崎の目はかすかに暗くなった。




「相良隊長は、真面目すぎる面がありますゆえ」


軽くため息をつくと


「そこがまた、魅力でもありますが」


言って、投げ捨てられた紙を拾った。




「あぁ。


 このようにお考えですか」


相良は、黒崎の反応を下から見ながら「ここは、どうしても行きたいと言っておるらしい」と、ため息混じりに指をさす。




そこは江戸でも人気のあるうなぎ屋だ。




「舐めてますね」




黒崎の言葉に相良は思わず声を出して笑った。


久々に笑った気がした。






清雅は高岡と見回りを行っていた。


行く先々で、江戸の庶民から西洋の飛行船のことを聞かれる。




そのたびに二人は「心配ない。警察に任せておけば間違いない」と言って聞かせた。




「警察の人たちがそう言ってくれるなら安心だな」


店先でおじさんが団子を焼きながら清雅と高岡に笑顔を向ける。




「ああやって言ってくれると、俺たちの普段の仕事が意味のあるもののように思えるよな」


高岡は自分の腰の刀に手をやった。




「近衛、お前、あの西洋の技術についてどう思う?」


清雅は回答に困った。


皆とは違い、清雅や一ノ瀬は、ある程度世界の情報に詳しい。




「俺は、恐ろしいと思う」


高岡は足を止め下を向いた。




「知らぬ間に、他の国では人が空を飛んでいるんだからな」




「俺たちは、幕府に飼われているようなものです」


清雅のなかなか過激な言葉に、高岡は驚いて顔を上げた。




「幕府のために働き、武家社会の存続を守る。


 それを正しいと信じているから、誰も外の世界を見ようともしない」




「近衛、お前、その発言は危険だぞ」




相手が高岡だったため、つい本音を言ってしまい清雅は苦笑いした。




「お前、よくそんな考えで警察なんかで働いてるよなぁ。変なやつだな」


感心したように言う高岡に、もっと変なのは一ノ瀬さんだと言ってやりたくなった。




「でも、今回の西洋人の護衛だけど、相良隊長は頭が痛いだろうな」


「丸山さんのこともあるから、第二隊からは誰も参加しないみたいですね」


もうすぐ配置の連絡があるだろう。




西洋人の江戸散歩が、何事もなく終わることを願う清雅だった。

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