第11話 江戸大混乱
「清雅くん!早く!!」
一ノ瀬はいの一番に清雅の袖をひき、外へと引っ張り出した。
「待ってください!
まだ俺、腰に刀もさしていない!」
一ノ瀬の走る早さに、足をもつれさせながら清雅は九曜を左腰に差し込む。
「ついに来た!
僕は絶対この目で見たいと思っていた!」
一ノ瀬のオタク具合はすごい。
怖さよりも興味が優っている。
エリオットの元に、第四隊の隊士が駆け込んだとほぼ時を同じくして、江戸中に恐怖の声が巻き起こった。
西洋文化を拒否し続けてきた日本に、ついに西洋から問答無用で使者が訪れたのだ。
空から
飛行船に乗って。
―― ドゥドゥドゥ
―― ガガガガガ!!!
頭上をとおる巨大な飛行船。
太陽の光を遮り、江戸の町に黒く大きな影を落とす。
聞いたこともないエンジン音が、まるで竜の咆哮のようにあたり一面にこだまする。
人々は恐怖に震え逃げ惑うが、どちらに逃げて良いか全くわからない。
何せ、恐ろしい音と巨大な影は、江戸の町の真上を飛んでいるのだから。
「龍神様のお怒りか!?」
「あやかしの出現じゃぁ!」
「誰かが大凧をとばしているのか?」
「城が空を飛んでおる!」
誰しもが正解を言葉にできない。
見たことも聞いたこともないからだ。
一ノ瀬と清雅は外に出て空を見上げた!
「ツェッペリン号?」
二人は声を揃える。
そして大笑いした。
「技術的には空へ浮かぶのが精一杯かと思っていたら、まさかここまで飛んでくるなんて」
一ノ瀬は興奮で顔が赤くなっている。
二人とは対照的に、江戸の町はパニックに見舞われ、荷物をまとめた人たちが、逃げ惑い、人と人がぶつかり合っていた。
「日比谷に向かっているかもしれませんね」
清雅が目を細める。
大名屋敷が立ち並ぶ場所ではあるが、鉄砲や大砲の訓練場などもある。
飛行船を停めるにはちょうど良いかもしれない。
「おいかけよう!」
二人は警察としての職務を放棄し、逃げ惑う人々を避けながら、子供のように飛行船を追いかけた。
警察所も大パニックに見舞われていた。
「稔!!
化け物があらわれた!
至急、警察隊を町へ!指揮をとってくれ!」
佐倉が廊下を走り相良を探す。
相良は庭から腕を組みながら空を見上げていた。
「あぁ。
人々を避難させないとなぁ」
なぜか落ち着き払っている。
「隊長!
我々はどうすればいいですか?」
藤堂が息を切らし、相良の元に走り込んでくる。
本音は、今すぐにでも逃げ出してしまいたい。
藤堂の背後では、バタバタとあちこちに走り回る隊士たちの姿が見え隠れする。
完全に冷静さを失っていた。
「ありゃあ化け物でもなんでもねぇ。
エンジンの音がするだろうが」
恐怖する隊士たちの顔を見ながら、相良は刀を腰にさした。
「エリオット!
第四隊全て出る。全員銃を持て。
第一隊も全員でるぞ。
第二隊は半分だ。一ノ瀬が先に行っているはずだ」
言って、ため息をついた。
(紫苑のやつ、勝手に動きやがって)
「残りは町の人間たちを誘導。
安全な場所へ避難させろ。
同時に、テロリストに動きがないか確認をおこたるな」
相良はその場に呆然と立っている佐倉を見た。
「佐倉さん、上から指示がくるかもしれん。
交渉役をよこすなら、黒崎を共につけてくれ」
その言葉を待っていたように、第三隊隊長黒崎が進み出る。
「指示がきた時点で式を飛ばし報告します」
黒崎も全く動揺していない。
先ほどまで右往左往していた隊士たちは、役割を聞き自然と落ち着きを取り戻した。
ここで自分たちが取り乱している場合ではない。
「榊、お前もエリオットと共に来い。
それと……」
相良は周りを見渡す。
「お前だ。
神崎、お前も来い」
新人隊士の二人が相良に直接名前を呼ばれた。
神崎は驚きの顔を相良に見せる。
(なぜ自分が名指しで呼ばれたのか??)
「神崎、お前の家は貿易商だったな?
お前の目で成り行きを見ておけ」
神崎は思わず横に立つ鬼頭の顔を見る。
入ったばかりの新人の家のことまで、相良は覚えているのだ。
鬼頭は多少自慢げに笑いながら頷いて見せた。
(これが、我らの隊長だ)とも言いたげだった。
「よし!出るぞ!」
颯爽と入り口へ向かう相良の姿を、岩崎は唇を噛み締め見送っていた。
(なぜ、俺だけ……)
悔しさのあまり、拳を握る手のひらに爪が食い込んでいた。




