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孤得集 ――届かなかった人たち

呼ばれた人

作者: FU
掲載日:2026/05/10

夜、僕はあの道を通った。


その道は昼間でもにぎやかではなかったが、夜になると、街に忘れられた場所みたいに見えた。街灯は間隔をあけて立っていて、一つ一つが自分の真下だけを小さく照らしている。その先のことには、何の責任も持たない。


僕はゆっくり歩いていた。三つ目の街灯まで来たとき、犬が吠えた。


左側からだった。


そこには暗闇があった。暗闇の向こうには、低い木があるのかもしれないし、塀があるのかもしれない。あるいは何もないのかもしれない。犬の姿は見えなかった。ただ一度だけ、吠えた。


僕は立ち止まった。


普通なら、犬の鳴き声に人が返事をする必要はない。犬が吠える。通行人は通り過ぎる。それで全部だ。


けれど、その夜は違った。


その道には僕しかいなかった。


僕しかいないのなら、あの一声が僕に向けられたものではないと、どうして言えるだろう。


僕はしばらく立っていた。もう一度吠えるのを待っていた。さっきのが偶然だと証明してほしかった。


犬は本当にもう一度吠えた。


今度はさっきより短かった。


催促するようだった。


僕は咳払いをして、言った。


「聞こえたよ」


暗闇から返事はなかった。


僕はまた言った。


「通りがかっただけなんだ」


やはり反応はなかった。


少しして、犬は三度目に吠えた。


そのとき、僕は急にわかった。犬はその返事を受け入れていないのだ。


僕は間違った言語を使っていた。


それには少し困った。僕は犬語を知らない。けれど呼ばれた者が、いつまでも聞こえないふりをしているわけにもいかない。


周囲を見回した。


誰もいなかった。


だから僕は口を開けて、こちらも一声吠えた。


まるで犬らしくなかった。


声が出た瞬間、自分でも驚いた。ざらついた、短い音だった。まるで体の中から、知らない小さな塊がこぼれ落ちたみたいだった。


犬は吠えなくなった。


僕も吠えなかった。


暗闇は静かになった。


僕はその場で少し待った。誰かが出てくることも、何かが襲ってくることもなかった。街灯は相変わらず自分の足元だけを照らしていて、風が葉の間を抜け、かすかな音を立てていた。


この件は、終わったらしかった。


僕はまた歩き出した。


次の街灯まで来たとき、背後でまた犬が吠えた。


僕は立ち止まった。振り返らなかった。


その声はさっきと違っていた。別の犬のようでもあったし、同じ犬が場所を変えただけのようでもあった。夜には判断しにくい。ともかく、吠えた。


この一声にも答えるべきだと、僕はわかっていた。


一度目に答えたのに、二度目に答えないのは、前後の辻褄が合わない。辻褄が合わないというのは、かなり面倒なことだ。


だから僕はまた一声吠えた。


やはり犬には似ていなかった。


今度は、右手の遠くからも犬が吠えた。


さらにその奥からも、一声聞こえた。


僕は二つの街灯の間に立ち、いつのまにか、たくさんの見えない犬たちに呼び止められていることに気づいた。


犬たちは一匹ずつ吠えた。


急いでもいない。怒ってもいない。点呼のようだった。


僕は仕方なく、一声ずつ返した。


一声目は小さく。

二声目は少し大きく。

三声目には、もういくらか慣れていた。


五声目になるころ、ふと不安になった。近くのアパートの誰かが聞いていたら、窓を開けてこちらを見るのではないか。


道は、来たときより長くなっているようだった。街灯が一つ一つ、やけにゆっくりと後ろへ下がっていく。コンビニの前を通った。中では店員がうつむいて棚を整えていた。彼はこちらを見なかった。ガラス扉には僕の影が映っていた。普通の通行人と変わらなかった。


それが不思議だった。


さっきまで吠えていた僕が、まだ吠えていない人間と同じ顔をしている。


交差点に着くと、最後の犬が吠えた。


今度は近かった。


犬が見えた。


道路の向こう側に立っていた。痩せた黄色い犬で、尻尾を垂らしていた。こちらへ来る気配も、攻撃する様子もなかった。ただ僕を見て、一度吠えた。


僕も一度吠えた。


今度は、少しだけ犬に似ていた。


犬が僕を見た。僕も犬を見た。


信号が赤から青に変わった。犬は渡ってこなかった。僕も渡らなかった。


しばらくして、犬は向きを変え、歩いていった。


僕はその場に立っていた。


青信号が、また赤に変わるまで。


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