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「キミがアシスタントとして麗佳に付いて、彼女の代わりにデザートを作れば問題ないだろ? カメラの前で調理するシーンを撮らなければいいだけだから、どうにでもなるよ」
レシピを考えるのは私。
バレないように陰でこっそりデザートを作るのも私。
だったら彼女の役割は何?
人が苦労して作り上げたデザートを、さも自分が作ったかのように厨房から運び、得意気にカメラの前に立つ。スタイルの良い彼女には、さぞ白いコックコートが似合うだろう。
七星は悔しさを握り潰すように、拳に力を込める。
馬鹿馬鹿しくて吐き気がした。
「やっぱり、あなたにレシピを提供してきたこと、間違いだった。他人が作った料理で称賛を浴びても、虚しいだけじゃないの? 広輝はそれでいいの?」
本当は、料理人としての矜持はないのかと怒鳴り散らしたかった。けれど広輝をここまで増長させてしまったのは、紛れもなく自分だ。言わば共犯者だろう。
広輝を一方的に責める資格はない。
「なんだよ、それ。キミがどんなに凄い料理を作ったって、どうせ一生、日の目を見ることなんかないだろ。だから俺たちが、キミの料理を世に出してやるんだ。感謝してほしいくらいなんだけど」
広輝はまるで映画スターのように、大きな身振りで肩をすくめた。
七星は一つも届かない言葉に虚しくなり、力なくうつむく。
「私は別に、有名になったりメディアに取り上げられなくてもいいよ。ただ食べてくれた人が『美味しい』って言ってくれたら、それでいい」
七星の言葉に苛立ったのか、麗佳が舌打ちして一歩前に進み出た。カツンとヒールの冷たい音が、狭い食品庫に響く。
「だーかーらー。その美味しいって言ってくれる客はどっから湧いてくるわけ? あんた一人じゃ到底無理だけど、私と広輝だったら注目度が高まって、たっくさん客を呼べるの。みんな『美味しい』って言うわよ。それでいいでしょ?」




